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第六章 ベトナム旅行記・アイスコーヒーウイズミルク
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しおりを挟む※この旅行記は遥か昔、2000年の8月のもので、書いたのはその年の秋ですが、このたびあるきっかけからこの「サバイディー・南方上座部仏教国の夕陽」の第六章として加筆修正しながら連載することにしました。
24年も前なので現在のベトナム状況とはかなり大きく変わっているのは当然で、旅の参考にはならないかも知れませんが、昔はこんなふうだったんだと思っていただければ嬉しいです。
第一話
2000年8月のお盆休みに入る少し前、夕方の関空発バンコク行きのタイ国際航空便に僕は乗っていた。
今回の旅は自分でも何を目的にしているのか分からない、いや分かっているのだがそれを最大の目的で行くのは、この年で恥ずかしい行為ではないかという後ろめたさを感じているのかもしれない。
目的地はベトナムの首都ハノイから列車で約十時間のところにあるラオカイという中国国境の町から、さらにラオス方面に三十キロ程の距離にあるサ・パという高地にある小さな村である。
インドシナ半島の東部を占めるベトナムは、正式国名をベトナム社会主義共和国と名称し、面積は約三十三万平方㎞、人口は推定七千七百万人とされ(2022年には9946万人なので、20年余りで二千万人以上も人口増です。子供が多く国民の平均年齢が若いので日本とは真逆)、国土は南北に長いS字型をしており、北部は中国、西部をラオスとカンボジアに接している。
第二次世界大戦が終わり、フランスのインドシナ支配による長年の抑圧からの開放もつかの間、国土は南と北とに分断され、共産圏が後ろ盾の北ベトナムとアメリカが支援という名目で入り込んだ南ベトナムとの内戦となった。
一九七五年四月にサイゴン陥落とともにベトナム戦争は終結し、翌一九七六年六月に悲願の南北統一が達成され、その後カンボジアや中国との紛争、経済破綻、難民の流出などを経て、ドイ・モイ政策(開放政策)により経済力をつけ始め、激しく変わろうとしている国である。
(昨年2023年の暮れに約十年ぶりにホーチミンを訪れましたが、町はもう東京の渋谷みたいでした・・・オーバーだけど)
バンコクへの機内で、ある日本人ビジネスマンと席が隣同士になった。
その男性は程なく気さくに話しかけてきた。
「私は日本〇〇(一部上場の電装メーカー)に勤務するサラリーマンでしてね。二年程前にタイ支社に単身赴任して、今年のお盆前に四日間だけ日本に帰って、今タイに戻る途中なのですよ。たった四日間ですよ、何ができるっていうのですか?
長男は来年高校受験でしてね。それがあまり勉強しないのでカツを入れてやろうと思っていたのですが、いざ久しぶりに顔を合わせると可愛い息子ですからきついこともいえなくてね」
いきなりプライベートな話をしてくれるからこちらも楽しくなってきた。
僕にも大学受験を控えた息子が離れた所で暮らしているのだが(今は二人とも40歳を超えたサラリーマンです)、それには触れずに、「海外単身赴任は大変ですね。でもカッコいいじゃないですか、息子さんもきっとジャパニーズ企業戦士のお父さんを尊敬していますよ」と、慰めて言ったものだ。
「貴方はビジネスで行かれるのですか?それとも観光ですか?」
ジーンズにバンダナを巻いた怪しげな中年男という感じのする僕の姿から、観光で行くのはほぼ間違いないと思っているはずなのだが、あえて気を遣って彼は問いかけた。
「僕はタイには用事がないんです。すぐにベトナムのハノイに飛んで、その日の夜行列車で中国国境近くまで行くのですが、一応観光ということになります」と一応も二応もないのだがともかく説明した。
「お盆休みなのですね。お仕事は何をされているのですか?」
彼はさらに聞いてくる。
「ちょっと怪しげな仕事なのです。でも法に触れるようなことはしていませんよ」
僕は冗談交じりにその場を切り抜けた。(職業を正直にいうとそこからますます核心に至る質問をされるか、黙り込まれるかどちらかなのである)
僕は四十六才の中年の冴えない探偵である。(今はジジイですけど)
といっても、自分で事務所を構えているわけではなく、NTTのタウンページの目次では探偵興信所という項目に掲載されている大阪のある会社に勤めている。
勤務する会社は業界最大手らしいのだが、業界自体は未だ許認可制ではなく届出制という形態であるため、調査業の社会的必要性など企業目的を明確に持たない胡散臭い調査会社や、依頼人とのトラブルを度々引き起こす悪質な業者が未だに生き残っており、業界のイメージを悪くしているのだ。(現在は業界も改善されています)
まあそんなことは今回の旅に直接の関係はないので、最初にくどくど語っても仕方がない。
「タイはすごいですよ。勿論貧富の差は激しいですが、教育を受けることができる家庭に育った者はよく勉強をしていますよ。
私の会社にもタイ人の技術者や設計士がたくさんいますが、アメリカに留学経験のある者も多くて、英語は堪能だし専門的な知識もすごいですよ。それに比べれば日本人は駄目ですね。ハングリー精神に欠けるというのでしょうか」
「そうですよね、日本の学生はあまり勉強していないようですからね。勿論一部の人は学生本来の姿で勉学に励んでいるものもいるでしょうが、何しろ日本は情報過多で、しかも娯楽が多すぎますから、もはやワンダーランド化されていますよね」
そんな話をして少しウトウトとしたあと、午後十時頃に飛行機はタイのバンコク・ドムアン空港に着いた。
「ではお元気で。くれぐれも生水は飲まないように注意して楽しんでください」
親切にアドバイスをいただき、そのビジネスマンと握手をして空港内で別れた。
ここでは僕はトランジットビザで空港から出てもいいのだが、翌日の八時半発のハノイ行きに乗るので、空港内で夜を明かすことにした。
ドムアン空港は大都市の玄関だけあって巨大な空港であった。(この当時はまだスワンナプーム空港は開港していませんでした)
僕は三階の出発ロビーのあちこちに並べられている椅子で仮眠を取ることにしたが、空港内は夜中まで到着する旅行者や出発する旅行者でごった返していてなかなか眠れなかった。
しかし午前一時を過ぎるとようやく辺りも静かになり、近くには同じような旅行者数十人が朝を待って仮眠をしていた。
僕はそれこそ嬉しがりみたいに、出発ロビーの端から端までを何往復も歩き回り、初めてのバンコク国際空港に胸躍らせていたのだった。
※実はこの旅が僕のバックパッカーデビューなのでした。
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