サバイディー、南方上座部仏教国の夕陽

Pero

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サバイディー、南方上座部仏教国の夕陽 ⑬

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     第一章 2001年 春

 ◆メコン川の土手にて、野外レストランのテーブルの横でのショット

 


 ◆今はこんな風にコンクリート土手(涙)

 


 


       十三

 僕とN君は野外レストランの一番奥の席に座った。
 ここからはメコン川がよく見えて爽快だった。

 隣のテーブルにはふたりの欧米人男性がビアラオを飲んでいて、すでに顔を真赤にしていた。

 僕たちも再びビアラオを二本注文し、英語で書かれたメニューを見ながら、N君はフライドライスウイズシーフードとサラダを、僕はフライドライスウイズベジタブル、そしてチキンの何ちゃらも追加した。

 要するに、海鮮チャーハンと野菜チャーハンということなんだが、フライド何ちゃらとあると別の料理かと錯覚してしまう。

 運ばれてきたチャーハンは野菜が多く入っていて、味付けも日本のものとはずいぶんと違った。
 もちろんラオスのチャーハンのほうが美味しく感じられた。

 追加したチキン料理は、運ばれてくると日本にある手羽先のようなものだったが、油分が殆どなくカサカサした食感で、味としてはいまひとつといったところであった。

 でもN君は美味しい美味しいと何度も繰り返し言って、そのチキン料理をもう一皿お代わりしていた。

N君といろいろな話をした。

 旅の動機や日本での仕事のこと、付き合っている彼女のことや結婚について等々。

 彼は三十三才で、大学は僕の後輩ということがあとで分かったのだが、大学生活が大好きだったのか、七年間も在籍したという。

 卒業後は上場企業の系列の機械メーカーに就職し、これまでほぼ順風満帆に送っており、仕事が多忙な間をやりくりして、年に二度ほどバンコクやその周辺でノンビリとした休暇を取って疲れを癒すらし。

「藤井さんはどんな仕事をしているのですか?」

当たり前だが、彼も僕の職業を訊いてきた。

 返事を少し迷ったが、僕は嘘なんてこの年まで四十七回程しか吐いていないので(年に1回ということだね)、別に話したっていいと思ったから、「実は探偵をやってるんだよ。もちろん探偵調査会社に勤めているんだけどね」と正直に話した。

「ほんまですか?探偵ってあの松田優作さんみたいなことをしてますのん?」

 N君は細い目を丸くしながら興味深そうに訊いてきた。

「いや、探偵物語の松田優作さんのような格好で、しかもあんな目立つバイクで尾行したらすぐに発覚してしまうよ。僕は尾行はあまり出なくて、家出人とか行方が分からない人の捜索とか企業調査がメインだから」

 僕は汗をかきながら説明した。

「探偵さんってほんまにいるんですね。そやけど何で探偵さんがバックパッカーなんかしてはますの?」と、彼はコテコテの大阪弁でさらに訊いてきた。

「話せば長いけどね。今流行りのネットで知り合った女性がバリバリのバックパッカーだったんだよ。
 それで、その女性から海外への個人旅行の話をいろいろ教えてもらったって訳なんだ。
 去年の夏にベトナムの北部に初めての一人旅をしたんだけど、心無い友人知人は、それを単なるストーカーと言うんだよ。
 まあその女性がベトナム旅行中に、僕が滞在先を訪ねて行ったのだから、そう言われても仕方がないけどね」

 知り合ったばかりの日の夕食の場で、お互いのプライベートな話まで交わすなんて、きっとラオスという国の穏やかな雰囲気が僕たちをリラックスさせているのだと思った。

 ふたりでビアラオを5本も空けて、話をしているうちに、いつの間にかメコン川の向こうに夕陽も沈んでしまった。

 僕達はビエンチャンの夜を楽しんだ。

 周りでは現地の若者や欧米人たちがビアラオを飲んで盛り上がっている。
 天気も素晴らしい。体調も良好だ。これは順調な旅だと、僕は幸せな気分に浸った。

 ビアラオをふたりで五本も飲み、いい気持ちでレストランを出て、再びメコン川の土手を宿の方向に向かって歩き出した。

 夜はまだ8時半頃だから、土手沿いズラーッと並べられたテーブルでは、ビエンチャン市民がメコン川を眺めながら憩っていた。

 土手の上のテーブルは、近くの焼き鳥屋台やジュース屋台の客用に並べているもので、人々は仕事のあとのリラックスタイムを過ごしているのだろう。

 メコンの流れは暗闇で全く見えないが、川向こうの遥か遠くには、タイのシーチェンマイの街灯りが微かに見え、メコンを挟んで向こうとこちらでは異なった国民の暮らしが営まれていることに、島国で育った僕は少し不思議な気持ちになるのだった。

 
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