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第六章 ベトナム旅行記・アイスコーヒーウイズミルク
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第十四
旧郵便局辺りのメインストリートにはレストランやみやげもの屋やツーリストなどが並んでいて、すっかり日が暮れてもまだまだ大勢の人で溢れていた。
階段道路あたりでは露店にアイスクリーム屋や路上理髪店、フランスパン屋などがズラーと並び、理髪店では欧米人若者が調髪中であった。
実は昼食を市場で食べたあとでこの前を通りかかった時、髭が伸び放題でバンダナを巻いていた僕に対して理髪店主が髭を剃ってやろうと言った。
「ホメイニみたいに伸ばすから結構だ」
とそのとき僕は断った。
でも今は綺麗に髭を剃っている僕を見て、客の髪を切りながらちょっと首をすくめて、「何だ、剃っているじゃないか」という感じで苦笑いをしていた。
ツーリストの並びにはレストランが数軒並んでいたが、彼女は僕達の宿の一階に店の案内の張り紙がしてあったイタリアンレストランを探して、ストリートの一番奥の方で営業しているその店に入って行った。
店内は薄暗く、テーブルにはローソクが置かれてなかなかの雰囲気である。
「お肉を食べたいなぁ」
彼女はそういいながらメニューを見たが、希望の料理が見つからなかったようで、しばらくして店の人に、「じゃあまた」と言って外に出た。
僕たちがブラブラ歩いていると、明日のトレッキングガイドを依頼している例のマイケル君が前から歩いてきた。(本当にサ・パの街は狭いということがお分かりいただけると思う)
三人でブラブラとどうしたんだ、という顔つきだったので、「夕食を何処で食べようか迷っているんだ」と僕が言った。
「それならあそこの店は美味しくてチープだ」
彼が指差す方向のメインストリートに面して営業しているその店に僕たちは入り、マイケルには「じゃ、明日よろしくね」と言って別れた。
店内は四人から六人掛けのテーブル席が八卓ほどあり、この辺りでは普通規模のレストランだが、ちょうど夕食時というのに客は一つのテーブルに四人が食事をしているだけだった。
僕達は席に座り、彼女とオレンジさんが店員が持って来たメニューをしばらく見ていた。
「ちょっと高いんじゃない?」
彼女がポツリといった。どうやら値段が気に入らない様子である。
彼女達は、例えば肉とシーフード入りの焼き飯が一万ドンだとか、肉と野菜の春巻きが八千ドンであるとか討論していらっしゃるのだが、僕なんかは一万ドンが一万五千ドンであっても、三十八円位の差額なのでいいや!って思ってしまう。
本当に女性はシビアで、特に彼女なんかは何事にも決して妥協をしない人のようだ。
のちに僕が理解したことは、旅先ではその国や町の貨幣価値に気持を順応させないと、ともすれば現地の人達に失礼にあたる行為を無意識にしがちである、ということらしいのだ。
結局はそのレストランも出て、二軒隣で営業を行っているほぼ同じ程度の規模のレストランに入った。
店内には八人程が座れるテーブル席が四卓と、四人掛けのテーブル席が二卓置かれ、奥の部屋には八人程が座れる丸テーブル席が二卓あり、外から見たより随分大きなレストランだった。
既に先客十数人が四ヵ所で食事をしていて、なかなかの繁盛振りである。
僕達はベトナム人とみられる六人の男性が食事をしている隣のテーブル席に座った。
「向こうの人達が食べている鍋料理を食べてみない?」
その六人は鍋料理をみんなで楽しそうに食べていたのだ。
ベトナムにも鍋があることに驚いたが、彼女の提案にオレンジさんも同意し、さらに春巻きとフライドライス・ウイズ・シーフードなんていう長い名前の料理やハムと野菜の炒め物などを注文、お二人とも大変食欲旺盛で結構なことである。
彼女達は僕には何を食べたいかもあまり聞いてくれないのでキョトンとして座っていると、「探偵さんはビールを飲むんでしょ」とオレンジさんがいうので、「じゃあ、ラオ・カイビール!」と下僕よろしく従ったのであった。
ベトナム鍋はスープがほぼ日本の昆布ダシに近く、それに数種類の野菜を入れて、牛肉をしゃぶしゃぶのようにしていただき、最後にラーメン(インスタントラーメン風)を入れるのだが、これがなかなかいけた。
彼女達はお酒を全然飲まなくて、オレンジジュースなんかを注文し、僕だけがラオ・カイビールをグビグビと飲んだ。
かなり食事も進んだころに、隣のテーブルで盛り上がっていたベトナム人風六人グループの一人がこちらに来て、すっかりご機嫌な様子で僕に小さなグラスに入ったお酒を勧めてきた。
僕は遠慮なくいただき、お返しにビールを勧めると、彼は嬉しそうにビールを注いだグラスを一気に飲み干した。
「日本の方達ですか?」
彼は日本語で話しかけてきた。
彼女とオレンジさんは【ペロ吉はお酒を勧められたら弱いんだから】とちょっと迷惑そうな顔をしていた。
でも日越親善じゃないか、楽しくやろうよ。
旧郵便局辺りのメインストリートにはレストランやみやげもの屋やツーリストなどが並んでいて、すっかり日が暮れてもまだまだ大勢の人で溢れていた。
階段道路あたりでは露店にアイスクリーム屋や路上理髪店、フランスパン屋などがズラーと並び、理髪店では欧米人若者が調髪中であった。
実は昼食を市場で食べたあとでこの前を通りかかった時、髭が伸び放題でバンダナを巻いていた僕に対して理髪店主が髭を剃ってやろうと言った。
「ホメイニみたいに伸ばすから結構だ」
とそのとき僕は断った。
でも今は綺麗に髭を剃っている僕を見て、客の髪を切りながらちょっと首をすくめて、「何だ、剃っているじゃないか」という感じで苦笑いをしていた。
ツーリストの並びにはレストランが数軒並んでいたが、彼女は僕達の宿の一階に店の案内の張り紙がしてあったイタリアンレストランを探して、ストリートの一番奥の方で営業しているその店に入って行った。
店内は薄暗く、テーブルにはローソクが置かれてなかなかの雰囲気である。
「お肉を食べたいなぁ」
彼女はそういいながらメニューを見たが、希望の料理が見つからなかったようで、しばらくして店の人に、「じゃあまた」と言って外に出た。
僕たちがブラブラ歩いていると、明日のトレッキングガイドを依頼している例のマイケル君が前から歩いてきた。(本当にサ・パの街は狭いということがお分かりいただけると思う)
三人でブラブラとどうしたんだ、という顔つきだったので、「夕食を何処で食べようか迷っているんだ」と僕が言った。
「それならあそこの店は美味しくてチープだ」
彼が指差す方向のメインストリートに面して営業しているその店に僕たちは入り、マイケルには「じゃ、明日よろしくね」と言って別れた。
店内は四人から六人掛けのテーブル席が八卓ほどあり、この辺りでは普通規模のレストランだが、ちょうど夕食時というのに客は一つのテーブルに四人が食事をしているだけだった。
僕達は席に座り、彼女とオレンジさんが店員が持って来たメニューをしばらく見ていた。
「ちょっと高いんじゃない?」
彼女がポツリといった。どうやら値段が気に入らない様子である。
彼女達は、例えば肉とシーフード入りの焼き飯が一万ドンだとか、肉と野菜の春巻きが八千ドンであるとか討論していらっしゃるのだが、僕なんかは一万ドンが一万五千ドンであっても、三十八円位の差額なのでいいや!って思ってしまう。
本当に女性はシビアで、特に彼女なんかは何事にも決して妥協をしない人のようだ。
のちに僕が理解したことは、旅先ではその国や町の貨幣価値に気持を順応させないと、ともすれば現地の人達に失礼にあたる行為を無意識にしがちである、ということらしいのだ。
結局はそのレストランも出て、二軒隣で営業を行っているほぼ同じ程度の規模のレストランに入った。
店内には八人程が座れるテーブル席が四卓と、四人掛けのテーブル席が二卓置かれ、奥の部屋には八人程が座れる丸テーブル席が二卓あり、外から見たより随分大きなレストランだった。
既に先客十数人が四ヵ所で食事をしていて、なかなかの繁盛振りである。
僕達はベトナム人とみられる六人の男性が食事をしている隣のテーブル席に座った。
「向こうの人達が食べている鍋料理を食べてみない?」
その六人は鍋料理をみんなで楽しそうに食べていたのだ。
ベトナムにも鍋があることに驚いたが、彼女の提案にオレンジさんも同意し、さらに春巻きとフライドライス・ウイズ・シーフードなんていう長い名前の料理やハムと野菜の炒め物などを注文、お二人とも大変食欲旺盛で結構なことである。
彼女達は僕には何を食べたいかもあまり聞いてくれないのでキョトンとして座っていると、「探偵さんはビールを飲むんでしょ」とオレンジさんがいうので、「じゃあ、ラオ・カイビール!」と下僕よろしく従ったのであった。
ベトナム鍋はスープがほぼ日本の昆布ダシに近く、それに数種類の野菜を入れて、牛肉をしゃぶしゃぶのようにしていただき、最後にラーメン(インスタントラーメン風)を入れるのだが、これがなかなかいけた。
彼女達はお酒を全然飲まなくて、オレンジジュースなんかを注文し、僕だけがラオ・カイビールをグビグビと飲んだ。
かなり食事も進んだころに、隣のテーブルで盛り上がっていたベトナム人風六人グループの一人がこちらに来て、すっかりご機嫌な様子で僕に小さなグラスに入ったお酒を勧めてきた。
僕は遠慮なくいただき、お返しにビールを勧めると、彼は嬉しそうにビールを注いだグラスを一気に飲み干した。
「日本の方達ですか?」
彼は日本語で話しかけてきた。
彼女とオレンジさんは【ペロ吉はお酒を勧められたら弱いんだから】とちょっと迷惑そうな顔をしていた。
でも日越親善じゃないか、楽しくやろうよ。
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