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第三章 バンコク近郊・意外展開旅行記
サバイディー、南方上座部仏教国の夕陽 90
しおりを挟む★第五話★ ワットファウロンワ その3
娘さんが止めてくれたワゴン車は、よく見ればカンボジアでアランヤプラテートからシェムリアップまで荷台に乗って、埃まみれになりなりながら行ったピックアップトラックと同種のものだった。
運転している男性は小錦をふた回り程度縮めた感じのガッチリした体躯で、一見とっつきにくそうな印象だったが、娘さんがキチンと事情を説明してくれたのを理解してくれたのか、ニコニコして後部席のドアを開けてくれた。
きっと、「このおかしな日本人男女を助けてあげて!ワットファウロンワに行きたいらしいの」と、可愛く頼んでくれた賜物だろう。
僕達は窓を開けて娘さんにありがとうを言い、何度も何度も手を振った。
こんなところでこんな親切にあうとは思わなかった。しかも十五才の少女から。
きっとご両親が善良な人で、丁寧にキチンと育てられてきたのだろう。
今度は写真と何かお礼を持って訪れたいと思った。
◆本当にありがとう、でもまだお礼に訪れていない。確かな位置関係も分からないから、いくら僕が元探偵といっても難しいかな(*_*)
さて小錦さんは全く英語が分からず、僕達は全くタイ語が話せないので、お互い五分五分ではあるが意志の疎通は難しい。
しばらく彼はタイ語で何やら話すが、僕達の返答は訳が分からないので、そのうちにカーステレオを鳴らし出した。
CDケースの中から一枚を取り出してかけると、何とそれはテレサテンの昔の曲だった。
カーオーディオは彼の自慢のようで、ボリュームを最大限に近いほど上げると、彼は運転しながら時々僕達の方に顔を向けて、「どうだ、いい曲だろう」という感じで微笑むのだった。
(僕は長年のテレサテンさんのファンで、2019年の秋にようやく台湾の台北郊外にある、彼女が眠るお墓に参りに訪れました。海の見える綺麗な丘にありました)
ワットファウロンワに向ってテレサテンが大声で歌っているワゴン車はスピードを上げて行く。時々ニタニタ後ろを振り向く小錦。
「危ないから前を見て運転してくださいよ」と言っても通じるはずもない。
でも親切なタイ人二人のおかげで本当に助かった。
さてワットファウロンワだが、バスの窓から見える大きな仏像を見て僕が車掌に、「あれがワットファウロンワか?」と訊いた寺院が、結局はそうだったのだ。
小錦さんの車で、バスで来た道を戻っていると、確かに見覚えのある仏像が遠くに見えて、「ワットファウロンワ?」と彼に訊くと頷いたから、バスの車掌は僕達をわざと騙したのかも知れない。
あの若造の車掌め、きっと僕のような中年の男が若い可愛い女性と寺院回りなどを行っていることにやきもちを焼いたのだ。
心の狭い車掌だ。男はもっと心を広く持てよ。(笑)
そんなことを考えていると、間もなく目的地のワットファウロンワに到着した。
入口近くで車から降ろしてもらい、ユーターンして帰って行く小錦氏に僕達は一礼し、そして何度も何度も手を振って別れた。
彼の行き先とは方向が違っていたのに、ここまで運んでくれたことに恐縮した。
【本当にありがとう。テレサテンの歌も懐かしかった】
ワットファウロンワは、何とこれが寺院かと疑ってしまうほど広大な敷地に賑やかな仏像と出店と大勢の人々である。
こうなればもう遊園地と同じではないか。(敷地内に小さな遊園地も実際にあった)
この日は休日で、家族連れなど大勢の人が訪れていた。
寺院の敷地の真ん中を一本の道路が貫いており、そこをバスが次々と到着して訪問客を降ろしている。
道の両側にはズラリと出店が並び、まるで縁日のようだ。
「ここは本当にお寺なのですか?」と、Kさんも驚きの声を上げた。
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