36 / 194
土曜日
10
しおりを挟む
わからない。
わからない。
自分の名前が、ずっと僕を表していた「原田健介」が、
僕の名前じゃなかった。
僕は
山崎まこと
これだけのこと。
たかが名前。
たかが名前なのに。
よくわからない。
わからない。
自分が今何を感じているのかわからない。
何も感じていないような気もする。
多分、平気な気がする。
きっと何も感じてない。
「だからね」
君島が身体を折り曲げている健介の頭を撫でて続ける。
「養子縁組の申請と、名前の変更の申請を、15になったら健介自身ができる。だから15になったら説明しようと思ってた」
何も感じていない。
僕は、平気。
健介は首を振る。
「つまり」
つまり、こういうこと
「つまり、あのお母さんが、僕に健介って名前付けて、自転車小屋に捨てて、」
そう口にした後、健介の身体ががたがたと震え始めた。
どうして震えているのか健介自身よくわからなくて驚いている。
君島が震えだした健介の身体を両腕で抱え、その頭の上で囁いた。
「ごめん。これが大筋なんだ。突然全てを知るのはすごくショックだと思う。でももうゆっくり小出しにはできない。ごめんね」
わからない。
秋ちゃんの言うことが、何もかもわからない。
ショックなんか受けてない。
だって全然わからない。
なんで謝るのかもわからない。
「正直、母親が現れるとは思ってなかった。今頃になってよくも顔を出せたものだと思う。だいたい探し出せるはずがないのに。それに。浩一」
震えの止まらない健介を抱いた君島の手に、少し力が入る。
「よくも健介を渡したものだと思うよ。本当に呆れる。あれだけ苦労して健介を引き取ったのに、よくもあっさり渡したもんだよ」
俯いたまま、健介は細く長く、息を吐いた。
不思議と震えが収まってきた。
そうなのか。
お母さんに捨てられた僕を拾った父さんが苦労して僕を育てた。
そういうことか。
嘘みたいだ。
本当じゃないみたいだ。
夢の中にいるみたい。
僕は子供だからきっと何もわからない。
本当って何かわからない。
僕が原田健介じゃないのなら、今までの僕が嘘だった。
父さんが苦労して育てた僕が、嘘だった。
それならもう、
ここにはいられない。
もう、父さんのところにはいられない。
呼吸を忘れて健介はそういう結論を見つけた。
もうこれ以上、父さんに苦労は掛けられない。
健介はそういう結論を導き、頷いて顔を上げた。
そして微笑んだ。
「うん。わかった。ごめんなさい。いままで、ごめんなさい」
健介は君島を見上げて微笑んで、そう言った。
わからない。
自分の名前が、ずっと僕を表していた「原田健介」が、
僕の名前じゃなかった。
僕は
山崎まこと
これだけのこと。
たかが名前。
たかが名前なのに。
よくわからない。
わからない。
自分が今何を感じているのかわからない。
何も感じていないような気もする。
多分、平気な気がする。
きっと何も感じてない。
「だからね」
君島が身体を折り曲げている健介の頭を撫でて続ける。
「養子縁組の申請と、名前の変更の申請を、15になったら健介自身ができる。だから15になったら説明しようと思ってた」
何も感じていない。
僕は、平気。
健介は首を振る。
「つまり」
つまり、こういうこと
「つまり、あのお母さんが、僕に健介って名前付けて、自転車小屋に捨てて、」
そう口にした後、健介の身体ががたがたと震え始めた。
どうして震えているのか健介自身よくわからなくて驚いている。
君島が震えだした健介の身体を両腕で抱え、その頭の上で囁いた。
「ごめん。これが大筋なんだ。突然全てを知るのはすごくショックだと思う。でももうゆっくり小出しにはできない。ごめんね」
わからない。
秋ちゃんの言うことが、何もかもわからない。
ショックなんか受けてない。
だって全然わからない。
なんで謝るのかもわからない。
「正直、母親が現れるとは思ってなかった。今頃になってよくも顔を出せたものだと思う。だいたい探し出せるはずがないのに。それに。浩一」
震えの止まらない健介を抱いた君島の手に、少し力が入る。
「よくも健介を渡したものだと思うよ。本当に呆れる。あれだけ苦労して健介を引き取ったのに、よくもあっさり渡したもんだよ」
俯いたまま、健介は細く長く、息を吐いた。
不思議と震えが収まってきた。
そうなのか。
お母さんに捨てられた僕を拾った父さんが苦労して僕を育てた。
そういうことか。
嘘みたいだ。
本当じゃないみたいだ。
夢の中にいるみたい。
僕は子供だからきっと何もわからない。
本当って何かわからない。
僕が原田健介じゃないのなら、今までの僕が嘘だった。
父さんが苦労して育てた僕が、嘘だった。
それならもう、
ここにはいられない。
もう、父さんのところにはいられない。
呼吸を忘れて健介はそういう結論を見つけた。
もうこれ以上、父さんに苦労は掛けられない。
健介はそういう結論を導き、頷いて顔を上げた。
そして微笑んだ。
「うん。わかった。ごめんなさい。いままで、ごめんなさい」
健介は君島を見上げて微笑んで、そう言った。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
隣の人妻としているいけないこと
ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。
そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。
しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。
彼女の夫がしかけたものと思われ…
隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました
ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら……
という、とんでもないお話を書きました。
ぜひ読んでください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる