探偵手帳・番外編 

Pero

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ある一家の行方を追って

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       第一話
 
依頼人は香川県丸亀市出身の三十二歳の男性。
 香川県内の高校を卒業後、大学進学のため故郷を離れ、東京へと出た。

 高校時代は硬式テニス部に所属し、県内では常にベスト8に入る程度の実力があった。

 被調査人となる矢部邦子とは同級生で、高校二年の時、硬式テニスの夏の県大会で知り合い、以後交際を続けていた。

 たまたま同じ丸亀市内に居住していて、依頼人宅は父が丸亀市役所に勤務する公務員家庭であったが、矢部邦子の家庭は両親が鮮魚店を営んでいた。

 瀬戸内海で水揚げされる鮮魚のほか、市内の土器川で父・矢部富春が自ら獲った川魚を店に並べていた。

 店の屋号は「魚富」と称し、丸亀市魚屋町に小さな店舗を借りて、邦子が生まれて間もない頃から商売を始めたとされている。

 自宅は土居町にあり、土器川が近かったこともあって、昔は川魚が新鮮だったので瀬戸内の鮮魚よりも川魚が主だったといわれている。

 依頼人の話では、交際中は高校生だったこともあり、自宅に立ち寄ったことはなかったが、土器川沿いの平屋住宅に両親と弟との四人家族であったとのことだ。

 邦子は高校を卒業後、隣町の琴平町にある有名観光ホテルにフロント係として勤めた。   
 琴平町は金刀比羅宮で有名で、いわゆる金毘羅さん参りの観光客で賑わう。

 両親が営む鮮魚店「魚富」は、大手スーパーやショッピングセンターなどの進出で、昔に比べて売り上げは随分少なく、家族四人が暮らすには厳しい状態が続いていた。

 そのため邦子は、希望としては看護専門学校へ進みたかったようだが、二歳年下の弟のこともあって高校を卒業後すぐに働いたと依頼人は語っていた。

 依頼人は都内の大学を卒業後、大手IT企業に就職し、いずれは邦子を東京に呼び寄せて結婚を望んでいた。
 そのため、依頼人と邦子の交際は決して躓きなどはなく、年に二度ほど丸亀に帰省した際には必ず会って、お互いの気持ちを確かめ合い、将来をも語り合っていたという。

 依頼人としては、社会人になって三年、四年が経過した頃に、そろそろ結婚したい意向を伝えたらしいのだが、邦子からは両親の元から今すぐ離れるわけにはいかないとの理由で快諾を得られず、一年、また一年と過ぎていった。

 ところが二十七歳の春に、邦子への郵便物が突然転居先不明で返送されてきた。
 同時に電話連絡も取れなくなってしまい、依頼人は焦る。
 だが、日々の仕事は待ってくれない。

 ようやくその年の夏に数日休みを取って帰省したのだが・・・。
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