1 / 144
ある一家の行方を追って
しおりを挟む
第一話
依頼人は香川県丸亀市出身の三十二歳の男性。
香川県内の高校を卒業後、大学進学のため故郷を離れ、東京へと出た。
高校時代は硬式テニス部に所属し、県内では常にベスト8に入る程度の実力があった。
被調査人となる矢部邦子とは同級生で、高校二年の時、硬式テニスの夏の県大会で知り合い、以後交際を続けていた。
たまたま同じ丸亀市内に居住していて、依頼人宅は父が丸亀市役所に勤務する公務員家庭であったが、矢部邦子の家庭は両親が鮮魚店を営んでいた。
瀬戸内海で水揚げされる鮮魚のほか、市内の土器川で父・矢部富春が自ら獲った川魚を店に並べていた。
店の屋号は「魚富」と称し、丸亀市魚屋町に小さな店舗を借りて、邦子が生まれて間もない頃から商売を始めたとされている。
自宅は土居町にあり、土器川が近かったこともあって、昔は川魚が新鮮だったので瀬戸内の鮮魚よりも川魚が主だったといわれている。
依頼人の話では、交際中は高校生だったこともあり、自宅に立ち寄ったことはなかったが、土器川沿いの平屋住宅に両親と弟との四人家族であったとのことだ。
邦子は高校を卒業後、隣町の琴平町にある有名観光ホテルにフロント係として勤めた。
琴平町は金刀比羅宮で有名で、いわゆる金毘羅さん参りの観光客で賑わう。
両親が営む鮮魚店「魚富」は、大手スーパーやショッピングセンターなどの進出で、昔に比べて売り上げは随分少なく、家族四人が暮らすには厳しい状態が続いていた。
そのため邦子は、希望としては看護専門学校へ進みたかったようだが、二歳年下の弟のこともあって高校を卒業後すぐに働いたと依頼人は語っていた。
依頼人は都内の大学を卒業後、大手IT企業に就職し、いずれは邦子を東京に呼び寄せて結婚を望んでいた。
そのため、依頼人と邦子の交際は決して躓きなどはなく、年に二度ほど丸亀に帰省した際には必ず会って、お互いの気持ちを確かめ合い、将来をも語り合っていたという。
依頼人としては、社会人になって三年、四年が経過した頃に、そろそろ結婚したい意向を伝えたらしいのだが、邦子からは両親の元から今すぐ離れるわけにはいかないとの理由で快諾を得られず、一年、また一年と過ぎていった。
ところが二十七歳の春に、邦子への郵便物が突然転居先不明で返送されてきた。
同時に電話連絡も取れなくなってしまい、依頼人は焦る。
だが、日々の仕事は待ってくれない。
ようやくその年の夏に数日休みを取って帰省したのだが・・・。
依頼人は香川県丸亀市出身の三十二歳の男性。
香川県内の高校を卒業後、大学進学のため故郷を離れ、東京へと出た。
高校時代は硬式テニス部に所属し、県内では常にベスト8に入る程度の実力があった。
被調査人となる矢部邦子とは同級生で、高校二年の時、硬式テニスの夏の県大会で知り合い、以後交際を続けていた。
たまたま同じ丸亀市内に居住していて、依頼人宅は父が丸亀市役所に勤務する公務員家庭であったが、矢部邦子の家庭は両親が鮮魚店を営んでいた。
瀬戸内海で水揚げされる鮮魚のほか、市内の土器川で父・矢部富春が自ら獲った川魚を店に並べていた。
店の屋号は「魚富」と称し、丸亀市魚屋町に小さな店舗を借りて、邦子が生まれて間もない頃から商売を始めたとされている。
自宅は土居町にあり、土器川が近かったこともあって、昔は川魚が新鮮だったので瀬戸内の鮮魚よりも川魚が主だったといわれている。
依頼人の話では、交際中は高校生だったこともあり、自宅に立ち寄ったことはなかったが、土器川沿いの平屋住宅に両親と弟との四人家族であったとのことだ。
邦子は高校を卒業後、隣町の琴平町にある有名観光ホテルにフロント係として勤めた。
琴平町は金刀比羅宮で有名で、いわゆる金毘羅さん参りの観光客で賑わう。
両親が営む鮮魚店「魚富」は、大手スーパーやショッピングセンターなどの進出で、昔に比べて売り上げは随分少なく、家族四人が暮らすには厳しい状態が続いていた。
そのため邦子は、希望としては看護専門学校へ進みたかったようだが、二歳年下の弟のこともあって高校を卒業後すぐに働いたと依頼人は語っていた。
依頼人は都内の大学を卒業後、大手IT企業に就職し、いずれは邦子を東京に呼び寄せて結婚を望んでいた。
そのため、依頼人と邦子の交際は決して躓きなどはなく、年に二度ほど丸亀に帰省した際には必ず会って、お互いの気持ちを確かめ合い、将来をも語り合っていたという。
依頼人としては、社会人になって三年、四年が経過した頃に、そろそろ結婚したい意向を伝えたらしいのだが、邦子からは両親の元から今すぐ離れるわけにはいかないとの理由で快諾を得られず、一年、また一年と過ぎていった。
ところが二十七歳の春に、邦子への郵便物が突然転居先不明で返送されてきた。
同時に電話連絡も取れなくなってしまい、依頼人は焦る。
だが、日々の仕事は待ってくれない。
ようやくその年の夏に数日休みを取って帰省したのだが・・・。
1
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

サバイディー、南方上座部仏教国の夕陽
Pero
エッセイ・ノンフィクション
タイの北側、ベトナムとカンボジアの東側、そして中国の南に位置するラオスという小国。そんな国があったのかという印象があるが、歴史は古くレッキとした仏教国で、しかも南方上座部仏教という名称である。もしかすればかなり高度な仏教なのかと思い、2001年の春に最初の旅に出てみた。
以後、訪れた回数は二十回を超え、数々の出会い、アクシデント、そしてある時は地元の子供たちに命を救われたこともあり、さらに2015年には髪と眉をある寺院の僧侶に剃ってもらい、ますますこの国の虜(とりこ)となっていくのでした。
クルマでソロキャンプ🏕
アーエル
エッセイ・ノンフィクション
日常の柵(しがらみ)から離れて過ごすキャンプ。
仲間で
家族で
恋人で
そして……ひとりで
誰にも気兼ねなく
それでいて「不便を感じない」キャンプを楽しむ
「普通ではない」私の
ゆるりとしたリアル(離れした)キャンプ記録です。
他社でも公開☆
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

こども病院の日常
moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。
18歳以下の子供が通う病院、
診療科はたくさんあります。
内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc…
ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。
恋愛要素などは一切ありません。
密着病院24時!的な感じです。
人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。
※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。
歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる