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第四章 タイ・ラオス・ベトナム駆け足雨季の旅

サバイディー、南方上座部仏教国の夕陽 134

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      第十八話


 ベトナムとの国境の町・デーンサワンは、小雨がシトシトと降り続き、たった二軒しかない食堂で、大勢の人々が夜明けを待った。

 腹が減っているのかいないのか、全く分からない自分自身の体調と同じように、周りの人々もラオス人なのかベトナム人なのかさっぱり分からない人たちが、旺盛な食欲で麺類や焼き鳥の類を食べながらビールを飲んでいた。

 フランス人カップルはコーヒーを飲むだけで、しきりにタバコを吸い続けていた。

 粗末な椅子に座って、少しでも寝ようと試みるのだが、周りが煩いのと気持ちが何故か昂ぶって眠れない。
 諦めてコーヒーを注文した。

 ここのコーヒーはベトナム式であった。

 つまりアルミカップの二段式で、上部には細かい穴が開いていて、そこに挽かれたコーヒー豆を入れて熱いお湯を注ぐものである。

 ろ過されたかなり濃厚なコーヒーは、アルミカップの底にあらかじめ入れられたコンデンスミルクと融合し、独特の苦味と甘みと、そして香りを醸し出すのである。(猛烈にオーバーな表現だが)

 この濃い目のコーヒーは僕の好みであった。
 夜が明けるまでにもう一杯注文をして眠気を払う。

 支払いをラオスKipですると、おつりがベトナムドンだった。
 どうなっているのだ?

 レートが分からないので、これで良いのかどうか、損はしていないのか否かなど全く分からない。

 たいした金額でないのでまあ良いだろうと思っていたら、いきなり小柄なラオス人がパスポートを集めに来た。
 しかも3ドルと一緒に差し出せと言うのだ。

 「何の金だ?」とフランス人カップルの男性が聞いた。

 男はラオス語か何語か分からない言葉で早口で説明した。何を言っているのか分からない。
 おそらく手数料だと言っているのだろう。

 フランス人男性は「意味のない金は払わない」と言った。(ようだ)

 するとラオス人男は、身振り手振りを交えて「ノーパスポート、ノースタンプ」などと言うのだ。

 つまり「金を払わないと出国スタンプは押さへんで!」と言うのだ。
 コシャクナ野郎め。

 僕とフランス男性は顔を見合わせて、「どうする?」と考えた。
 彼は「仕方がないな」という感じで彼女の分と合わせて6ドルをラオス野郎に支払った。

 男は「お前はどうするのだ?」と挑戦的な目で僕を見てきた。
 仕方なく3ドルを支払う僕。わずか3ドルだ、男にくれてやっても良いのだが、納得がいかない。

 そして少しウトウトしたら夜が明けてきた。
 外は相変わらず雨が降り続いていた。

 外に出てみると、ゆるやかな坂道が続いており、その先にイミグレーションがあるようだ。

 しばらくしてバスがやってきた。

 食堂にいた人々は我先にとバスに乗り込む。
 なぜこの人たちは争って乗る必要があるのだろう。順番に乗れば良いではないかとフト思う。

 バスは緩やかな坂を登りきり、平坦な道を少し走ったところで止まった。

 再びバスを降りた。

 そして既に出国手続きが終わっていたのか、われわれは無事に通されて、今度はラオス側のイミグレーションを抜けて、ベトナム側のイミグレーションへ歩いて向かった。

 この間、皆がゾロゾロと移動するのだが、バスの乗務員や係員からは何の説明もない。

 ラオスの建物に比べてベトナムの建物は格段に立派だ。

 ここでパスポートを預けたラオス野郎を待たなければならない。

 雨は降り続く。鬱陶しい国境の町、そして待てども待てども現れないバス。
 パスポートを預けたきり姿を見せないラオス野郎。

 不安が広がっていった。
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