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サバイディー、南方上座部仏教国の夕陽 ㉔
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第一章 2001年 春
二十四
「よーし、もう一泊するぞ。明日は川遊びだ!」
僕はバンビエン・リゾートから帰ってきてベッドに倒れこみ、天井でグルグル回るファンを眺めながら思案した。
明日の朝のバスでルアンパバーンへ急いで発たなくとも、旅はまだ四日目で半分も経過していない。
この町も気に入ったし、K子さんも「もう一泊しましょうよ!」って言ってくれた。
僕はもう一泊することに決めた。
でも気になるのは、ビエンチャンで大勢の日本人と酒盛りをした時に一緒だったFさんとの約束のことだ。
彼女とはルアンパバーンのスカンジナヴィアカフェで、明日の午後六時に待ち合わせをしているのだった。
今朝、ビエンチャンのゲストハウスを出る時に僕が下痢気味だったために、ラッパのマークの黄色いパッケージの正露丸を、フィルムのプラスティック容器に一杯入れてくれたので、そのお礼も兼ねて明日食事の約束をしていたのだ。
彼女はビエンチャンから飛行機でルアンパバーンまで一気に飛んでいるので、今ごろはきっと町を散策しているだろう。
約束は守る主義というのが我が人生のポリシーだし、かといってさっきバンビエン・リゾートから一緒に帰ってきたK子さんと明日川遊びをするのも楽しそうだし・・・。
こんなに悩んだのは大学入試の前に受験校を決めることに毎日思案していたころ以来だなと思ったが、しばらく身動き一つしないで悩みつづけた。
でも結論はもう一泊だ。今は便利なインターネットでメールを送るという方法があるのだ。
今日のうちに彼女のメールアドレスに、「ちょっと予定が変更になり、明日の夜はルアンパバーンに入れません。明後日の午後六時に変更できませんか?」とメールを送っておけば、それが彼女の旅の予定と合わなくて、結局会うことができなかったとしても、約束を完全に破ったことにはならないじゃないか。
それともN君かHさんが明日ルアンに発つようなら伝言を頼むという手もある。
ともかくほぼ結論が出たので、シャワーを浴びて下に降りていった。
中庭ではタビソックゲストハウスの二歳になる男の子が三輪車で遊んでいた。
この宿の名称は、彼の名前に因んでつけたようだ。
「ヘイ!タビソック」と呼ぶと、彼は小さい身体を揺すりながら、裸足で僕のほうに寄って来た。
まだ幼児なのに善人悪人の区別が感覚的に分かるようで、僕には何の躊躇もなくニコニコしながら擦り寄ってきて、一緒に遊んで欲しそうな素振りを見せる。
◆タビソックと僕
しばらく彼と戯れてからインターネットカフェに行き、自分のホームページに旅の経過を書き込んでからぶらぶら町を歩いていると、ビエンチャンで一緒に夕食を食べた日本人カップルに偶然会ったので、よければ今夜の食事を一緒にどうかと誘っておいた。
宿に戻るとHさんとYさんが中庭に出てきていた。
しばらくしてN君も眠たそうな目をして出て来たので、食事に出かけましょうかということになり、K子さんと待ち合わせの郵便局の方に向かった。
郵便局までは砂利道を歩いて二分程で着いた。
すぐ隣の市場はまだ大勢の人達で賑わっており、小さい町だが結構住民の数は多いのかもしれないと思った。
まもなくK子さんがやってきて五人になり、僕が「実はビエンチャンで一緒に食事をしたのカップルに偶然会ったから、夕食を一応声かけておいたんだ」というと、皆に、「二人で食事を楽しみたいんじゃないの?余計な誘いだったんじゃないかな」と非難されてしまった。
十分程待ったが結局来なかったので皆の言う通りかもしれないと思い、この時ばかりは誰彼なく誘うのも問題だなと、少し調子に乗りすぎていたことを反省したものだった。
さて今夜の夕食はセンサワンというレストランである。
このレストランは店内と野外のどちらでも食事ができて、さらにインターネットカフェも併設している。
メニューを見ると料理の種類も結構多くて、店内を見渡すと欧米人旅行者のグループも何組かいた。
とりあえずビアラオで乾杯して、それぞれ料理を注文した。
僕はちょっとお腹の具合が変だったので、マッシュルームスープとラオスサラダを注文した。
でも、スープは塩辛くて半分以上も残してしまい、サラダも皆に手伝ってもらった。
皆さんフライドライスや春巻きやヌードルスープといったふうに、ラオスに来てからのお決まりのものを食べていたが、春巻きはちょっとベトベトしていたし、ヌードルも麺がチキンラーメンのようで、やはりベトナムやタイに比べると味はかなり落ちるような気がした。
ラオス料理はガイドブックなどには一応載っているが、実際レストランでは凝った料理はメニューになかったように思う。
もしかすればもっと高級なレストランでは、本場のラオス料理というものが食べられるのかもしれないが、少なくともバンビエンにはそのようなレストランは見当たらなかった。(今思えばラープはあったはずです)
ラオスはやっぱりフランスパンサンドイッチが世界に誇れる食べ物のような気がするが、これは悲しいかなフランス支配時代の置き土産なのである。
さて、食事の最中に三度も停電のアクシデントがあり、その度に店の女の子がろうそくを持ってきたり持って帰ったりと忙しく、それでも僕達五人はろうそくの灯りで食事をするのも面白いし、話が弾んだ。
日本に帰ったら連絡しますと、お互いのメールアドレスなどを交換したり楽しく過ごしたのだが、近くの欧米人客が度々の停電に、「ファッキン・クレイジー・ビレッジ!」と怒っていた。
一時間半ほど経って食事も終わったが、店の停電を繰り返していたので宿に戻って飲みなおそうということとなった。
二十四
「よーし、もう一泊するぞ。明日は川遊びだ!」
僕はバンビエン・リゾートから帰ってきてベッドに倒れこみ、天井でグルグル回るファンを眺めながら思案した。
明日の朝のバスでルアンパバーンへ急いで発たなくとも、旅はまだ四日目で半分も経過していない。
この町も気に入ったし、K子さんも「もう一泊しましょうよ!」って言ってくれた。
僕はもう一泊することに決めた。
でも気になるのは、ビエンチャンで大勢の日本人と酒盛りをした時に一緒だったFさんとの約束のことだ。
彼女とはルアンパバーンのスカンジナヴィアカフェで、明日の午後六時に待ち合わせをしているのだった。
今朝、ビエンチャンのゲストハウスを出る時に僕が下痢気味だったために、ラッパのマークの黄色いパッケージの正露丸を、フィルムのプラスティック容器に一杯入れてくれたので、そのお礼も兼ねて明日食事の約束をしていたのだ。
彼女はビエンチャンから飛行機でルアンパバーンまで一気に飛んでいるので、今ごろはきっと町を散策しているだろう。
約束は守る主義というのが我が人生のポリシーだし、かといってさっきバンビエン・リゾートから一緒に帰ってきたK子さんと明日川遊びをするのも楽しそうだし・・・。
こんなに悩んだのは大学入試の前に受験校を決めることに毎日思案していたころ以来だなと思ったが、しばらく身動き一つしないで悩みつづけた。
でも結論はもう一泊だ。今は便利なインターネットでメールを送るという方法があるのだ。
今日のうちに彼女のメールアドレスに、「ちょっと予定が変更になり、明日の夜はルアンパバーンに入れません。明後日の午後六時に変更できませんか?」とメールを送っておけば、それが彼女の旅の予定と合わなくて、結局会うことができなかったとしても、約束を完全に破ったことにはならないじゃないか。
それともN君かHさんが明日ルアンに発つようなら伝言を頼むという手もある。
ともかくほぼ結論が出たので、シャワーを浴びて下に降りていった。
中庭ではタビソックゲストハウスの二歳になる男の子が三輪車で遊んでいた。
この宿の名称は、彼の名前に因んでつけたようだ。
「ヘイ!タビソック」と呼ぶと、彼は小さい身体を揺すりながら、裸足で僕のほうに寄って来た。
まだ幼児なのに善人悪人の区別が感覚的に分かるようで、僕には何の躊躇もなくニコニコしながら擦り寄ってきて、一緒に遊んで欲しそうな素振りを見せる。
◆タビソックと僕
しばらく彼と戯れてからインターネットカフェに行き、自分のホームページに旅の経過を書き込んでからぶらぶら町を歩いていると、ビエンチャンで一緒に夕食を食べた日本人カップルに偶然会ったので、よければ今夜の食事を一緒にどうかと誘っておいた。
宿に戻るとHさんとYさんが中庭に出てきていた。
しばらくしてN君も眠たそうな目をして出て来たので、食事に出かけましょうかということになり、K子さんと待ち合わせの郵便局の方に向かった。
郵便局までは砂利道を歩いて二分程で着いた。
すぐ隣の市場はまだ大勢の人達で賑わっており、小さい町だが結構住民の数は多いのかもしれないと思った。
まもなくK子さんがやってきて五人になり、僕が「実はビエンチャンで一緒に食事をしたのカップルに偶然会ったから、夕食を一応声かけておいたんだ」というと、皆に、「二人で食事を楽しみたいんじゃないの?余計な誘いだったんじゃないかな」と非難されてしまった。
十分程待ったが結局来なかったので皆の言う通りかもしれないと思い、この時ばかりは誰彼なく誘うのも問題だなと、少し調子に乗りすぎていたことを反省したものだった。
さて今夜の夕食はセンサワンというレストランである。
このレストランは店内と野外のどちらでも食事ができて、さらにインターネットカフェも併設している。
メニューを見ると料理の種類も結構多くて、店内を見渡すと欧米人旅行者のグループも何組かいた。
とりあえずビアラオで乾杯して、それぞれ料理を注文した。
僕はちょっとお腹の具合が変だったので、マッシュルームスープとラオスサラダを注文した。
でも、スープは塩辛くて半分以上も残してしまい、サラダも皆に手伝ってもらった。
皆さんフライドライスや春巻きやヌードルスープといったふうに、ラオスに来てからのお決まりのものを食べていたが、春巻きはちょっとベトベトしていたし、ヌードルも麺がチキンラーメンのようで、やはりベトナムやタイに比べると味はかなり落ちるような気がした。
ラオス料理はガイドブックなどには一応載っているが、実際レストランでは凝った料理はメニューになかったように思う。
もしかすればもっと高級なレストランでは、本場のラオス料理というものが食べられるのかもしれないが、少なくともバンビエンにはそのようなレストランは見当たらなかった。(今思えばラープはあったはずです)
ラオスはやっぱりフランスパンサンドイッチが世界に誇れる食べ物のような気がするが、これは悲しいかなフランス支配時代の置き土産なのである。
さて、食事の最中に三度も停電のアクシデントがあり、その度に店の女の子がろうそくを持ってきたり持って帰ったりと忙しく、それでも僕達五人はろうそくの灯りで食事をするのも面白いし、話が弾んだ。
日本に帰ったら連絡しますと、お互いのメールアドレスなどを交換したり楽しく過ごしたのだが、近くの欧米人客が度々の停電に、「ファッキン・クレイジー・ビレッジ!」と怒っていた。
一時間半ほど経って食事も終わったが、店の停電を繰り返していたので宿に戻って飲みなおそうということとなった。
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