サバイディー、南方上座部仏教国の夕陽

Pero

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サバイディー、南方上座部仏教国の夕陽 ㉚

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     第一章 2001年 春

       三十
 
 翌日の五月二日は、前夜遅くからポツポツと降り始めていた雨が朝になっても降り続いていた。

 前夜はあれからK子さん父子と美人さんが十一時ごろにご自分のゲストハウスに帰って行き、僕はすっかり眠くなってきたので「明日はともかくルアンパバーンに向かって発つよ。この町には後ろ髪を引かれるけど、旅は先に進まないとね」と言って、先に部屋に戻ってすぐに寝てしまった。

 N君はここにあと二日程滞在してからバンコクに戻り、帰国まで数日は豪遊すると重ねて豪語していた。

 またHさんも、「私はもうここにずっと居ようかなぁ。できれば1ヶ月位」と、相変わらず訳の分からないことをおっしゃっていた。

 朝六時半頃に目が覚めて洗濯物を取りに行ったら、当然雨でビショビショだったが、考えてみると僕はラオスに入国してから毎日洗濯をしていた。
 それだけ暑くて汗をかくと言うことである。

 決意も固く、シャワーを浴びてバックパックの整理をしてから下に降りていき、二日分の宿代六万Kip(八百四十円程)を支払っていると、少し疲れた目をしてHさんが起きて来た。

「昨日は遅くまで飲んでいたの?」と訊くと、「私は藤井さんのあとすぐに部屋に戻りましたけど、Nさんは岡崎さんと話が弾んでいたようで、遅くまで話している声が聞こえていましたよ」と言った。

 そして意外にも、「私も今日、ルアンパバーンに向います」と言うのだった。

 彼女は僕と同様にこの町とこのゲストハウスに後ろ髪を引かれているようだったが、短期間の旅人はドンドン先に進まなくてはいけないのだ。

 ところが彼女が準備をしている間にN君も起きてきて、「僕もルアンパバーンに一緒に行きます」と言うのであった。

 N君のあっという間の予定変更に、またしてもHさんとふたりだけのバス旅行は一瞬の喜びに終わってしまい、ビエンチャンからバンビエンにやって来たのと同様に三人のバス移動となった。

 バスは一日一便、午前九時出発である。一時間前にはバス乗り場に行っておかないと座れない。

 ともかく僕達は朝食を摂るために近くのレストランに入り、僕はベーコンエッグ&フランスパン・ラオコーヒーを注文、彼女とN君はヌードルスープで慌しい食事を済ませた。

 宿に戻って、再びバックパックを背負い階下に降りた。

 中庭では宿の女将さんやご主人の弟さん、さらにあの可愛いタビソックも眠そうな目で起きて来ていた。

 もっとこの宿で世話になりたいが、ふたりが準備をして中庭に出てきたので、残念ながら出発だ。

 僕達三人は女将さんや家族に丁寧に別れを言い、バス発着場に向かってゆっくり歩き始めた。
 後ろを振り返ると皆が手を振っていた。僕達も負けずに手を振る。

 僕達が道路から見えなくなるまで、家族の方達は手を振ってくれていた。
 あの可愛いタビソックまでもが小さな手をいつまでも振ってくれていた。

 僕は涙が出そうになった。

 タビソックゲストハウス。とても親切で楽しい宿だった。
 きっと必ず又来るからね。昨夜のご馳走のお礼を何もしなくてごめんなさい。
 今度日本のお土産を持って帰ってきます。(実は翌年の2002年春に再訪したのですけど)
 
 さてバス発着場に八時過ぎに到着すると、既に欧米人を中心とした乗客で溢れていた。

 バンビエンからルアンババーンまでのバスは午前九時に出発し、約七時間の山岳道路を登って行く。(五万Kip、七百円円程だったと記憶します)

 乗務員が客の荷物をバスの天井に載せて、その上から幌を被せてロープで縛っている。
 乗客の中に日本人は僕達三人と、三十才前後の青年しかいないように思われた。

◆我々が乗ったバス



 発着場横の店で、退屈な旅のために飴とガムと、それにミネラルウオーターを購入し、さてバスに乗り込むと、シートはクッションがあるものの破れて中身が出ていたり無くなっている席もあり、相当年季の入ったオンボロバスだった。

 座席は三人掛けとふたり掛けが並んでおり、僕達三人は真ん中に僕が座って並んだ。

 前の座席との間隔はかなり狭いが、幸いにも僕達は一番前の席を選んだので足を投げ出すことが出来て、後ろの乗客に比べると少しは楽だった。

 午前九時になり、予測に反して定刻通り出発した。

 バスは少なくとも二十年は走り続けているのではないかと思われるくらいガタガタと音を立てたが、走り始めるとエンジンは快調そうだった。

 しばらく平坦な田舎道を走ったあと次第に登り道となり、しかも鋭いカーブが続いた。

 ラオスは経済的なことと技術的なことから、橋やトンネルを建設するまでには至っていないとみられ、やむなく山裾の形のまま道路を建設したので、このようなヘアピンカーブばかりの国道になってしまったと思われた。

 カーブの度に僕は曲がる方向の足を突っ張って、隣のHさんやN君にもたれかからないように注意をするのだが、何時間も同じことを繰り返していると足やお尻が痛くなってきた。

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