サバイディー、南方上座部仏教国の夕陽

Pero

文字の大きさ
上 下
79 / 195
第二章 2002年 春

サバイディー、南方上座部仏教国の夕陽 79

しおりを挟む
     第二章 2002年 春


    79 ジム・トンプソンの家

 狭い座席での夜行バスの疲れからか、Y子さんと別れてから部屋に戻るとすぐに寝入ってしまった。

 目が覚めるとお昼前だった。

 シャワーを浴びて、腹が減ったのでマーブンクロンのクーポンレストランに出かけた。
 この辺りはバンコクの渋谷といわれるほど大勢の若者が集まっている。

◆マーブンクロン





 暑さは半端じゃないが、バンコク東急に入ると今度は寒いくらいにエアコンが効いている。
 タイはどうしてこんなに極端なんだろう。

 旅行作家が著書で書いていたが、一年中暑いタイでは、冷やせるだけ冷やすことが客サービスだと思っているらしいのだ。

 百貨店、スカイトレイン、エアコンバス、映画館等々、これでもかというくらいエアコンが効きすぎている。

 それでもタイの人々はそれをサービスと受けているようで、寒そうにしている様子はない。
 BTSスカイトレインでフリーズしているのは日本人である。

 さて、クーポンレストランでぶっかけメシとシンハビールを飲んでやれやれと落ち着き、何もすることがないので前々から行こうと思っていた「ジム・トンプソンの家」に向かった。

 この「ジム・トンプソンの家」は、タイ・シルク王と呼ばれるジム・トンプソンが生前居住していた家で(そのままだけど)、贅沢な古美術品がたくさん展示されている。

 生前と言っても、彼は千九百六十七年に休暇でマレーシアを訪れてトレッキング中に行方不明になったわけで、まだマレーシアの山中を彷徨っているかも知れないのだ。(あり得ないだろうが)

 僕が泊まっているKrit Thai Mansionの裏手に所在しており、マーブンクロンからも徒歩七分ほどで行けた。

◆ジムトンプソンの家



 緑の植物が生い茂ったところに入り口があり、綺麗なタイ人女性が立っていた。
 百バーツの入場料を支払うと、日本語のガイドが良いか英語のガイドが良いかを訊いてきた。

 見栄を張って英語ガイドをと言いたかったが、素直に日本語のガイドをお願いすると、他の日本人観光客と一緒に案内するからしばらく待ってくださいとのこと。

 待合場所には当然日本人が十数人待機しており、いずれも若いカップルか熟年夫婦という具合で、僕のように一人で観光に来ている者はいなかった。

 孤独感に浸りながら待っていると、小柄なタイ人女性がツカツカと寄ってきて、「さっ、ご案内いたします」と言い、彼女の後ろについてゾロゾロと僕達は続いた。

 住居は概してこげ茶色に塗装した木造建築で、かなり古いが保存状態はとても良いと思われた。

 生前彼が金に糸目をつけずに収集したものが、各部屋に飾られているが、中には寺院や遺跡からの盗品を買い取ったものもあるらしい。
 これらはおそらく相当高価なものに違いない。

 館内はエアコンなど効かせていないが、チーク材を使用した木造建築を熱帯植物が覆っているため、ほどよい気温が保たれていた。

 ガイドのぎこちない日本語による鑑賞だったが、十分満足をしてそこをあとにした。

 一度訪ると特に再度来る必要を感じない、そんな「ジム・トンプソンの家」であった。(でもこの年のあと、何年かおきにこれまで四度訪問しています)

 今日の夕方にはN君がミャンマーからバンコクインする筈だから、今からカオサンへ友人から頼まれたニセ学生証を作りに行かなければならない。

 ところがホテルに戻ると、ロビーの片隅に設置されているパソコンの前で、見覚えのある日本人がネットの最中だった。

「何だN君、もう着いたの?」

「あっ、ペロさん。実は昨日バンコクに戻っていたのですよ」

 真っ黒に日焼けした懐かしい顔がそこにあった。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

探偵手帳・番外編 

Pero
エッセイ・ノンフィクション
最近は歳も歳なので、生存確認やマッチングアプリで知り合った相手の調査程度しか受けなくなりましたが、久しぶりに過去の思い出深いたくさんの案件を振り返ってみました。 アッと驚かないかも知れませんが、地道な調査の実話をお届けいたします。

クルマでソロキャンプ🏕

アーエル
エッセイ・ノンフィクション
日常の柵(しがらみ)から離れて過ごすキャンプ。 仲間で 家族で 恋人で そして……ひとりで 誰にも気兼ねなく それでいて「不便を感じない」キャンプを楽しむ 「普通ではない」私の ゆるりとしたリアル(離れした)キャンプ記録です。 他社でも公開☆

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

処理中です...