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第二章 2002年 春
サバイディー、南方上座部仏教国の夕陽 ㊾
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第二章 2002年 春
49 Mut-Mee(マット・ミー) ゲストハウス
ノンカイはラオスとの国境の町で、昨年はラオスからの帰路でバンコクに戻る列車の待ち時間を利用して、Hさんというチャーミングな日本人女性と街歩きをしたことがある。
実はラオスの首都・ビエンチャンにあるブッダパークというおかしな仏像を並べた寺院を建てた人物が、このノンカイの町にもワットケークという寺院を建立しているらしい。
◆ラオスのビエンチャン郊外にあるブッダパーク
それはブッダパークと同様に訳の分からない仏像で一杯だそうなので、この町に滞在する機会があれば立ち寄りたいと前々から思っていたのだった。
駅で知り合った日本人女性と二人でトゥクトゥクをシェアして、適当な宿に連れて行ってくれと言うと、やはり気を利かせてメコン川を背にした絶好のロケーションにあるゲストハウスに案内してくれた。
トゥクトゥクを降りた通りから小道をメコン川方向に歩くと、途中にアメリカ人が営んでいるらしい貸し本屋があり、熱帯植林のような木々に囲まれた通路をさらに川縁に進むと、Mut-Mee(マット・ミー)ゲストハウスというバンガロー風の宿があった。
ここはタイ人の奥さんを持つイギリス人が経営しているらしく、中庭にはオープンレストランがあって、そこからメコン川が眺められる。
「なかなか感じのよいゲストハウスですね。あなたはいつもどんな宿に泊まるのですか?」
「そうですね、だいたい二百バーツまでの安い部屋に泊まることが多いです。カオサンでは百バーツとか百五十バーツとかの部屋に泊まります。基本的に安い宿しか泊まらないんですよ」
彼女はそのセンスある風貌に似合わず、バックパッカーの基本である安宿を定宿としているとのことだった。
受付にいた小柄で明るいタイ人女性に部屋を案内してもらった。
最初案内してくれた部屋は、窓からメコン川が眺められ、ダブルベッドにファンが天井に付いていて、トイレとホットシャワー共同、これで二百八十バーツ(八百四十円程度)という。
「いい部屋ですね。どうしますか?ここが気に入ったならどうぞ」と、僕はあくまでも彼女を優先的に考えて言った。
しかし彼女は料金にこだわりがあるのか、少し考えていたの様子なので、他の部屋も見せてもらうことにした。
次に案内された部屋は、中庭のオープンレストランを横切ったところにあり、窓からメコン川は見えないが、ちょっとしたコテージ風の室内でなかなか感じがよい。
ここもダブルベッドにファンが回り、トイレ・ホットシャワーが共同だが、料金を訊くと二百五十バーツという。
すると彼女は「私がこの部屋を選ばせてもらっても構いませんか?」と、ずいぶん気に入ったようだった。
結局、僕は最初に案内させてもらった部屋に泊まることとなり、午後六時半ごろから中庭のレストランで一緒に夕食を約束し、それぞれチェックインして暑かった十時間あまりの列車での汗を洗い流すことにした。
昼間は三十七度を越す暑さも、この時間になるとむしろ涼しく感じられて、清潔で広いシャワールームの温かいお湯がありがたい。
心身ともにスッキリとしてオープンレストランに出ると、すでにあちこちのテーブルで何組かの欧米人が食事をしていた。
灯りはかなり暗めで、流れる音楽は穏やかなクラッシックだ。
タイの東北部の町の宿で、このようなロマンティックな雰囲気で食事が出来るなんて、今回の旅のはじめには想像さえしていなかった。
しかもこの日ノンカイ駅で知り合った女性と二人で。
この宿は受付の奥が厨房になっており、厨房の横に様々なメニューが料金とともに書かれており、その近くに並べられたルームナンバー別のノートに、注文したい料理や飲み物を書いて従業員の女性に渡すのである。
僕はとりあえずカオパッド(焼き飯)とサラダ、それにシンハビールの大瓶を注文して、メコン川を背にしたテーブルについた。
しばらくして彼女も部屋から出てきて、料理の注文をしてから僕の向かいに座った。
「お名前をまだ聞いていませんでしたよね」と、僕は自分でもはっきりと分かるやや上ずった声で問いかけた。
何故って、正面からあらためて見ると、本当に驚くような美人だと今ごろになって気がついたのだから。
49 Mut-Mee(マット・ミー) ゲストハウス
ノンカイはラオスとの国境の町で、昨年はラオスからの帰路でバンコクに戻る列車の待ち時間を利用して、Hさんというチャーミングな日本人女性と街歩きをしたことがある。
実はラオスの首都・ビエンチャンにあるブッダパークというおかしな仏像を並べた寺院を建てた人物が、このノンカイの町にもワットケークという寺院を建立しているらしい。
◆ラオスのビエンチャン郊外にあるブッダパーク
それはブッダパークと同様に訳の分からない仏像で一杯だそうなので、この町に滞在する機会があれば立ち寄りたいと前々から思っていたのだった。
駅で知り合った日本人女性と二人でトゥクトゥクをシェアして、適当な宿に連れて行ってくれと言うと、やはり気を利かせてメコン川を背にした絶好のロケーションにあるゲストハウスに案内してくれた。
トゥクトゥクを降りた通りから小道をメコン川方向に歩くと、途中にアメリカ人が営んでいるらしい貸し本屋があり、熱帯植林のような木々に囲まれた通路をさらに川縁に進むと、Mut-Mee(マット・ミー)ゲストハウスというバンガロー風の宿があった。
ここはタイ人の奥さんを持つイギリス人が経営しているらしく、中庭にはオープンレストランがあって、そこからメコン川が眺められる。
「なかなか感じのよいゲストハウスですね。あなたはいつもどんな宿に泊まるのですか?」
「そうですね、だいたい二百バーツまでの安い部屋に泊まることが多いです。カオサンでは百バーツとか百五十バーツとかの部屋に泊まります。基本的に安い宿しか泊まらないんですよ」
彼女はそのセンスある風貌に似合わず、バックパッカーの基本である安宿を定宿としているとのことだった。
受付にいた小柄で明るいタイ人女性に部屋を案内してもらった。
最初案内してくれた部屋は、窓からメコン川が眺められ、ダブルベッドにファンが天井に付いていて、トイレとホットシャワー共同、これで二百八十バーツ(八百四十円程度)という。
「いい部屋ですね。どうしますか?ここが気に入ったならどうぞ」と、僕はあくまでも彼女を優先的に考えて言った。
しかし彼女は料金にこだわりがあるのか、少し考えていたの様子なので、他の部屋も見せてもらうことにした。
次に案内された部屋は、中庭のオープンレストランを横切ったところにあり、窓からメコン川は見えないが、ちょっとしたコテージ風の室内でなかなか感じがよい。
ここもダブルベッドにファンが回り、トイレ・ホットシャワーが共同だが、料金を訊くと二百五十バーツという。
すると彼女は「私がこの部屋を選ばせてもらっても構いませんか?」と、ずいぶん気に入ったようだった。
結局、僕は最初に案内させてもらった部屋に泊まることとなり、午後六時半ごろから中庭のレストランで一緒に夕食を約束し、それぞれチェックインして暑かった十時間あまりの列車での汗を洗い流すことにした。
昼間は三十七度を越す暑さも、この時間になるとむしろ涼しく感じられて、清潔で広いシャワールームの温かいお湯がありがたい。
心身ともにスッキリとしてオープンレストランに出ると、すでにあちこちのテーブルで何組かの欧米人が食事をしていた。
灯りはかなり暗めで、流れる音楽は穏やかなクラッシックだ。
タイの東北部の町の宿で、このようなロマンティックな雰囲気で食事が出来るなんて、今回の旅のはじめには想像さえしていなかった。
しかもこの日ノンカイ駅で知り合った女性と二人で。
この宿は受付の奥が厨房になっており、厨房の横に様々なメニューが料金とともに書かれており、その近くに並べられたルームナンバー別のノートに、注文したい料理や飲み物を書いて従業員の女性に渡すのである。
僕はとりあえずカオパッド(焼き飯)とサラダ、それにシンハビールの大瓶を注文して、メコン川を背にしたテーブルについた。
しばらくして彼女も部屋から出てきて、料理の注文をしてから僕の向かいに座った。
「お名前をまだ聞いていませんでしたよね」と、僕は自分でもはっきりと分かるやや上ずった声で問いかけた。
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