ARROGANT

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翌木曜日

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「おっ……お、おと、男って、」
 岩城が立ち上がり原田と君島を交互に指差しながら、変な動物の鳴き声のような音をそこまで発した。
 面倒だなぁ、と原田がため息をつく。
「おと、男ってことは、てことはその、お二人は、」
「違います」
 いつものように原田が否定する。
「ち!違いますって何がですか!」
 岩城の突っ込みに、あ、またタイミングを間違えた、と原田は天井を仰いだ。
 健介は俯いて笑いを噛み殺し、その横で朱鷺は携帯を見ている。

「えーと、」
 また、マイクを引き寄せて君島が口を開いた。
「一人での育児が大変な父子家庭を手伝うために、友人の僕が同居してます。全く珍しいことではないと思うけど?」
「ゆ、友人?友人?友人なんですか?」
「そうだよ」
「……で、でも、秋ちゃんさん、」
「はっきり言っておくよ。僕も浩一もノーマルだよ。きちんとそれぞれ相手もいる」


 君島がそう言った直後、調整室から指示が飛び突然CMが入れられた。スタジオ内の全員が驚いて一瞬沈黙した。
 大人たちが驚く中、健介が笑っている。笑いながら父の袖を引いた。
「父さん、父さんもきちんと相手がいるの?」
「……俺はいないよ。君島だってどうせきちんとした相手ではないだろ」
 原田の小声の返事に、健介がまた笑った。
「あのね、秋ちゃんは今ね、コンヤクシャのいるカノジョと付き合ってるんだよ」
「なんだそれ?」
「あのね、この前ハワイに一緒にいったのがね、コンヤクシャのいるラジオの人で、……あれ?」

 そんな父子のやり取りの最中に、調整室から慌てたような声が聞こえた。
『さ、咲良、』
 ディレクターがマイクで小声で訊いてきた。
『どういうことだ?秋ちゃんってのは、』
 咲良が、にやりと笑った。
「そう。あの秋ちゃん」
『じゃ、じゃあ、この前の、』
「そうよ。先週のハワイ旅行、この秋ちゃんと二人で行ったのよ」



「えぇえええええええ~~~~~~っ!!!」



 スタジオ内と調整室から大勢の大声が上がり、同時に君島が立ち上がって咲良の横から逃げた。


「……あ、秋ちゃんの、コンヤクシャのいる、ラジオのカノジョって……」
「うわ……。こいつの修羅場、久しぶりに遭遇するなぁ……」
 健介と原田が呟いている横で、頬杖をついた朱鷺が微笑んだまま携帯に何か打ち込んでいる。





≪なんだ?≫
≪また突然の中断≫
≪そろそろ放送終わるんじゃね?≫
≪もうすぐ現地着(^^)≫
≪私もすでに出待ちー(^▽^)/≫
≪結構集まってるねー!(゜0゜)≫
≪生パパ撮ったら待ち受けにしよ^^≫
≪え?これ、収録だよね?≫
≪え?≫
≪生だろー?≫
≪本番は終わってるんじゃない?≫





『男ってどういうことだ!咲良!』
 マイク越しに怒鳴るディレクターに咲良が静かに応えた。
「自分の胸にも訊いてみれば?」
『……な!なんのことだ?!』
「他に専属DJがいるんでしょ?」
『なんだそれ?』
「ベタよね?車にピアスの片っ方とか」
『……!』
「シートに落ちてた。私のじゃないおっきい黄色いの。見つけてネ!って場所に」
『そ、そういうお前だって!』
「そうね。お互い様ってことよね?」


「え……あの、咲良さん、その、ディレクターと、何か、」
 岩城の質問に咲良が簡単に応えた。
「うん。あのね、引き抜きを打診されたんだけどね、他にも引き抜きしてたことがわかったからお断りしたところ」
「引き抜き?え?ディレクター独立するんすか?」
「そうみたいね」





≪残念ながら収録。生っぽい演出してあるけどね≫
≪えー!なんでー?≫
≪生だろー!ビルにパパたちが入ってくの見たってヤツいるぞ!≫
≪収録は今日だったみたい。結構放送直前≫
≪確かにリアルタイムのレスポンスはないよな?ここにも≫
≪裏から出てくの見たよ≫
≪いつ?!≫
≪私も見た!放送中に出て行った!≫
≪なんと!そりゃ盲点だった!≫
≪やられたー!≫
≪裏口かー!≫
≪まだ間に合う?≫
≪ムリだろ≫






「帰ろう!」
 君島が三人にそう言ってドアを開けた。
 健介に腕を掴まれてそれに気付いた朱鷺が、操作を終えた携帯をポケットに入れてから君島に笑って手話で指示した。
「え?ヤマちゃんが迎えに来てるの?ランクル?ハイエースか!」
 手話を交えて朱鷺に確認し、そっかー!とやっと君島も笑った。朱鷺の兄がワンボックスで迎えに来ているらしい。
「裏に回ってもらった方がいいんじゃない?僕たちラジオに出ちゃったし集まったりしてないかな?」
 君島がそう提案したが、朱鷺は笑ったまま首を振って示した。
『今は裏の方に多く集まってる』
 そうなの?と君島が首を傾げてから振り向いた。

「あとよろしくね、咲良ちゃん!あ、そこの袋のおせんべい食べて!」
 君島がそう咲良に呼びかけ、咲良が右手を上げて挨拶した。


 そして四人でスタジオを飛び出し、朱鷺の指示通りに正面玄関に向かった。




≪じゃーもう帰るわー≫
≪裏口から逃げられたとは≫
≪裏もやっぱいないし≫
≪追いつけないよねー≫
≪残念≫
≪生秋ちゃん見たかったなー≫
≪生パパ見たかった!≫
≪最初から裏で張ってればよかった≫




 ビル正面にまだまだギャラリーは残っていたが、ほぼ皆手の中の携帯を見ていた。
 だから、飛び出してきた四人に気付くのが遅れた。

 そしてその四人はまっすぐに正面の道路に横付け駐車しているスライドドア全開のワンボックスに走りこんだ。


「あ」
「え?」
「え?今の、」
「あ!」
「秋ちゃん!」
「いたじゃねーかっ!」
「あーっ!」
「生だったんじゃない!」
「やられたっ!」



 気付いたギャラリーが写メする間もなく、車は走り去った。
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