SECOND CRASH

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6・理久

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 泥棒猫、と言い放った女を部屋には入れられない。俺は裸足のまま玄関に降りて女を押し出した。
「なんだよ、泥棒猫って」
 そう言ってから、後ろ手でドアを閉めた。
「えーだって泥棒猫ちゃんでしょー?ちょーっと目離したスキに男咥えちゃって-」
 ヘラヘラ笑う女から、酒の臭いがする。
「……お前、飲んでんの?」
「飲まなきゃやってらんないでしょー?泥棒猫に男盗られて-」
「え?お前、どうやってここまで来た?どこから?」
「車しかないでしょー、この時間ー!」
 そう言って、キーホルダーをちゃらちゃらと振って見せた。

 そこで俺はぞっとした。酒飲んでからここまで何時間夜の高速ぶっ飛ばしてきたのか。もしかしたら飲みながら。
「……お前、」
「あなたのせいでしょ?」
「……」
「あなたが浮気するからよ」
「……浮気?」
「そこに泥棒猫が寝てるじゃないの!」
 そう叫んで掴みかかってきた。

 発狂振りが恐ろしいしとにかく厄介で面倒なのだが、さすがにこんな酔っ払いに車運転して家に帰れとも言えないし、近所迷惑なのでここに放置もできない。とにかくどこかに連れ出さなくては。
「ちょっと待ってろ。すぐ出てくる」
「嘘でしょー。このまま泥棒猫とやらしいことしちゃうんでしょー!」
 でかい声でそんなことを叫ぶので、途中から手で口を塞いだ。
「すぐ出てくる。お前みたいなのを放置できない」
「本当ね?」
「ちゃんと、話し合おう」
 そう言ってドアを閉めて、速攻で部屋に戻ると怯えた顔で彼女が布団から起き上がっていた。
「ごめん。すぐ戻るから」
 それだけ言って速攻でジーンズを履きトレーナーを被り、財布とスマホを突っ込んだジャケットを掴んで速攻で部屋を出た。
 バイバーイ泥棒猫ちゃーん!とまた叫んだので、口を塞いで引き摺るようにして部屋から離れた。

 アパートを出ると、女の赤い車が道の真ん中に斜めに停めてある。とりあえずこれを運転してここから離れることにした。自分の部屋の窓を見上げると当然真っ暗で、置いてきた彼女のことも気に掛かったが、まずはこの酔っ払いの始末が先だと運転席に乗った。思った通り助手席の足下にはビールや缶チューハイの空き缶がゴロゴロ転がっていて、中が酒臭くて窓を開けた。

「ねー。このままラブホに行こうよー。久しぶりにー」
 女が俺に寄りかかって大声で誘ってくる。ラブホに一人置き去りにするのも手だなとは思ったが、このままで放置してもまた明日同じことをしてくるだろう。
「ねぇいつ以来かなぁ?この前の夏休み?」
 車で朝までっていうのも、俺が嫌だしな。
「いつから二股掛けてたの?」
 どこか安いホテルに放り込むのが一番なんだけど。
「いつから泥棒猫ちゃんと浮気してたのよ!」
 急にハンドルを押えられて、驚いてブレーキを踏んだ。

「何するんだ!運転中はやめろよ!」
「私が訊いてるのよ!応えるのが先でしょ!」
「どこかに停まってからにしろよ!」
「早く停めてよ!」

 本当にこのキレやすいヒステリーが俺はずっと嫌だった。
 言い返したところで何一つ理解せず自分の主張だけを押し通そうとする。
 同じ言語を使う同国民だとは思えないほどに意思の疎通がなされない相手だ。
 何を言っても無駄なので、大人しく俺はすぐ近くの公園横で車を停めた。

「ねぇえー。ホテル行こうー。私にもやらしいことしてよー。私もいっぱいするからぁー」
 酒臭い息を吐きながら、女が腕に抱きついてくる。

「……他の男としろよ。俺そういうの無理だ」
 そう呟くと、案の定キーキー叫びだした。
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