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第四章 タイ・ラオス・ベトナム駆け足雨季の旅
サバイディー、南方上座部仏教国の夕陽 119
しおりを挟む第三話
一等食堂のオーナーであるM氏を改めて紹介すると、彼はこのころ三十代半ば、高校を卒業後、三重県内の企業に就職したが、次男という気楽な立場と生来の放浪癖から、ある程度まとまった貯金ができると日本を出た。
まだガイドブックもなく、当然ネットなどもない、バックパッカーなどという言葉も一部の旅行者しか知らなかった時代である。
アジア各地からアフリカをチョイと覗き、一応南米などにも渡ったらしいが、結局落ち着き先は微笑みの国・タイランドだったというわけだ。
どこでどう知り合ったのか、同じ旅行好きの日本女性と婚姻し、バンコクで日本食堂を開業したのが八年ほど前らしい。
「失敗したとしても、車一台分の損をしたと思えば気楽に開業できましたよ」
M氏は飄々と語る。
タイでは物価が安いので、日本のように開業資金を何百万も必要としない。
一等食堂のあるランナム通りは、今でこそ日本人だけでなく欧米人その他の長期滞在者が多い区域だが、開業したころは日本人の沈没組の一端やタイの日系企業などに勤める中途半端な長期滞在組がチラホラいた程度だったとか。
(日本企業のバンコク支社出張組などは企業からの好待遇でスクンビットあたりに住んでいるのが普通とのこと)
バンコクもBTSスカイトレインが出来て以来、市内交通がグンと良くなり、このランナム通りも賑やかになってきたという寸法である。
アヌサワリー・チャイ駅(ビクトリーモニュメント駅・戦勝記念塔)近くには三流の女子大もあるようで、駅周辺は若い女性で猛烈にごった返している。
さて、M氏と話をしながらアッという間にシンハビールの大瓶を10本ほども飲み干してしまった。
2001年のラオス旅行以来おなじみの友人N君は、この年の初めからアユタヤの本社勤務からパタヤーの現場事務所へ出張を命ぜられており、目下はパタヤーのアパート暮らしなのでちょっと寂しい。
今回の旅行も、N君にはもちろん事前に知らせていたが、「仕事が忙しくてバンコクに行けませんねん。パタヤーにチョッックラ来ませんか」とメールが返信され、旅の終わりあたりに二日か三日ほど行く予定にはしている。
本社勤務のころはこのランナム通りのアパートに住んでいて一等食堂の常連だったのだが、パタヤーへ出張後はめったにここには来ないらしい。
「N君は来ませんか?」
「もう四ヶ月ほど来ていませんよ。ツケがたまっているのですけどね」
Mさんは苦笑いをしながら言った。
ビールを確か14本程飲んだあたりでかなり酩酊してきた。
Mさんも饒舌になり、そして気分が良くなってくるとお互いに女性の裸を見たくなってきた。(ような気がする)
「ソイ・カウボーイはまだ健在ですかね?」
「もちろんです」
「ちょっと行きませんか?」
ということになり、午後11時の閉店までビールを飲み続けたあと、僕とM氏はタクシーで繰り出した。
ソイ・カウボーイはパッポンやナナプラザのような巨大ナイトスポットと違って、ちょっと穴場的雰囲気がある。
ガイドブックなどには小さく「うらぶれた雰囲気」と書かれていたりするが、決してうらぶれてなどなく、僅か百メートル程度の通りの両サイドに乱立するゴーゴーバーはネオンギラギラ賑やかだ。
「どの店に入りましょうか?」
Mさんに問いかけると、「やはりバカラでしょう」と言い、二十店程もあるゴーゴーバーの中から即座に答えるのであった。
バカラはここソイ・カーボーイに数多ある店の中では、若くて綺麗な女性が多いと評判らしい。
主にタイ東北部(イサーン)の貧しい地区から出てきた女性が多いとされるゴーゴーバーの世界では、日本人から見ても明らかにバタ臭い女性が、ステージでぎこちなく踊っている姿を見ることもあるが、バカラの踊り子さんたちは垢抜けしているように感じるのだ。
店内に入ると、大音響の音楽と中央のステージでダイナミックに踊る踊り子さんたちの姿が飛び込んできた。
※ゴーゴーバーといっても、日本のストリップ劇場とはまったく異なります。
尊敬すべき踊り子様たちの名誉のために念のため書き添えます。
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