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清田調査員を偲んで ①
しおりを挟む第一話
清田という職人気質の調査員がいた。
だが、彼はもうこの世にはいない。
十六年ほど前に突然逝ってしまったからである。
私が探偵調査会社を辞してから、すでに二十一年が経ち、そのあと束の間探偵仲間とサイバーリサーチという調査業を営んでいたがそれも数年で終わり、今は一応探偵業の届けはしているが、体力等の問題もあって時々調査を受ける程度である。
懐かしき探偵調査会社時代の仲間たちは、私が辞めてから知っているだけで六人も亡くなっている。
清田、田端、多聞、秋山、岡本、そして私の恩師である角さんという調査員で、この中でひとりは事故死、ふたりは自殺である。
田端の死因は交通事故、しかも100%相手に非がある事故だったと聞いている。
田端は若いころから車やバイクが好きで、運転技術は二十数人いた調査員の中でもトップクラスであった。
ランサーエボリューションという車を購入し、大阪は南港というところで、いわゆる「ゼロヨン」と呼ばれている、つまり高速ギアチェンジの加速スピード度を競うものに度々チャレンジしていた。
車を下駄のように操る「秋山」という伝説の調査員もいたが、この田端の運転技術は無茶をしない範囲で高度であった。
尾行調査では無茶をしない分だけ失尾(見失うこと)もたまにあったが、調査が発覚することは殆どなかったと記憶する。
田端の結婚は三十代後半の晩年で、相手は中国人女性である。
調査会社では海外への尾行調査も入ることがあり、彼がもう一人の調査員と中国へ二週間ほど依頼人の夫の尾行に行った際に、現地で通訳を担当した女性に惚れたのであった。
結果的には結婚生活は五、六年で、子供はできなかったようだが、最後に彼と電話で話をしたのは2005年ごろ、亡くなる二年ほど前だったか。
さて、話は田端調査員のことではない。
彼と昔からの知り合いで、田端の誘いで探偵調査会社に入社してきた清田のことである。
清田は拙著「探偵手帳」の「石田君の旅だち」に登場する石田調査員と幼馴染み、同じ高校の同級生であった。
つまり石田と清田と田端は若いころからの知り合いだったわけである。
「石田君の旅だち」では清田はほんの少ししか登場しないが、清田の前妻が石田が情熱を燃やしながら失恋した女性であったと聞く。
だが、そのあたりのいわゆる三角関係については詳しく知らない。
清田が入社してきたのは平成八年ごろだったか、古い話だが大阪の八尾市というところで奥さんと二人暮らしであった。
ちょうどそのころ、私は妻と離婚して五年程が経っていて、天満にある調査会社の社宅で単身生活を送っていた。
尾行調査で彼と初めて組んだのは、私が数年付き合ったある女性に振られたてホヤホヤのころだった。
その日の尾行調査を見事に失敗し(見失い)、帰りに彼のマンションに寄って、残念酒を飲んだのだ。
そのころはまだ清田も奥さんと円満で、独特の妖艶さを放っていた奥さんにドキドキすると同時に、そんな奥さんと暮らす彼を羨ましく思ったものである。
だが、円満そうに見えたのは表向きだけで、夫婦仲はガラス細工のような状態だったのだ。
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