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第五章・ミャンマー行きの予定が何故か雲南へ
サバイディー、南方上座部仏教国の夕陽 161
しおりを挟む第十一話 仙人との再会
タイ東北部のラオス国境の町・ノンカイへの列車は、なぜか到着が四時間も遅れた。
天候が悪かったわけでもなく、遅れた理由は不明だが、途中で少し苛々してしまった。
ノンカイのゲストハウスに滞在中であった仙人さんには、前日メールで12月25日の夜行列車で向かいますと伝えていたので、もしかしたら出迎えに来てくれていたら悪いと思ったからである。
しかしその心配は杞憂であった。
仙人さんは数日前から体調を崩しており、昼過ぎにようやくノンカイ駅に着いて、すぐに駅前のゲストハウスを訪ねたところ、ベッドに丸くなって寝込んでいたのだ。
11月初旬に日本を出て、毎年のルートである神戸港からフェリーで上海に私渡り、そのあと陸路で中国を下って行き、ベトナムへのハノイからは国際バスでラオスのビエンチャンに入り、そしてタイのノンカイへと旅して来られる。
今年はビエンチャン滞在中にミャンマービザの取得待ちで数日を要し、その時に体調を崩されたようだ。
70歳を少し過ぎられているので、十分な注意が必要である。
約2年ぶりの再会の挨拶を交わすと仙人さんは身体を起こし、「前のリゾートホテルのカフェでコーヒーを飲みましょう」と僕を誘った。
※この時の画像です。僕はまだ若い。(笑)
仙人さんの体調が気になったが、「昨日も病院へ行きましたし、まあ随分良くなってきましたから大丈夫。少し歩いたほうが良いのです」と仰るので、彼の提案に従った。
ノンカイ駅前で「表面張力」というゲストハウスを営む松本氏も心配そうだったが、気分転換に良いかも知れず、リゾートホテルのカフェのゆったりした席に座って、二時間近くも話をした。
(ここのコーヒーは20B(50円程度)と良心的で、お茶もついていて、お茶は飲み放題です)
※今はもう営業をしていないかもしれません。
カフェのウエイトレスの屈託のない笑顔と、オープンカフェの横のプールの目の覚める青い水を眺めていると、長い列車の旅の疲れも一気に消え去るのであった。
そして、この季節は風も少しひんやりとしており、顔を撫ぜて通ると心地良い。
仙人さんとの会話は、今後の日本の高齢者の生き方と、太平洋戦争で亡くなった軍人以外の現地で散った悲劇の人々の慰霊についてなどだった。
こういう話題を異国の地で、そこはかとなく語り合えば、コーヒーの濃厚さのように思いも深く満足感も深い。
この時の話の内容は極めて先々のビジネスにもつながる可能性が高く、ここでは述べることはできないが、病床の身でありながら、このようなディープなテーマでご意見を熱心に語られる仙人さんに、僕は尊敬の念と少しの気後れと大きな希望を感じたのであった。
さて、この日のうちにラオスの首都ビエンチャンへ入りたい僕は、一週間ほどのちに再度ノンカイへ戻って来ますと仙人さんに告げ、ノンカイをあとにした。
仙人さんは僕の制止もお聞きにならず、ボーダーまでのトゥクトゥクの料金が安くなる方法があると、駅前にたむろするトゥクトゥクの連中を無視して、少しはなれたところまで僕を誘導して一台のトゥクトゥクを止めてくれた。(何と20Bでした)
「それではまた後日」と別れを告げ、国境に向かう僕と、お馴染みの手製の杖を手にして、反対側の手で僕を見送る仙人さん。
暑い日差しは仙人さんの日焼けした顔をさらに焦がす。どうか体調が早く回復しますようにと、心で強く祈る僕。
ところが仙人さんとこの先、思いがけないところで再会したのであった。
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