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第五章・ミャンマー行きの予定が何故か雲南へ

サバイディー、南方上座部仏教国の夕陽 166

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       第十六話


 中山美穂の繊細な指が、枯葉のごとく色艶を無くした僕の毛髪を、先ずはカットそしていったん冷水でシャンプーをしたあと、今度は真っ黒な毛染め剤を施していく。

 おかしな日本人客だから、指先が時々震えているようにも感じられ、前述のように、まるで腫れ物に触れるように慎重に仕事を続けていた。

 仰向けに寝かせられた僕はしばし夢見心地であった。

 僕以外に来客もなく、一時間あまりもかけて仕上がった僕の頭髪部は見違えるほどの輝きを放っていた。

 というほどのことはないが、白髪は一本も見えず恐ろしいほど真っ黒に染まっていた。(この毛染めは、帰国後三ヶ月以上も長持ちをした)

 美容代は10万Kip(この時期900円)、激安。

 日本に於いて、中山美穂のような美女からを一時間あまりも美容を施された日には、おそらく福沢諭吉が一枚飛ぶであろうと思うと、宿へ戻る僕の口元も自然と緩むのであった。

 夕食までに時間があるので、いつも必ず行くワット・ミーサイの裏側にある薬草サウナでくつろいだ。

 狭いサウナは下で焚かれる薬草の湯気で人の顔も分からない位だが、5分も座っていると汗が噴き出て気持ちが良い。

 外に出て、冷シャワーを浴びる。そしてまた薬草サウナへ入る。

 これを三、四度も繰り返したら、体も心もリフレッシュを通り越して、緩んでフニャフニャになってしまうのだ。

 こんな感覚は日本では得られない。

 さて、この夜の夕食は、日本人オーナーのレストラン「ブルースカイ」にした。

 2007年の元旦に、当時作家の黒田信一さんが営んでいた「カフェビエンチャン」で飲んだ時、ブルースカイのオーナーさんも来ていた。

 お名前は忘れたが、恰幅の良い堂々とした方で、記憶が正しければ「指差しラオス語会話」などの書籍に寄稿されていたか、或いは出版に関与していらっしゃったと思う。

 「ブルースカイ」はチャンターゲストハウスから100Mほど先へ歩いたところに所在している。

 三階建てのレストランビルで、この年(2009年)の夏に職場仲間四人とラオスを訪れた時は、二階の座敷席でのんびりくつろいで夕食を囲んだことを思い出した。

 ここのレストランは、味はもちろんのこと、ラオス人の従業員の教育も行き届いており、店に入ってもなかなか注文を取りに来なかったり、料理ができるまで時間がかかるというようなことは決してない。

 この夜は、ビーフのラープ(ひき肉とレモングラスや唐辛子などを混ぜ合わせてレモン汁を振ったラオス料理)とカオニャオ、それと揚げ春巻きを注文、そしてもちろんビアラオ、最高だ。

 だが、平和なビエンチャンの夜の風景を、一階のオープン部分の席で眺めているうちに、たった一人の食事に少し寂しさを感じてしまった。

 でも旅はいつも一人が基本だしなぁ、とあきらめる。

 こんな風にして2009年12月27日は過ぎ行くのだった。



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