サバイディー、南方上座部仏教国の夕陽

Pero

文字の大きさ
上 下
24 / 195

サバイディー、南方上座部仏教国の夕陽 ㉔

しおりを挟む
    第一章 2001年 春

       二十四

「よーし、もう一泊するぞ。明日は川遊びだ!」

 僕はバンビエン・リゾートから帰ってきてベッドに倒れこみ、天井でグルグル回るファンを眺めながら思案した。

 明日の朝のバスでルアンパバーンへ急いで発たなくとも、旅はまだ四日目で半分も経過していない。

 この町も気に入ったし、K子さんも「もう一泊しましょうよ!」って言ってくれた。
 僕はもう一泊することに決めた。

 でも気になるのは、ビエンチャンで大勢の日本人と酒盛りをした時に一緒だったFさんとの約束のことだ。
 彼女とはルアンパバーンのスカンジナヴィアカフェで、明日の午後六時に待ち合わせをしているのだった。

 今朝、ビエンチャンのゲストハウスを出る時に僕が下痢気味だったために、ラッパのマークの黄色いパッケージの正露丸を、フィルムのプラスティック容器に一杯入れてくれたので、そのお礼も兼ねて明日食事の約束をしていたのだ。

 彼女はビエンチャンから飛行機でルアンパバーンまで一気に飛んでいるので、今ごろはきっと町を散策しているだろう。

 約束は守る主義というのが我が人生のポリシーだし、かといってさっきバンビエン・リゾートから一緒に帰ってきたK子さんと明日川遊びをするのも楽しそうだし・・・。

 こんなに悩んだのは大学入試の前に受験校を決めることに毎日思案していたころ以来だなと思ったが、しばらく身動き一つしないで悩みつづけた。

 でも結論はもう一泊だ。今は便利なインターネットでメールを送るという方法があるのだ。

 今日のうちに彼女のメールアドレスに、「ちょっと予定が変更になり、明日の夜はルアンパバーンに入れません。明後日の午後六時に変更できませんか?」とメールを送っておけば、それが彼女の旅の予定と合わなくて、結局会うことができなかったとしても、約束を完全に破ったことにはならないじゃないか。

 それともN君かHさんが明日ルアンに発つようなら伝言を頼むという手もある。
 ともかくほぼ結論が出たので、シャワーを浴びて下に降りていった。

 中庭ではタビソックゲストハウスの二歳になる男の子が三輪車で遊んでいた。
 この宿の名称は、彼の名前に因んでつけたようだ。

「ヘイ!タビソック」と呼ぶと、彼は小さい身体を揺すりながら、裸足で僕のほうに寄って来た。
 
 まだ幼児なのに善人悪人の区別が感覚的に分かるようで、僕には何の躊躇もなくニコニコしながら擦り寄ってきて、一緒に遊んで欲しそうな素振りを見せる。

 ◆タビソックと僕

 


 しばらく彼と戯れてからインターネットカフェに行き、自分のホームページに旅の経過を書き込んでからぶらぶら町を歩いていると、ビエンチャンで一緒に夕食を食べた日本人カップルに偶然会ったので、よければ今夜の食事を一緒にどうかと誘っておいた。

 宿に戻るとHさんとYさんが中庭に出てきていた。

 しばらくしてN君も眠たそうな目をして出て来たので、食事に出かけましょうかということになり、K子さんと待ち合わせの郵便局の方に向かった。

 郵便局までは砂利道を歩いて二分程で着いた。
 すぐ隣の市場はまだ大勢の人達で賑わっており、小さい町だが結構住民の数は多いのかもしれないと思った。

 まもなくK子さんがやってきて五人になり、僕が「実はビエンチャンで一緒に食事をしたのカップルに偶然会ったから、夕食を一応声かけておいたんだ」というと、皆に、「二人で食事を楽しみたいんじゃないの?余計な誘いだったんじゃないかな」と非難されてしまった。

 十分程待ったが結局来なかったので皆の言う通りかもしれないと思い、この時ばかりは誰彼なく誘うのも問題だなと、少し調子に乗りすぎていたことを反省したものだった。

 さて今夜の夕食はセンサワンというレストランである。
 このレストランは店内と野外のどちらでも食事ができて、さらにインターネットカフェも併設している。

 メニューを見ると料理の種類も結構多くて、店内を見渡すと欧米人旅行者のグループも何組かいた。

 とりあえずビアラオで乾杯して、それぞれ料理を注文した。

 僕はちょっとお腹の具合が変だったので、マッシュルームスープとラオスサラダを注文した。
 でも、スープは塩辛くて半分以上も残してしまい、サラダも皆に手伝ってもらった。

 皆さんフライドライスや春巻きやヌードルスープといったふうに、ラオスに来てからのお決まりのものを食べていたが、春巻きはちょっとベトベトしていたし、ヌードルも麺がチキンラーメンのようで、やはりベトナムやタイに比べると味はかなり落ちるような気がした。

 ラオス料理はガイドブックなどには一応載っているが、実際レストランでは凝った料理はメニューになかったように思う。

 もしかすればもっと高級なレストランでは、本場のラオス料理というものが食べられるのかもしれないが、少なくともバンビエンにはそのようなレストランは見当たらなかった。(今思えばラープはあったはずです)

 ラオスはやっぱりフランスパンサンドイッチが世界に誇れる食べ物のような気がするが、これは悲しいかなフランス支配時代の置き土産なのである。

 さて、食事の最中に三度も停電のアクシデントがあり、その度に店の女の子がろうそくを持ってきたり持って帰ったりと忙しく、それでも僕達五人はろうそくの灯りで食事をするのも面白いし、話が弾んだ。

 日本に帰ったら連絡しますと、お互いのメールアドレスなどを交換したり楽しく過ごしたのだが、近くの欧米人客が度々の停電に、「ファッキン・クレイジー・ビレッジ!」と怒っていた。

 一時間半ほど経って食事も終わったが、店の停電を繰り返していたので宿に戻って飲みなおそうということとなった。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

探偵手帳・番外編 

Pero
エッセイ・ノンフィクション
最近は歳も歳なので、生存確認やマッチングアプリで知り合った相手の調査程度しか受けなくなりましたが、久しぶりに過去の思い出深いたくさんの案件を振り返ってみました。 アッと驚かないかも知れませんが、地道な調査の実話をお届けいたします。

クルマでソロキャンプ🏕

アーエル
エッセイ・ノンフィクション
日常の柵(しがらみ)から離れて過ごすキャンプ。 仲間で 家族で 恋人で そして……ひとりで 誰にも気兼ねなく それでいて「不便を感じない」キャンプを楽しむ 「普通ではない」私の ゆるりとしたリアル(離れした)キャンプ記録です。 他社でも公開☆

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ボケ防止に漫画投稿初めてみた!

三森まり
エッセイ・ノンフィクション
子供に手がかからなくなったし使える時間めっちゃ多くなったのでボケ防止に何かはじめようかなぁ そうだ!(・∀・)「指を動かす 頭を使う 家にいても出来る!!」という事で インターネットエクスプローラーのTOPページで宣伝してる この「アルファポリス」とやらをやってみよう! という事で投稿初めてみました へいへい 漫画描くの楽しいよ! と そんなエッセイと 私のアルポリ(どんな約し方がスタンダートなのか知ってる方教えてください)での成果?を綴る予定です(・∀・)b

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...