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サバイディー、南方上座部仏教国の夕陽 ⑮
しおりを挟む第一章 2001年 春
ビエンチャンのナンプー広場、昔は中央に噴水と周囲に木のベンチだけの素朴な憩いの場であり待合い場所として使われていましたが、現在は夜になるとこんなふうにハイカラ(笑)
十五
午後十時を過ぎたので宿に帰って寝ることにした。
ラオス入国初日は慌しい一日だったがいろいろと経験もした。
宿への帰り道でN君が、「藤井さん、僕ちょっと飲みたりないので、少しだけ寄って帰りますわ。先に帰ってくれてエエデスよ」と言う。
僕も飲もうと思えばまだまだ飲めたが、今日は少し疲れたので、「じゃ、あまり遅くまで飲み過ぎないようにね」と言って先に宿に帰った。
土曜日の夜のファーグム通りは、この時間でもまだまだ活気に溢れていた。
宿に帰って、本日三回目のシャワーを浴びてベッドに横になった。
サイスリーゲストハウスは建物もまだ新しくて、部屋は掃除が行き届いておりベッドのシーツもパリッと清潔だった。
シャワー室はトイレと同じルームだが、一応シャワーと便器とはナイロンカーテンで仕切られてキチンとしていた。
エアコンの心地よい涼しい風に満足しながらテレビのスイッチを入れたが、どのチャンネルを回しても日本の番組は放送されていなかった。(当たり前だけど)
タイ語や英語放送の画面をしばらく観ていたら、いつの間にか寝入ってしまった。
どれくらい時間が経ったのだろう、ガチャガチャドン!という音に目が覚めると、随分と気持ち良さそうな顔をしたN君が帰って来たところだった。
「おかえり、満足した?」と訊くと、「ビアラオはホンマに美味しいビールですね。飲みやすいしいくらでも飲めますわ。ちょっと酔っ払ってますねん」と、彼は少し赤ら顔で嬉しそうに言った。
「そうだね、アサヒスーパードライの喉越しに似てるような気がするよ。これだけ暑いとビールが旨いね。ところで明日もあちこち回るよ。だからもう寝よう」
「藤井さんは元気ですねぇ。明日も暑いのとちゃいますか。ちょっとだけにしときませんか?どことどこを回るつもりですか?」
赤ら顔のN君は明日の行動にあまり気がすすまない様子だったが、せっかく来たのだから名所だけでも回っておこうよと説得した。
彼はすごく素朴で性格の良さそうな青年なので、今回は部屋をシェアしたパートナーにも恵まれ、僕は安心して眠りにつくことが出来た。
身体の痒さに夜中何度も目が覚めた。
肝臓が悪いからかなと思ったが、実は小さな蟻がベッドに勝手に上がってきて、僕の足の指を噛んでいたのだった。
何度も蟻に起こされては寝るということを繰り返して、ついに六時半頃に目が覚めたらもう寝られなくなった。
N君は隣のベッドで少し口元を開けて気持ち良さそうに寝ていた。
僕は簡単にシャワーを浴びて髭を剃り、ショートパンツとシャツを引っ掛けて早朝のメコン川を見るために出かけた。
日曜日の早朝ということもあって、ゲストハウスからメコン川が見える通りまでの道には誰も歩いていなかった。
しかしファーグム通りに出ると、朝食の客のために準備を始めているレストランもあり、通りもバイクやトゥクトゥクが走っていた。
僕は昨日の夜に歩いた土手を、メコン川の静かな佇まいを見ながら歩いた。
ラオス二日目も天気は快晴だ。やはり日本での日頃の行いの良さが、このような旅の好天となって返ってくるのだと自分にいいように解釈をした。
昨夜土手に並べられていたテーブルはそのままだったので、一つのテーブルにカメラを置いてピントを測り、メコンを背にした写真をセルフタイマーで写した。
僕はセルフタイマーでよく自分の写真を撮るのだが、ある友人は「それってちょっとおかしいよ」と指摘する。
何がおかしいのか分からないが、僕をナルシストだと思っているのかもしれない。(今では自撮りが当たり前になっていますが)
土手を少し歩いてから通りに降りて、散歩がてらに近くにある寺院をちょっと見物して行くことにした。
しかしすがすがしい朝だ。日本ではこんな気持ちの良い朝を迎えた記憶がないくらいに感じられる。
この時期のラオスは雨季に入る手前で、乾季を経て暑季らしいのだが、気温はそんなに高くないように感じられた。
確かに暑いのはものすごく暑いが、不快という体感はなかった。
ファーグム通を西に少し歩くと、角にインターホテルというかなり古そうなゲストハウスがあり、その前に(東側)ワット・チャンという、これまたかなり古そうな寺院が建っていた。(寺院が古いのは自然かもしれないが)
ここではサウナもあると聞くのだが、広い敷地に沿って北に歩き、セタティラート通りに出て東に少し戻ると、右側にワット・オントゥが所在する。
この寺院はかなり敷地が広大で、経堂の前ではオレンジ色の袈裟を着た僧侶がラジオ体操をしていた。(ラジオ体操をしているように見えた。通りから見ただけだからよく分からなかった)
ビエンチャン市内にはこのような寺院はたくさんあるようだが、どれもこれも大小の違いはあるものの、同じような印象を受けた。
ただ昨日訪れたタートルアンだけは、ちょっと別格に思えた。
さらに東に向かってトボトボと歩くとワット・ミーサイという小規模なお寺があり、昨日覗いたネットカフェの前を通って少し行くと左側がナンプ広場である。
サイスリーゲストハウスを出てから、メコンの土手を歩いて通りに戻って、概ね一周した感じである。
地球の歩き方によれば、「町歩きの中心となる噴水があり、外国人が集まるホテルやレストランが集中している」とあったが、噴水は水が出ていなかったし、確かにスカンジナビア・ベーカリーなどの洋風カフェは何軒かはあったが、中心といえるほど賑やかな所ではない。(現在は賑やかです)
僕は広場を北に歩き、お腹がすいたのでサムセンタイ通りにかかる手前にあるナンプ・カフェに入った。
この時刻では営業を始めているカフェやレストランはまだ少なかった。
勿論カオチー、つまりフランスパンのサンドイッチを注文し、飲み物は待望のカフェ・ラーオにした。
サンドイッチに挟んでもらうトッピングは、野菜などを適当に指さした。
しばらくしてテーブルに運ばれてきたカオチーは、程よくあぶるように焼かれていて、昨日と同じようにこんなに美味しいサンドイッチはないとあらためて思った。
これは大げさでも何でもなく、日本に帰ったら一度チャレンジしてみようと、このときは真剣に思ったくらいである。
さて、カフェ・ラーオであるが、予測した通りグラスに入れられて出てきて、底の方が一センチ程白くなっていた。
ご存知コンデンスミルク(練乳)であり、それを上部のコーヒーに混ぜ合わせるのは個人の好みということだ。
僕は先ず混ぜずにコーヒーだけを飲んでみたが、既に砂糖が入っていてかなり甘く感じた。
やはりここはラオスだからじっくり味わう必要があると思い、さらに底に死ぬ程入っているコンデンスミルクをかき混ぜて飲んでみたが、本当に甘くて死にそうになってしまった。
瀕死の状態でお勘定を頼むと、両方で六千五百Kipであった。(九十円程)
朝から甘ったるいコーヒーを飲んだので、ちょっとおかしな腹具合になったが、サンドイッチには満足して宿に帰った。
部屋に戻るとN君がちょうど目が覚めたところで、僕は自分だけ朝食をすませてしまったことを正直に言えなくて、「ちょっと早朝のメコン川を見てきたよ」と言った。
ところがN君は当然、「シャワーを浴びますから、朝御飯に行きましょか。ヌードルのようなものを食べたいんですわ。それでもいいですか?」と言うので、「いいねぇ。 ベトナムのフォーのようなものがないかなぁ」と、言わざるをえなかったのだった。
朝から二回食事をする破目になったのは、自分だけ先に食べてしまった自己中心的な行動に対する、メコンの神の罰のような気がしたのであった。
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