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第二章 2002年 春
サバイディー、南方上座部仏教国の夕陽 70
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第二章 2002年 春
◆全号で述べたビエンチャンの格安ベトナム春巻き食べ放題(画像が古いのはお許しを)
◆未練たらしくR子さんがルアンパバーン へ発つ前の画像
70 落書き
このカフェバーは、名前は忘れたが場所はすぐに分かる。
前号でも述べたように、RDゲストハウスから北に二十メートルの西側に位置しており、店の入口には電飾看板がかかり、夜になると暗い町に一際目立って見えるからである。
カフェバーの店内は二部屋に分かれており、いずれも四人~六人掛けのテーブル席が六卓程度設置され、その奥にカウンターがあり、陽気なバーテンダーがたくさんの洋酒を背に客を待っていた。
客層は殆どが欧米人で、僕達が入った時は七分程度の入りだったが、店内にはロマンティックなクラッシックが静かに流れ、落ち着いた雰囲気を感じた。
この日の夜はベトナム料理を食べていたので、フードはサラダとサンドイッチだけを取り、Y子さんはホットコーヒーでおとなしくしていたが、僕はメニューの中で最も安いスコッチであるブラックアンドホワイトのダブルを注文した。
バーテンダーがウイスキーグラスをわざわざ席まで持ってきて、「ごゆっくり」といった感じで笑みを浮かべてひと言語り掛け、そして戻って行った。
このような何気ない動作が、僕のような旅人には何とも気分が良いものだ。
一泊二ドルの格安ドミトリーに泊まり、陸路中心の経済旅行を続けていても、時にはこのようなしゃれたカフェバーでウイスキーグラスを傾けながら、旅の感慨に浸るのも格別な気持ちになる。
ましてや今夜のように美女と過ごしている時などは、このままメコンに飛び込んで世界平和を叫びたい衝動に駆られてしまう。
そんな単純な僕だった。
結局、ウイスキーのダブルを二杯飲み、Y子さんはコーヒーの他にアイスクリームを食べ、サラダとサンドイッチとの会計は七万Kip(このころのレートで七百円程度)だったと記憶する。
日本でこれだけ飲食すれば、少なくとも五千円程にはなるだろう。
部屋に戻ると、旅人はそれぞれのベッドで思い思いに過ごしていた。
入ってすぐのベッドに寝ている黒人は、僕達が夕方到着した時からずっとそのままのような気がした。
自分のベッドに戻ると、すぐ近くの韓国人青年のベッドに彼はいなかった。
きっと屋上のミーティングルームだと思うとY子さんが言うので、僕達も階段を上がって行った。
案の定、韓国人青年は屋上の板の間で仰向けになって、CDウオークマンを聴きながら本を読んでいた。
器用な奴だと思いながら声をかけたら、びっくりするような声で彼は「おかえりなさい!」と言うのだった。
しばらく三人で遠くに見えるメコン川を眺めたり、ビエンチャンの綺麗な夜空を見上げながら雑談を交わした。
ミーティングルームの白壁には、過去に宿泊した旅人の落書きが、もはや書くスペースがないくらいたくさん書かれていた。
ふと一つの落書きに目が留まった。
「帰る場所があるから、旅に出るんだ 長渕 剛」
フォーク歌手の長渕 剛がこのゲストハウスに立寄ったとは思えないから、長渕ファンが彼の何かの歌詞を引用して書いたものだろう。
この言葉に特別感動したわけではないが、逆に言えば「帰る場所がなければ、旅にはならないのだ」と思った。
帰る場所がなければ、それは生活味を帯び、旅が人生となってしまうのだから、松尾芭蕉の奥の細道の一節を思い浮かべる僕であった。
◆全号で述べたビエンチャンの格安ベトナム春巻き食べ放題(画像が古いのはお許しを)
◆未練たらしくR子さんがルアンパバーン へ発つ前の画像
70 落書き
このカフェバーは、名前は忘れたが場所はすぐに分かる。
前号でも述べたように、RDゲストハウスから北に二十メートルの西側に位置しており、店の入口には電飾看板がかかり、夜になると暗い町に一際目立って見えるからである。
カフェバーの店内は二部屋に分かれており、いずれも四人~六人掛けのテーブル席が六卓程度設置され、その奥にカウンターがあり、陽気なバーテンダーがたくさんの洋酒を背に客を待っていた。
客層は殆どが欧米人で、僕達が入った時は七分程度の入りだったが、店内にはロマンティックなクラッシックが静かに流れ、落ち着いた雰囲気を感じた。
この日の夜はベトナム料理を食べていたので、フードはサラダとサンドイッチだけを取り、Y子さんはホットコーヒーでおとなしくしていたが、僕はメニューの中で最も安いスコッチであるブラックアンドホワイトのダブルを注文した。
バーテンダーがウイスキーグラスをわざわざ席まで持ってきて、「ごゆっくり」といった感じで笑みを浮かべてひと言語り掛け、そして戻って行った。
このような何気ない動作が、僕のような旅人には何とも気分が良いものだ。
一泊二ドルの格安ドミトリーに泊まり、陸路中心の経済旅行を続けていても、時にはこのようなしゃれたカフェバーでウイスキーグラスを傾けながら、旅の感慨に浸るのも格別な気持ちになる。
ましてや今夜のように美女と過ごしている時などは、このままメコンに飛び込んで世界平和を叫びたい衝動に駆られてしまう。
そんな単純な僕だった。
結局、ウイスキーのダブルを二杯飲み、Y子さんはコーヒーの他にアイスクリームを食べ、サラダとサンドイッチとの会計は七万Kip(このころのレートで七百円程度)だったと記憶する。
日本でこれだけ飲食すれば、少なくとも五千円程にはなるだろう。
部屋に戻ると、旅人はそれぞれのベッドで思い思いに過ごしていた。
入ってすぐのベッドに寝ている黒人は、僕達が夕方到着した時からずっとそのままのような気がした。
自分のベッドに戻ると、すぐ近くの韓国人青年のベッドに彼はいなかった。
きっと屋上のミーティングルームだと思うとY子さんが言うので、僕達も階段を上がって行った。
案の定、韓国人青年は屋上の板の間で仰向けになって、CDウオークマンを聴きながら本を読んでいた。
器用な奴だと思いながら声をかけたら、びっくりするような声で彼は「おかえりなさい!」と言うのだった。
しばらく三人で遠くに見えるメコン川を眺めたり、ビエンチャンの綺麗な夜空を見上げながら雑談を交わした。
ミーティングルームの白壁には、過去に宿泊した旅人の落書きが、もはや書くスペースがないくらいたくさん書かれていた。
ふと一つの落書きに目が留まった。
「帰る場所があるから、旅に出るんだ 長渕 剛」
フォーク歌手の長渕 剛がこのゲストハウスに立寄ったとは思えないから、長渕ファンが彼の何かの歌詞を引用して書いたものだろう。
この言葉に特別感動したわけではないが、逆に言えば「帰る場所がなければ、旅にはならないのだ」と思った。
帰る場所がなければ、それは生活味を帯び、旅が人生となってしまうのだから、松尾芭蕉の奥の細道の一節を思い浮かべる僕であった。
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