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第四章 タイ・ラオス・ベトナム駆け足雨季の旅
サバイディー、南方上座部仏教国の夕陽 136
しおりを挟む第二十話
一路ベトナムの古都・フエに向かって走るオンボロノンエアコンバス。
ラオスの天候とは打って変わっての好天。窓から入ってくる風は熱風に近く、気温はかなり高いと感じられた。
ベトナムに入るとラオスとは違った町並みである。
高地から低地のフエに向かって下っていく道路は綺麗に舗装され、家々もそれほど粗末な家屋は見られない。
タイとラオスの差ほどではないが、ベトナムとの経済事情の違いが物語っているような気がする。
国境のラオパオからフエ市街までは約150キロ程度、しかも下りなので三時間もかからない。
途中、トイレ休憩が一度あったが、なんと道路端の林で各々が済ませるのだ。
つわものの女性などは、バスの窓から少し見える位置で平気にパンツを下ろしていた。
日本では決して見られない平和でのどかな光景である。
さてフエだが、僕の予備知識では「ベトナム中部の古都、グエン王朝が支配していた緑が豊富な街」としかなかった。
ベトナム戦争時代はTVニュースで北爆が行われたことに加えて、南ベトナムの「グエン・カ・オキ」という首相の名前がたびたび聞かれたものだが、関係があるのかないのか、フエはグエン朝時代、穏やかな独裁政治(?)を行っていたようだ。
フランスの植民地政策に相当反発して、鎖国政策を頑なに通していたが、ついに屈したとある。
フランスは世界各地に植民地を作った歴史を持つ、傲慢この上ない国だったようだ。
バスは市街地に入った。
思ったよりも大都市である。道路の幅も広く、車はもとより大量のバイク軍団が路上を制している。
ベトナムは2000年にハノイや北部ベトナムを訪れているが、その時に見たハノイの喧騒ほどではないにしろ、バイクに跨った老若男女が溢れている。
バスは大きな公園沿いのバス停のようなところに横付けして止まった。
フエが目的の乗客はここで降ろされるようだ。僕もフランス人カップルも降りた。
早速、バイタクと小さなシクロが近寄ってきた。
フランス人カップルはバイクのうしろに跨って「バーイ」と手を振って行ってしまった。
シクロの男性はかなり高齢で、見た感じ六十歳前後。
でも意外に若いかもしれない。他に手段も見当たらないので乗った。
旅行前に旅仲間からフエでの宿の情報をもらっていたので、Binh Duong Hotel(ビン・ジュオン ホテル)と書かれたメモを彼に見せた。
「よし分かった」という風にうなずくシクロ男。
「料金はいくらだ」と訊くと2ドルだという。
「アホぬかせ」と思うが、ホテルまでの距離が全く分からないことと、シクロ男性が頼りないほどの細い体で、それでもシクロをこいでくれることに少し心が揺らぎ、「OK!」と言ってしまったのだった。
けたたましいバイクの音や車の洪水の道路を、僕を前に乗せた小さなシクロは走り出した。
シクロがぶつかる時は最も前に位置する僕が被害を被るのだな、と理不尽に思いながらも、緑豊富なフエの街にやってきた満足感に僕は浸り始めていた。
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