サバイディー、南方上座部仏教国の夕陽

Pero

文字の大きさ
上 下
78 / 195
第二章 2002年 春

サバイディー、南方上座部仏教国の夕陽 78

しおりを挟む
    第二章 2002年 春


    78 Y子さんとの別れ

 午後六時三十分にノンカイを出発したバスは、約一時間走ると最初の町ウドンタニーのバスターミナルに到着した。

 このウドンタニーという日本の讃岐の名物みたいな名前の町は、結構大都会である。

 人口が十万以上の大都市で、ベトナム戦争時はアメリカ軍の空軍基地となっていたもので、今も欧米人が喜びそうな飲食店が多いとのこと。

 韓国人青年はこの夜この町のどこかのゲストハウスに泊まっているのかも知れない。
 或いは乗り継いで既にチェンマイに向かっているのか。

 バスは国道を快適に走り続けた。

 時々止まるバスターミナルは、いずれもそこそこ大きなもので、大勢の人々で溢れていた。
 タイはバス網が発達していることが窺える。

 前のカップルが思いっきり倒してきた椅子の背に悩まされながらも、窮屈な姿勢で僕は知らないうちに寝ていた。

 車内は冷蔵庫のようにエアコンがガンガン効いている。

 暑さ寒さに強い僕でさえ、運転手さんにちょっと物言いをしたくなるほど寒かった。
 Y子さんは前の方で凍っているようだった。

 それでもうとうとしていると、冷蔵庫バスは午前五時過ぎにバンコク北バスターミナルに到着した。
 バスを降りるとバケツをひっくり返したような土砂降りの雨である。

 傘は持っていないのでタクシーで市内まで行きましょうということになった。

 僕は以前泊まって快適だった国立競技場近くの「Krit Thai Mansion(クリ・タイ・マンション」に行きますというと、彼女も少し考えたあと僕についてきた。

 ところが乗ったタクシーはメータータクシーではなく、交渉制のものだった。

 走り出してしばらくしてから気がついたので、ストップを言ってスカイトレインのモーチット駅で降りた。

 僕は五十バーツを運転手に支払ったのだが、Y子さんは三十バーツくらいでよかったのではないかと言う。

 交渉制のタクシー相場がどうも分からない。
 タイに旅される方は、できるだけメータータクシーに乗ることをお奨めします。

 さて、スカイトレインの始発に乗って国立競技場前駅で降り、目の前のKrit Thai Mansionに入り、フロントの女性にシングル二部屋をリクエストした。

 ところがシングルが一部屋しかないというのだ。
 仕方がないので、僕はツインをひとりで使おうと思い、彼女にそのシングルを勧めたが彼女は遠慮した。

シングルの値段が六百五十バーツで、ツインが七百五十バーツと、バックパッカーにとっては破格の値段だ。

 彼女はその値段を聞いて驚き、「それでは私はカオサンへ行きます」と言う。

 僕は一応ツインの部屋のシェアを訊いてみたが、こんなオヤジとシェアすることは彼女のプライドが許さなかったのだろう。あっさりと断られた。(涙)

「世の中が動き出したらバスでカオサンまで行きますから、少し休憩を付き合ってくれますか」

 彼女が言うので、僕だけチェックインしてバックパックを置き、ロビーで時間待ちを付き合った。

 今から思えば、じゃあ僕もカオサンへ行きます、と言って一緒に移動すればよかったと思うのだが、この時はかなり疲れていて(勿論彼女も疲れていたはずだが)、僕としては早くホットシャワーを浴びて寝たかったのだった。

 つくづく自己中心的な自分を恥じるとともに、一緒に旅を続けるチャンスを自ら放棄してしまったことに、帰国後もしばらくは後悔を続けたものだった。

 彼女を見送り、部屋に戻ってシャワーを浴びたら急に睡魔に襲われた。
 今日は昨年のラオス以来の付き合いであるN君とこのホテルで会う約束をしていた。

 僕はラオスでの数々の出来事を思い起こそうとしたが、一つ二つ頭によみがえった時点で深い眠りにおちてしまった。
 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

探偵手帳・番外編 

Pero
エッセイ・ノンフィクション
最近は歳も歳なので、生存確認やマッチングアプリで知り合った相手の調査程度しか受けなくなりましたが、久しぶりに過去の思い出深いたくさんの案件を振り返ってみました。 アッと驚かないかも知れませんが、地道な調査の実話をお届けいたします。

クルマでソロキャンプ🏕

アーエル
エッセイ・ノンフィクション
日常の柵(しがらみ)から離れて過ごすキャンプ。 仲間で 家族で 恋人で そして……ひとりで 誰にも気兼ねなく それでいて「不便を感じない」キャンプを楽しむ 「普通ではない」私の ゆるりとしたリアル(離れした)キャンプ記録です。 他社でも公開☆

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ボケ防止に漫画投稿初めてみた!

三森まり
エッセイ・ノンフィクション
子供に手がかからなくなったし使える時間めっちゃ多くなったのでボケ防止に何かはじめようかなぁ そうだ!(・∀・)「指を動かす 頭を使う 家にいても出来る!!」という事で インターネットエクスプローラーのTOPページで宣伝してる この「アルファポリス」とやらをやってみよう! という事で投稿初めてみました へいへい 漫画描くの楽しいよ! と そんなエッセイと 私のアルポリ(どんな約し方がスタンダートなのか知ってる方教えてください)での成果?を綴る予定です(・∀・)b

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...