サバイディー、南方上座部仏教国の夕陽

Pero

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第二章 2002年 春

サバイディー、南方上座部仏教国の夕陽 53

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     第二章 2002年 春

   53 ワット・ケーク その3
 
 ワット・ケークの本堂のような建物の内部に足を踏み入れると、広い部屋の正面の壁には、縮れた長髪の厳つい顔の男性の写真か絵か分からないカラーの肖像が掛かっていた。

 その前にはヒンドゥー様式の絵や仏像が並べられており、部屋を開けてくれた中年の少しふっくらしたインド人っぽい女性がにこやかに迎えてくれた。

 こんなに朝早くから何ごとか?などという態度ではなく、微笑みながらさあどうぞ!というふうに歓迎してくれたことをいいことに、僕達は遠慮なく上って、たくさんの仏像などを見て楽しんだ。

 正面の部屋の男性像は、おそらくこの寺院の建立者であるルアン・プーのものだと思われた。

 僕とR子さんは、最初は興味深く見て回ったがすぐに飽きてきて、十数分ほどその部屋にお邪魔しただけで外に出てきた。

 おかしな仏像群に、朝から目眩をしそうになりながら寺院を出た。

 すっかりお腹がすいたので宿に帰って朝食にしようと、待ってくれていたトゥクトゥクに乗って戻った。

 ところがトゥクトゥクの男性は、宿からワット・ケークまで往復するだけでは百五十バーツは取り過ぎたと思ったのか、それとも暇だったのかは分からないが、国道から町中に土手を降りて少し走ると、白壁にオレンジ色の壮大な屋根の見事な建築物の敷地内に僕達を連れて行った。

「ワット・ポーチャイ!」と彼はニコッとしながら自慢げに言った。

 そして、僕達に中に入ってお参りするように胸の前で手を合わせてジェスチャーで促すのだ。

 この寺院はバスターミナルの近くに所在していて、ノンカイの人々に最も人気のある寺院ようで、この時間でも既に十数人の参拝人が訪れていた。

◆ワット・ポーチャイ



 僕達もサンダルを脱いで、朝の太陽で既に熱くなっているコンクリート階段をつま先立ちで上り、正面に祀られている仏像の前に正座した。

 トゥクトゥクの彼の言うとおりに手を合わせて、タイ語で「おはようございます」と挨拶した。(男はサワディー、クラップ 女性はサワディー、カーですね)

 朝からおかしな寺院と敬虔な雰囲気の寺院との両方を参拝したことに、功徳を積んだ満足感で満たされたので、次はすっかりハラペコの空腹感を満たすことにした。

 宿のオープンレストランで、僕はオムレツとフランスパンにヨーグルト、コーヒーを注文し、彼女はフレンチトーストとなにやらシェイクを選んだ。

 だが、このヨーグルトがちょっと大きめのカレー皿のような器に一杯入っていて、いくらヨーグルトが好きな僕でもこれだけでお腹が一杯になりそうだった。

 今日も快晴だ。

 僕の旅は最初の数日は必ずこのように快晴なのだ。

 今朝は早い時刻からの寺院参拝と美味しい朝食で、僕の心身は充足しており、嬉しさのあまりこのままメコン川に飛び込んで対岸のラオスまで泳いで行きたい衝動に駆られた。

 だが、彼女の手前ここは何とか踏みとどまり、宿をあとにすることにした。

「国境に行く前にちょっと両替をしたいのです」

 彼女はバーツが殆どなくて、ドルと円を持っているらしく、「ラオスではやはりバーツですか?」と訊いてきた。

「ラオスはキープだけど、バーツとそれにドルも通用するよ。国境で少しだけキープに両替するにしても、ラオス国内で使うにしても、バーツがいいね」

 僕達はメインストリートを少し西に歩き、大きな銀行に入って行った。(銀行名は忘れました)

 店内はエアコンが強烈に効いており、彼女が両替中、僕はバックパックをロビーの隅に置いて椅子に腰をおろし、このまま動くのが嫌になってきた。

 しかもこれから先の話を何もしていなくて、国境を越えれば彼女と別れて、再びお互いに一人旅になるのかという残念な気持ちが心を過ぎった。

 十五分程で彼女が両替を終えたので、仕方なく腰を上げて外に出て、ギラギラと太陽が容赦なく照りつける道路を少し歩き、前から走行してきたトゥクトゥクを捕まえて国境に向かった。

 唸るエンジン音にわざと声を混ぜて、「R子さん!、僕は去年訪ねたバンビエンを再訪するので、貴方がルアンパバーンまで行くのなら、もしお邪魔でなければ、その途中までご一緒させていただけませんか?」と大声で叫んだ。

 すると彼女は・・・

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