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サバイディー、南方上座部仏教国の夕陽 ①
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これまでラオスを訪れた回数は二十回を超え、数々の出会い、アクシデント、そしてある時は地元の子供たちに命を救われたこともあり、さらに2015年には髪と眉をある寺院の僧侶に剃ってもらい、ますますこの国の虜(とりこ)となっていく僕です。
この物語は中国に侵食される前のラオスを振り返りながら、この国の素晴らしさを感じてもらえたらという気持ちで、過去にメールマガジンなどで配信した内容を加筆・修正しながら進めてまいります。
よろしくお願いします。
第一章 2001年 春
一
2001年4月27日金曜日の午前10時、関西国際空港の出発ロビーに僕はいた。
昨日まで溜まっていた仕事を何とか必死でこなし、予定通りに旅に出ることが出来た。
僕の仕事は探偵である。
探偵といってもその担当は何種類かあるが、中年と呼ばれる年齢になって以来、年々体力的な衰えを感じる僕は、尾行調査にはめったに出動しない。
基本は結婚調査や企業調査、家出人捜索や所在不明になった人物調査など、いわゆる内偵部門を担当しているわけである。
相変わらず世の中にはおかしな事件が多いが、世相は直接我々の調査業界にも反映されてくる。
このところ目立って多いのが、ネットで知り合った男女関係のトラブルなどに関する調査依頼である。
バーチャルな出会いから騙し騙される男女の人間模様。
相手の素性や自宅も知らず、携帯電話番号とメールアドレスだけを知るだけで肉体を重ねる男女。
そこからトラブルになるのは当然といえば当然で、時には金銭問題も絡んでくる。
【本当にうんざりな世の中だなぁ】
仕事から解放された満足感で自然と口元がほころんでくるのを感じながら、ゴールデンウイーク前の大勢の海外旅行者達に混ざって出発を待っていた。
目的地はタイのバンコクからラオス人民民主共和国。
去年僕をベトナムに導いてくれたあの人が、ベトナム入国の前に約1ヶ月間旅した山岳国である。
この国のことはあまり知らない人が多く、書店でも“地球の歩き方”で紹介されている程度だが、僕はこの数ヶ月間、ネットで多くの旅行記や情報を手に入れていた。
しかし旅は何が起こるか分からないから、こんな情報は参考程度だ。
10:30分発のシンガポール航空バンコク行きはほぼ満席だった。
僕は各席に設けられているTVにも興味を示さずに、機内食時間以外はずっと綺麗なスチュワーデスさんを眺めていた。
シンガポール航空のスチュワーデスの制服はどうしてこんなにセクシーなんだろう。
それとも制服のせいじゃなくスチュワーデスさんが皆スタイルの良い女性ばかりなのか?
などと考えていると、あっという間にバンコク・ドムアン空港に着いた。
バンコクとは時差が2時間なので、到着現地時刻は午後2時過ぎだった。
ドムアン空港は関空と比べても見劣らないほど巨大で、空港内施設の所在も分かりやすく、ここからアジア各国にルートがあり、玄関口という表現がピッタリである。(当時はまだスワンナプーム空港はありません)
入国手続きを終えて外に出ると、急いで鉄道駅に向かって歩いた。
気温は既に35度を超えており、重いバックパックを背負った背中からみるみる汗が流れ始めた。
ドムアン駅はこれが空港駅とは思えないくらい殺風景な駅で、道端にドカーンと駅が設置されたという感じだ。
階段を下ってホームに下りるとちょうど列車が到着するところだった。
僕は急いでチケット売り場に走り、ホアランポーン駅までの切符を購入し(10B(バーツ)、当時1Bは2.7円程度)、3等車両に飛び乗った。
扇風機だけがカラコロと気だるく回っている列車内はほぼ満員で、汗でビッショリになった怪しげな中年日本人の突然の登場に、乗客は驚いた顔でこちらを見ていたが、その顔は次第に微笑みに変わったように思えた。
何しろ「微笑みの国タイ」だから、そんなふうに感じてしまうのかも知れない。
僕は流れる汗を拭うこともせず、バックパックを降ろして突っ立ったまま窓の外の景色を眺めた。
この物語は中国に侵食される前のラオスを振り返りながら、この国の素晴らしさを感じてもらえたらという気持ちで、過去にメールマガジンなどで配信した内容を加筆・修正しながら進めてまいります。
よろしくお願いします。
第一章 2001年 春
一
2001年4月27日金曜日の午前10時、関西国際空港の出発ロビーに僕はいた。
昨日まで溜まっていた仕事を何とか必死でこなし、予定通りに旅に出ることが出来た。
僕の仕事は探偵である。
探偵といってもその担当は何種類かあるが、中年と呼ばれる年齢になって以来、年々体力的な衰えを感じる僕は、尾行調査にはめったに出動しない。
基本は結婚調査や企業調査、家出人捜索や所在不明になった人物調査など、いわゆる内偵部門を担当しているわけである。
相変わらず世の中にはおかしな事件が多いが、世相は直接我々の調査業界にも反映されてくる。
このところ目立って多いのが、ネットで知り合った男女関係のトラブルなどに関する調査依頼である。
バーチャルな出会いから騙し騙される男女の人間模様。
相手の素性や自宅も知らず、携帯電話番号とメールアドレスだけを知るだけで肉体を重ねる男女。
そこからトラブルになるのは当然といえば当然で、時には金銭問題も絡んでくる。
【本当にうんざりな世の中だなぁ】
仕事から解放された満足感で自然と口元がほころんでくるのを感じながら、ゴールデンウイーク前の大勢の海外旅行者達に混ざって出発を待っていた。
目的地はタイのバンコクからラオス人民民主共和国。
去年僕をベトナムに導いてくれたあの人が、ベトナム入国の前に約1ヶ月間旅した山岳国である。
この国のことはあまり知らない人が多く、書店でも“地球の歩き方”で紹介されている程度だが、僕はこの数ヶ月間、ネットで多くの旅行記や情報を手に入れていた。
しかし旅は何が起こるか分からないから、こんな情報は参考程度だ。
10:30分発のシンガポール航空バンコク行きはほぼ満席だった。
僕は各席に設けられているTVにも興味を示さずに、機内食時間以外はずっと綺麗なスチュワーデスさんを眺めていた。
シンガポール航空のスチュワーデスの制服はどうしてこんなにセクシーなんだろう。
それとも制服のせいじゃなくスチュワーデスさんが皆スタイルの良い女性ばかりなのか?
などと考えていると、あっという間にバンコク・ドムアン空港に着いた。
バンコクとは時差が2時間なので、到着現地時刻は午後2時過ぎだった。
ドムアン空港は関空と比べても見劣らないほど巨大で、空港内施設の所在も分かりやすく、ここからアジア各国にルートがあり、玄関口という表現がピッタリである。(当時はまだスワンナプーム空港はありません)
入国手続きを終えて外に出ると、急いで鉄道駅に向かって歩いた。
気温は既に35度を超えており、重いバックパックを背負った背中からみるみる汗が流れ始めた。
ドムアン駅はこれが空港駅とは思えないくらい殺風景な駅で、道端にドカーンと駅が設置されたという感じだ。
階段を下ってホームに下りるとちょうど列車が到着するところだった。
僕は急いでチケット売り場に走り、ホアランポーン駅までの切符を購入し(10B(バーツ)、当時1Bは2.7円程度)、3等車両に飛び乗った。
扇風機だけがカラコロと気だるく回っている列車内はほぼ満員で、汗でビッショリになった怪しげな中年日本人の突然の登場に、乗客は驚いた顔でこちらを見ていたが、その顔は次第に微笑みに変わったように思えた。
何しろ「微笑みの国タイ」だから、そんなふうに感じてしまうのかも知れない。
僕は流れる汗を拭うこともせず、バックパックを降ろして突っ立ったまま窓の外の景色を眺めた。
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