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22・沙羅
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理久には酷い目に遭わされた。
まさかタクヤを呼び出すなんて!冗談じゃない!あり得ない!
私は天才だからそこはなんとかごまかしたけど。そっこーでスマホ確認して私の部屋で朝エッチしていろいろ忘れてもらったけど。タクヤあほだから。
で、スマホ探られてタクヤを知られたってことは他のいろいろも知られたってことだけど。
でもこれはこれでプライバシーの大侵害だから。犯罪だから。謝罪してもらわないと。
その後理久には二度と連絡してくるなってメッセージを最後に全部ブロックされた。
冗談じゃない。理久のくせにそんな権利があると思うな、と私は新たなスマホを調達した。
そして理久に電話して、諄々と説教してやった。私は心が広いから今回は許してあげるけど二度とは許さないから。とりあえずは謝罪を受けに明日行くから、と伝えた。
私が初恋相手である理久は純情で、恋多き私とは経験値も許容枠も何もかも違う。
理久にとっては私の一挙手一投足の何もかもが大ごとに見えるのだろうけど、私にとっては全てそれほどの意味も持たないことばかりだ。
キスなら挨拶代わりだし、手を繋ぐのも肩を抱かれるのも友達のスキンシップだし、セックスも流れでするものだ。愛があるとかないとかその区別すら意味がない。あってもなくてもするものだから。
ただそれは私レベルに達してないとただの色情淫乱で終わることであって、理久には無理。
経験も才能もない理久には愛のないセックスはできないから。
だから、私以外とセックスしてはならない。
愛のあるセックスを私以外としてはならない。
理久は私の男だから。
泥棒猫ちゃんなんかに理久の愛は渡さない。
明日はそれを思い知らせてやろうと思う。
そして早朝から新幹線で出掛けた。その甲斐あって着いたのは午前中。
本当は買ったばかりのワインレッドのタイトなワンピースを着たかったがどうせ会ってすぐに脱ぐので、捲りやすいミニ丈のスカートに外しやすいボタン少なめの花柄のブラウスと押し倒されて下敷きになってもシワにならないニットのジャケットを羽織った。
出発する前から新幹線の中でも何度もメッセージを送り、到着してすぐ「今駅に着いたところ!(はぁと)」と送ったが、全く既読にならない。でもそれもいつものことなので構わず理久の部屋に向かう。駅近物件ではあるけど歩くには遠くて部屋に着いたらすぐ足を揉んで欲しいと思うけどでもその前にセックスよねと思いながら歩いた。
やっとアパートに到着して、今到着!ドア開けて待ってて!とメッセージを送ろうと階段前に立ち止まりスマホを取り出した。
その時後ろを自転車がものすごい勢いで通り過ぎ、風圧に驚いて振り返ると、髪の長い女が少し先の駐輪所前に急ブレーキで自転車を停めた。そのまますぐそこに自転車を突っ込んで慌てて鍵を掛けて籠のバッグをひったくるようにして目の前にいる私に目もくれず階段を駆け上がって行った。
ものすごくお急ぎのご様子。トイレでも我慢してた?
ワンルームのこのアパートの二階には八部屋ある。どこかの住人かも知れない。
しかし、女の勘が働いた。
私も駆け出した。
そして案の定、理久の部屋の前でその女は立ち止まっていた。
チャイムを押そうか鍵を開けようか躊躇っているようで、合鍵を摘まんだ手が浮いたまま。
いや、合鍵じゃない。あの色は本物だ。理久の持ってるオリジナルと同じシルバーだ。本鍵だ。
本鍵なんて私でも持っていないのに。本鍵なら私が持つべき物なのに。
不愉快だが、これは先日の女に違いない。
私は音を立てないように大股で彼女に近付いた。
「泥棒猫ちゃん」
低い声で囁きチャイムの前に浮いている女の右手を掴んだ。女は息を呑んで驚き、摘まんでいた鍵を落とした。
ラッキー。私はすぐにしゃがんでそれを拾い、彼女を見上げた。
風に吹かれまくった髪はもっさもさに広がり、自転車を飛ばしてきたせいだろうけど息を切らせて頬を赤らめ、服装と言えばカーキのジャケットにプリーツスカートにスニーカーのちょいそこファッション。
顔立ちはそこそこ可愛いけどそれだけだ。負ける気がしない。
と、立ち上がった。
「何しに来たの?泥棒猫ちゃん。しつこいわ」
「……泥棒、なんて、」
首を振って口答えしようとする途中に被せる。
「人のものを盗むことを泥棒って言うのよ」
「盗んでません」
「理久は私の男なの」
「聞いてません」
そんなことよりも。
「ここに何しに来たの?理久に呼ばれた?」
案の定、女は黙った。
「違うわよね?約束があったらこんなところに佇んでないわよね?チャイム押すか鍵開けてるわよね?」
そう笑いながら、拾った鍵を見せびらかすように振ってやる。
この女も理久と連絡が取れないのだ。だからここに突撃しにきた。
「どうして?まさか理久と連絡取れないの?もしかしてスマホブロックされちゃった?」
私もそうされたから、と思い訊いてみた。
すると女が唇を噛んだ。
まじで?理久この子もブロックしたんだ?ウケる。
と、つい笑いそうになる。
「えー!ちょっとスマホブロックされたのに突撃ー?うっそ、引くわー!」
笑みで上がる口角を手で隠して、眉だけ潜ませて深刻そうな声で詰ってみた。
すると女は怯えたような表情で私を見上げてくる。
「ねぇ、ブロックって別れ話よりも決定的よね?それが理久の意志だって分かっててこんなことしてるの?」
女の顔が段々青くなる。
「自分が何やってるか分かってる?」
そう言って、一歩近付いて囁いてやった。
「あなたのやってること、ストーカー行為」
その言葉を出すと、女の青い顔から表情がなくなった。
女がこの顔をしたらだいたい男を諦めることを経験から知ってるけど、一応念のためダメ押しした。
「そもそもあなたじゃ理久に釣り合わないから。お友達もみんな嗤ってるでしょ?ハイスペックイケメンに欺されちゃったなんて浅ましい子!なんて」
女のスペックが如何ばかりか知らないが、私より高いということもないだろうし。案の定女は一層青くなり、目を伏せた。
「だいたい理久と私、将来一緒になる約束してるのよ。今は離れてるけどいずれ一緒に地元に帰るの。あなたの入る余地は最初からないのよ」
少し震え始めている。どうやらトドメを刺せたようだ。
「こんなことして理久に迷惑掛けても疎まれるだけよ?今だったらまだね、憎まれることはないと思うから。この鍵は返しておくからこのまま帰りなさい」
女がまだ動かない。
「こんなストーカーみたいな真似これ以上続けたら理久に嫌われるよ?私はあなたが憎いけど、悪いのは理久であなたじゃないから。どんな付き合いだったか知らないけど、あなたのその綺麗な思い出まで汚すことになるんじゃないの?」
汚すもなにもその思い出が偽りの物だけれど、ここは自主的に帰っていただくのが一番だ。
「こんなことやめて理久にも会わないで綺麗な思い出のまま別れた方がいいわ」
そして女は深く俯き、細くため息をついて踵を返し、帰って行った。
私も大きくため息をついてその姿を見送り、階段を降りる音が聞こえなくなったところでやっと腹を抱えて笑った。
楽勝だった。これまでやっつけた相手の中で一番楽勝!一番手強かったのはバスケ部のマネージャーだったし結局後で彼を略奪しかえされた。あれと比べるまでもなく全然弱い相手だった!
まぁきっと理久のこともそんなに好きじゃなかったんだろうし。ほんとにハイスペイケメンに靡いただけの浅ましい子だったのね。
さ、邪魔者もいなくなったし、久々に理久と睦み合おうかしら。
と鍵穴に鍵を刺そうとしたところでドアが開いた。
顔を出したのは当然理久。
「あ!理久!待ってた?」
にっこり笑顔でまずそう訊いた。
「やっぱり駅から歩くのたいへーん!足が痛くなっちゃ」
「なんだそれ?」
被せるようにそう訊かれた。
意味が分からず可愛く笑って小首を傾げている間に、持っていた鍵を奪われた。
「この鍵、誰が、」
目聡いな、と舌打ちをしたくなったが、ここはある程度事実を語ることにする。
「今、ブスが持って来た」
「ブス?」
「ドブス」
「……背、低かった?」
「高かった」
「ああ……」
背の高いブスに心当たりがあるらしい。
「髪の短い?」
「そうそう。その髪が短くて大柄なブス」
「そうか」
理久もため息をついた。
理久も楽勝!
まさかタクヤを呼び出すなんて!冗談じゃない!あり得ない!
私は天才だからそこはなんとかごまかしたけど。そっこーでスマホ確認して私の部屋で朝エッチしていろいろ忘れてもらったけど。タクヤあほだから。
で、スマホ探られてタクヤを知られたってことは他のいろいろも知られたってことだけど。
でもこれはこれでプライバシーの大侵害だから。犯罪だから。謝罪してもらわないと。
その後理久には二度と連絡してくるなってメッセージを最後に全部ブロックされた。
冗談じゃない。理久のくせにそんな権利があると思うな、と私は新たなスマホを調達した。
そして理久に電話して、諄々と説教してやった。私は心が広いから今回は許してあげるけど二度とは許さないから。とりあえずは謝罪を受けに明日行くから、と伝えた。
私が初恋相手である理久は純情で、恋多き私とは経験値も許容枠も何もかも違う。
理久にとっては私の一挙手一投足の何もかもが大ごとに見えるのだろうけど、私にとっては全てそれほどの意味も持たないことばかりだ。
キスなら挨拶代わりだし、手を繋ぐのも肩を抱かれるのも友達のスキンシップだし、セックスも流れでするものだ。愛があるとかないとかその区別すら意味がない。あってもなくてもするものだから。
ただそれは私レベルに達してないとただの色情淫乱で終わることであって、理久には無理。
経験も才能もない理久には愛のないセックスはできないから。
だから、私以外とセックスしてはならない。
愛のあるセックスを私以外としてはならない。
理久は私の男だから。
泥棒猫ちゃんなんかに理久の愛は渡さない。
明日はそれを思い知らせてやろうと思う。
そして早朝から新幹線で出掛けた。その甲斐あって着いたのは午前中。
本当は買ったばかりのワインレッドのタイトなワンピースを着たかったがどうせ会ってすぐに脱ぐので、捲りやすいミニ丈のスカートに外しやすいボタン少なめの花柄のブラウスと押し倒されて下敷きになってもシワにならないニットのジャケットを羽織った。
出発する前から新幹線の中でも何度もメッセージを送り、到着してすぐ「今駅に着いたところ!(はぁと)」と送ったが、全く既読にならない。でもそれもいつものことなので構わず理久の部屋に向かう。駅近物件ではあるけど歩くには遠くて部屋に着いたらすぐ足を揉んで欲しいと思うけどでもその前にセックスよねと思いながら歩いた。
やっとアパートに到着して、今到着!ドア開けて待ってて!とメッセージを送ろうと階段前に立ち止まりスマホを取り出した。
その時後ろを自転車がものすごい勢いで通り過ぎ、風圧に驚いて振り返ると、髪の長い女が少し先の駐輪所前に急ブレーキで自転車を停めた。そのまますぐそこに自転車を突っ込んで慌てて鍵を掛けて籠のバッグをひったくるようにして目の前にいる私に目もくれず階段を駆け上がって行った。
ものすごくお急ぎのご様子。トイレでも我慢してた?
ワンルームのこのアパートの二階には八部屋ある。どこかの住人かも知れない。
しかし、女の勘が働いた。
私も駆け出した。
そして案の定、理久の部屋の前でその女は立ち止まっていた。
チャイムを押そうか鍵を開けようか躊躇っているようで、合鍵を摘まんだ手が浮いたまま。
いや、合鍵じゃない。あの色は本物だ。理久の持ってるオリジナルと同じシルバーだ。本鍵だ。
本鍵なんて私でも持っていないのに。本鍵なら私が持つべき物なのに。
不愉快だが、これは先日の女に違いない。
私は音を立てないように大股で彼女に近付いた。
「泥棒猫ちゃん」
低い声で囁きチャイムの前に浮いている女の右手を掴んだ。女は息を呑んで驚き、摘まんでいた鍵を落とした。
ラッキー。私はすぐにしゃがんでそれを拾い、彼女を見上げた。
風に吹かれまくった髪はもっさもさに広がり、自転車を飛ばしてきたせいだろうけど息を切らせて頬を赤らめ、服装と言えばカーキのジャケットにプリーツスカートにスニーカーのちょいそこファッション。
顔立ちはそこそこ可愛いけどそれだけだ。負ける気がしない。
と、立ち上がった。
「何しに来たの?泥棒猫ちゃん。しつこいわ」
「……泥棒、なんて、」
首を振って口答えしようとする途中に被せる。
「人のものを盗むことを泥棒って言うのよ」
「盗んでません」
「理久は私の男なの」
「聞いてません」
そんなことよりも。
「ここに何しに来たの?理久に呼ばれた?」
案の定、女は黙った。
「違うわよね?約束があったらこんなところに佇んでないわよね?チャイム押すか鍵開けてるわよね?」
そう笑いながら、拾った鍵を見せびらかすように振ってやる。
この女も理久と連絡が取れないのだ。だからここに突撃しにきた。
「どうして?まさか理久と連絡取れないの?もしかしてスマホブロックされちゃった?」
私もそうされたから、と思い訊いてみた。
すると女が唇を噛んだ。
まじで?理久この子もブロックしたんだ?ウケる。
と、つい笑いそうになる。
「えー!ちょっとスマホブロックされたのに突撃ー?うっそ、引くわー!」
笑みで上がる口角を手で隠して、眉だけ潜ませて深刻そうな声で詰ってみた。
すると女は怯えたような表情で私を見上げてくる。
「ねぇ、ブロックって別れ話よりも決定的よね?それが理久の意志だって分かっててこんなことしてるの?」
女の顔が段々青くなる。
「自分が何やってるか分かってる?」
そう言って、一歩近付いて囁いてやった。
「あなたのやってること、ストーカー行為」
その言葉を出すと、女の青い顔から表情がなくなった。
女がこの顔をしたらだいたい男を諦めることを経験から知ってるけど、一応念のためダメ押しした。
「そもそもあなたじゃ理久に釣り合わないから。お友達もみんな嗤ってるでしょ?ハイスペックイケメンに欺されちゃったなんて浅ましい子!なんて」
女のスペックが如何ばかりか知らないが、私より高いということもないだろうし。案の定女は一層青くなり、目を伏せた。
「だいたい理久と私、将来一緒になる約束してるのよ。今は離れてるけどいずれ一緒に地元に帰るの。あなたの入る余地は最初からないのよ」
少し震え始めている。どうやらトドメを刺せたようだ。
「こんなことして理久に迷惑掛けても疎まれるだけよ?今だったらまだね、憎まれることはないと思うから。この鍵は返しておくからこのまま帰りなさい」
女がまだ動かない。
「こんなストーカーみたいな真似これ以上続けたら理久に嫌われるよ?私はあなたが憎いけど、悪いのは理久であなたじゃないから。どんな付き合いだったか知らないけど、あなたのその綺麗な思い出まで汚すことになるんじゃないの?」
汚すもなにもその思い出が偽りの物だけれど、ここは自主的に帰っていただくのが一番だ。
「こんなことやめて理久にも会わないで綺麗な思い出のまま別れた方がいいわ」
そして女は深く俯き、細くため息をついて踵を返し、帰って行った。
私も大きくため息をついてその姿を見送り、階段を降りる音が聞こえなくなったところでやっと腹を抱えて笑った。
楽勝だった。これまでやっつけた相手の中で一番楽勝!一番手強かったのはバスケ部のマネージャーだったし結局後で彼を略奪しかえされた。あれと比べるまでもなく全然弱い相手だった!
まぁきっと理久のこともそんなに好きじゃなかったんだろうし。ほんとにハイスペイケメンに靡いただけの浅ましい子だったのね。
さ、邪魔者もいなくなったし、久々に理久と睦み合おうかしら。
と鍵穴に鍵を刺そうとしたところでドアが開いた。
顔を出したのは当然理久。
「あ!理久!待ってた?」
にっこり笑顔でまずそう訊いた。
「やっぱり駅から歩くのたいへーん!足が痛くなっちゃ」
「なんだそれ?」
被せるようにそう訊かれた。
意味が分からず可愛く笑って小首を傾げている間に、持っていた鍵を奪われた。
「この鍵、誰が、」
目聡いな、と舌打ちをしたくなったが、ここはある程度事実を語ることにする。
「今、ブスが持って来た」
「ブス?」
「ドブス」
「……背、低かった?」
「高かった」
「ああ……」
背の高いブスに心当たりがあるらしい。
「髪の短い?」
「そうそう。その髪が短くて大柄なブス」
「そうか」
理久もため息をついた。
理久も楽勝!
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