探偵手帳・番外編 

Pero

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昔の男との縁切り証明依頼 ④

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        その四


 御手洗氏へのアポイント一回目は話の途中で向こうから電話を切られてしまった。

 「貴方がご存知の人の縁談話があるので、お会いしてその人についてのコメントを得たい」と申し出たが、「誰のことかを言わないのなら会えない」といわゆるガチャ切りされてしまったのだった。
 無理もないことである。

 ここで簡単に諦めるわけにはいかない。
 この日は架けなかったが、翌日の朝10時ごろに再度アタックしてみた。
 不動産屋の始業時刻は大体10時ごろと決まっている。

 昨日と同様に女性が応対に出た。
 丁寧にこちらの名前を伝えて、御手洗氏に
 取り次いでいただくよう依頼した。

 しかしいったん電話が保留になったあと「御手洗はまだ出社しておりません」との返答だった。

 一時間後、再びアポイントの電話。
 同じ女性が応対に出た。
 だが、「御手洗は取引先のもとに直行するとの連絡が入り、不在でございます」との返答であった。


 「ホンマでっか?」と言いたいところだったがやむなく切電。
 依頼人への報告書手渡し日まで二週間を切ってしまった。

 翌日さらに電話アポ、同様の女性、「御手洗は外出中、帰社時刻?不明です」との返答。
 さらに次の日も時間帯を変えて三度架けてみたが「御手洗外出中、帰社時刻不明」の返答、女性の声も心なしか冷たく感じるのであった。

 通常、内偵担当は調査案件を4、5件持って、平行して調査にあたる。
 1件の調査が終了して報告書を書き上げて次の調査に入るのでは効率が悪く、1件の調査が一気に終わるわけでもない。

 従って、複数の案件をいつも持っているわけだが、繁忙期には手持ち案件が10件近くになることもある。

 そうなると、聞き込み調査の際にどの案件だったか分からなくなってしまう、ってなことは有り得ないが、調査が一向に進まない案件があると焦る。

 今回のこの件も、調査内容自体は一発で終わる簡単なものなのだが、その一発のためのアポイントが取れないのだった。
 いよいよアポなし訪問の強引策に出るしかないか。

 
 阪神電鉄打出駅は大阪梅田阪神百貨店地下の梅田駅より特急電車に乗り、西宮駅で各駅停車に乗り換えて三つ目の駅である。

 平安商事は水曜日が定休日なので、その前日の火曜日の夕方にアポイントなしで訪問することにした。
 翌日が休みだと御手洗氏も気分が普段よりリラックスしていると思ったからである。

 午後四時過ぎ、平安商事は打出駅を下車して浜側(南方向)へ少し歩いたところにすぐ見つかった。
 入り口横のガラス張りのスペースには、賃貸物件や分譲物件の資料がたくさん貼られていた。
 仲介が主体の業容のようだ。
 私は勢いをつけてドアを開けた。

 店舗事務所はさほど広くなく、入ったところに低い受付カウンターがあり、椅子が3脚、カウンターの向こうには女性のスタッフが2人と若い男性が一人、その向こうについ立があった。

 「御手洗社長にお目にかかりたいのですが・・・」

 従業員の「いらっしゃいませ」の声が終わらないうちに私は言った。

 奥のつい立の向こうから長身の男性が現れた。
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