53 / 195
第二章 2002年 春
サバイディー、南方上座部仏教国の夕陽 53
しおりを挟む
第二章 2002年 春
53 ワット・ケーク その3
ワット・ケークの本堂のような建物の内部に足を踏み入れると、広い部屋の正面の壁には、縮れた長髪の厳つい顔の男性の写真か絵か分からないカラーの肖像が掛かっていた。
その前にはヒンドゥー様式の絵や仏像が並べられており、部屋を開けてくれた中年の少しふっくらしたインド人っぽい女性がにこやかに迎えてくれた。
こんなに朝早くから何ごとか?などという態度ではなく、微笑みながらさあどうぞ!というふうに歓迎してくれたことをいいことに、僕達は遠慮なく上って、たくさんの仏像などを見て楽しんだ。
正面の部屋の男性像は、おそらくこの寺院の建立者であるルアン・プーのものだと思われた。
僕とR子さんは、最初は興味深く見て回ったがすぐに飽きてきて、十数分ほどその部屋にお邪魔しただけで外に出てきた。
おかしな仏像群に、朝から目眩をしそうになりながら寺院を出た。
すっかりお腹がすいたので宿に帰って朝食にしようと、待ってくれていたトゥクトゥクに乗って戻った。
ところがトゥクトゥクの男性は、宿からワット・ケークまで往復するだけでは百五十バーツは取り過ぎたと思ったのか、それとも暇だったのかは分からないが、国道から町中に土手を降りて少し走ると、白壁にオレンジ色の壮大な屋根の見事な建築物の敷地内に僕達を連れて行った。
「ワット・ポーチャイ!」と彼はニコッとしながら自慢げに言った。
そして、僕達に中に入ってお参りするように胸の前で手を合わせてジェスチャーで促すのだ。
この寺院はバスターミナルの近くに所在していて、ノンカイの人々に最も人気のある寺院ようで、この時間でも既に十数人の参拝人が訪れていた。
◆ワット・ポーチャイ
僕達もサンダルを脱いで、朝の太陽で既に熱くなっているコンクリート階段をつま先立ちで上り、正面に祀られている仏像の前に正座した。
トゥクトゥクの彼の言うとおりに手を合わせて、タイ語で「おはようございます」と挨拶した。(男はサワディー、クラップ 女性はサワディー、カーですね)
朝からおかしな寺院と敬虔な雰囲気の寺院との両方を参拝したことに、功徳を積んだ満足感で満たされたので、次はすっかりハラペコの空腹感を満たすことにした。
宿のオープンレストランで、僕はオムレツとフランスパンにヨーグルト、コーヒーを注文し、彼女はフレンチトーストとなにやらシェイクを選んだ。
だが、このヨーグルトがちょっと大きめのカレー皿のような器に一杯入っていて、いくらヨーグルトが好きな僕でもこれだけでお腹が一杯になりそうだった。
今日も快晴だ。
僕の旅は最初の数日は必ずこのように快晴なのだ。
今朝は早い時刻からの寺院参拝と美味しい朝食で、僕の心身は充足しており、嬉しさのあまりこのままメコン川に飛び込んで対岸のラオスまで泳いで行きたい衝動に駆られた。
だが、彼女の手前ここは何とか踏みとどまり、宿をあとにすることにした。
「国境に行く前にちょっと両替をしたいのです」
彼女はバーツが殆どなくて、ドルと円を持っているらしく、「ラオスではやはりバーツですか?」と訊いてきた。
「ラオスはキープだけど、バーツとそれにドルも通用するよ。国境で少しだけキープに両替するにしても、ラオス国内で使うにしても、バーツがいいね」
僕達はメインストリートを少し西に歩き、大きな銀行に入って行った。(銀行名は忘れました)
店内はエアコンが強烈に効いており、彼女が両替中、僕はバックパックをロビーの隅に置いて椅子に腰をおろし、このまま動くのが嫌になってきた。
しかもこれから先の話を何もしていなくて、国境を越えれば彼女と別れて、再びお互いに一人旅になるのかという残念な気持ちが心を過ぎった。
十五分程で彼女が両替を終えたので、仕方なく腰を上げて外に出て、ギラギラと太陽が容赦なく照りつける道路を少し歩き、前から走行してきたトゥクトゥクを捕まえて国境に向かった。
唸るエンジン音にわざと声を混ぜて、「R子さん!、僕は去年訪ねたバンビエンを再訪するので、貴方がルアンパバーンまで行くのなら、もしお邪魔でなければ、その途中までご一緒させていただけませんか?」と大声で叫んだ。
すると彼女は・・・
53 ワット・ケーク その3
ワット・ケークの本堂のような建物の内部に足を踏み入れると、広い部屋の正面の壁には、縮れた長髪の厳つい顔の男性の写真か絵か分からないカラーの肖像が掛かっていた。
その前にはヒンドゥー様式の絵や仏像が並べられており、部屋を開けてくれた中年の少しふっくらしたインド人っぽい女性がにこやかに迎えてくれた。
こんなに朝早くから何ごとか?などという態度ではなく、微笑みながらさあどうぞ!というふうに歓迎してくれたことをいいことに、僕達は遠慮なく上って、たくさんの仏像などを見て楽しんだ。
正面の部屋の男性像は、おそらくこの寺院の建立者であるルアン・プーのものだと思われた。
僕とR子さんは、最初は興味深く見て回ったがすぐに飽きてきて、十数分ほどその部屋にお邪魔しただけで外に出てきた。
おかしな仏像群に、朝から目眩をしそうになりながら寺院を出た。
すっかりお腹がすいたので宿に帰って朝食にしようと、待ってくれていたトゥクトゥクに乗って戻った。
ところがトゥクトゥクの男性は、宿からワット・ケークまで往復するだけでは百五十バーツは取り過ぎたと思ったのか、それとも暇だったのかは分からないが、国道から町中に土手を降りて少し走ると、白壁にオレンジ色の壮大な屋根の見事な建築物の敷地内に僕達を連れて行った。
「ワット・ポーチャイ!」と彼はニコッとしながら自慢げに言った。
そして、僕達に中に入ってお参りするように胸の前で手を合わせてジェスチャーで促すのだ。
この寺院はバスターミナルの近くに所在していて、ノンカイの人々に最も人気のある寺院ようで、この時間でも既に十数人の参拝人が訪れていた。
◆ワット・ポーチャイ
僕達もサンダルを脱いで、朝の太陽で既に熱くなっているコンクリート階段をつま先立ちで上り、正面に祀られている仏像の前に正座した。
トゥクトゥクの彼の言うとおりに手を合わせて、タイ語で「おはようございます」と挨拶した。(男はサワディー、クラップ 女性はサワディー、カーですね)
朝からおかしな寺院と敬虔な雰囲気の寺院との両方を参拝したことに、功徳を積んだ満足感で満たされたので、次はすっかりハラペコの空腹感を満たすことにした。
宿のオープンレストランで、僕はオムレツとフランスパンにヨーグルト、コーヒーを注文し、彼女はフレンチトーストとなにやらシェイクを選んだ。
だが、このヨーグルトがちょっと大きめのカレー皿のような器に一杯入っていて、いくらヨーグルトが好きな僕でもこれだけでお腹が一杯になりそうだった。
今日も快晴だ。
僕の旅は最初の数日は必ずこのように快晴なのだ。
今朝は早い時刻からの寺院参拝と美味しい朝食で、僕の心身は充足しており、嬉しさのあまりこのままメコン川に飛び込んで対岸のラオスまで泳いで行きたい衝動に駆られた。
だが、彼女の手前ここは何とか踏みとどまり、宿をあとにすることにした。
「国境に行く前にちょっと両替をしたいのです」
彼女はバーツが殆どなくて、ドルと円を持っているらしく、「ラオスではやはりバーツですか?」と訊いてきた。
「ラオスはキープだけど、バーツとそれにドルも通用するよ。国境で少しだけキープに両替するにしても、ラオス国内で使うにしても、バーツがいいね」
僕達はメインストリートを少し西に歩き、大きな銀行に入って行った。(銀行名は忘れました)
店内はエアコンが強烈に効いており、彼女が両替中、僕はバックパックをロビーの隅に置いて椅子に腰をおろし、このまま動くのが嫌になってきた。
しかもこれから先の話を何もしていなくて、国境を越えれば彼女と別れて、再びお互いに一人旅になるのかという残念な気持ちが心を過ぎった。
十五分程で彼女が両替を終えたので、仕方なく腰を上げて外に出て、ギラギラと太陽が容赦なく照りつける道路を少し歩き、前から走行してきたトゥクトゥクを捕まえて国境に向かった。
唸るエンジン音にわざと声を混ぜて、「R子さん!、僕は去年訪ねたバンビエンを再訪するので、貴方がルアンパバーンまで行くのなら、もしお邪魔でなければ、その途中までご一緒させていただけませんか?」と大声で叫んだ。
すると彼女は・・・
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
クルマでソロキャンプ🏕
アーエル
エッセイ・ノンフィクション
日常の柵(しがらみ)から離れて過ごすキャンプ。
仲間で
家族で
恋人で
そして……ひとりで
誰にも気兼ねなく
それでいて「不便を感じない」キャンプを楽しむ
「普通ではない」私の
ゆるりとしたリアル(離れした)キャンプ記録です。
他社でも公開☆
探偵手帳・番外編
Pero
エッセイ・ノンフィクション
最近は歳も歳なので、生存確認やマッチングアプリで知り合った相手の調査程度しか受けなくなりましたが、久しぶりに過去の思い出深いたくさんの案件を振り返ってみました。
アッと驚かないかも知れませんが、地道な調査の実話をお届けいたします。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
生きる 〜アルコール依存症と戦って〜
いしかわ もずく(ペンネーム)
エッセイ・ノンフィクション
皆より酒が強いと思っていた。最初はごく普通の酒豪だとしか思わなかった。
それがいつに間にか自分で自分をコントロールできないほどの酒浸りに陥ってしまい家族、仕事そして最後は自己破産。
残されたものはたったのひとつ。 命だけ。
アルコール依存専門病院に7回の入退院を繰り返しながら、底なし沼から社会復帰していった著者の12年にわたるセミ・ドキュメンタリー
現在、医療従事者として現役。2024年3月で還暦を迎える男の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる