【完結】失恋した者同士で傷を舐め合っていただけの筈だったのに…

ハリエニシダ・レン

文字の大きさ
上 下
13 / 16

指輪の箱っぽいけど

しおりを挟む
いつもの週末、彼の部屋でスマホでゲームをしていたら、

「受け取れ」

小さな箱を投げ渡された。
いきなり飛んできたそれを慌ててキャッチする。

よく指輪が入っていそうな箱。
小さくてなめらかな生地が張ってある箱。
でもまさか指輪な訳はないだろう。投げて寄越すくらいだし。

何かな?

気軽な気持ちで開けたら、全然気軽じゃない物が入っていた。

そのまさかの指輪だった。

しかもパッと見、本物にしか見えない大きな石の乗った、どう見てもエンゲージリングな指輪がデンと鎮座していた。

パタンと勢いよく蓋を閉じる。
彼が首を傾げた。

「気に入らなかったか?」

気に入るとか入らないとか、そういう問題じゃない!
パクパクと口を動かす私に彼が指摘した。

「声出てないぞ」

驚き過ぎて出ないんですよ!

心の声が何故か敬語になった。

「あ…え…何で…?」

やっときれぎれに問う。
これがドッキリという奴なんだろうか。でもこんな一般人を騙してどうする。

心臓がバクバクいってる。
そんな私に、彼はサラリと言った。

「結婚しよう」

いやいやいや。
何大真面目に言ってるの?
右を見る。左を見る。
カメラはない。

ドッキリ、じゃない…?
…じゃあ本気なの!?

近づいてきた彼が、硬直する私の手から箱を取り上げた。

あ、やっぱり私にじゃないよね?

ほんの少しがっかりしつつも、肩の力が抜けた。
……肩を落とした訳じゃない。力が抜けただけ……。

そう自分に言い聞かせる。
でも……

こういう冗談はちょっと笑えないよ……

悲しい気持ちでぼんやりと彼の手元を見る。言っていい冗談と悪い冗談がある。
今回のこれは完全にダメな方のやつだ。

そう思いつつもショックで抗議できずにいると、彼は箱を開けて中身を取り出した。そして私の手を取って勝手に薬指に嵌めた。

え………………?

「これで婚約成立だな」

その言葉に我に返る。

「どこの部族のしきたり!?そんなの聞いたことないよ!?」

思わず悲鳴をあげた。
踊りながら相手の周りを三周回れたら婚姻成立とか、そんなのどっかの国にはありそうだけど!少なくとも日本ではそんな一方的な儀式は無効だ。その筈だ。
ここは先進国で法治国家だ。
もらった指輪を嵌めたら婚約成立なんてある筈がない。恐ろしすぎる。

慌てて指輪を引き抜こうとする私の手を掴んだまま、彼は私の薬指に平然とキスをした。

「別にいいだろう」

「よくない!」

結婚にはお互いの合意が必要だ。
それが現代社会というものだ。
必死に手を彼から取り戻そうと頑張っていると、彼が面倒くさそうに大きくため息を吐いた。

「仕方ない。結婚する気になるまで抱くか」

何ですかね!?その乱暴な思考回路は!!

「ちょっ…待っ…!」

キスされて舌が入ってきた。

「安心しろ、体力には自信がある」

今それ、これっぽっちも私の安心材料にはならないんだけど!?

という抗議は、当然のように彼の口の中に消えていった。




その後どうなったかって?
…お察しの通りですが何か!!?

…承諾させられましたよ!だってそうしなきゃ許してもらえなかったんだもん!

最後の方は

「どうせ結果は変わらないのに抵抗してもっと俺に色々されたいだなんて、おまえやらしいな」

とまで言われたんだよ!?酷くない!?
とんだ言いがかりだと断固抗議したい。

最終的に、

「結婚する!結婚するから!だからもう許して!!!」

と叫んでそれで終了となった。
敗北感が半端ない。
多分、こんな風にプロポーズをオーケーさせられる女は、そうそういない筈だ。いちゃいけない。
っていうか正直未だに事態がよく飲み込めていない。


どうしてこうなった!?




もらった指輪は、なくすのが怖いので彼の家に置いて帰った。
あんな高価な物、カバンに入れてホイホイ外を歩けない。
っていうか、あんな碌につけられもしない物を何でわざわざ贈るんだろう。意味がわからない。
うっかりそう漏らしたら

「値段にびびったおまえを繋ぐ首枷にできるなら、買う価値は充分あった」

と頷かれた。
首枷って何!?って突っ込みたかったけれど、彼の目が本気だったのでやめておいた。真顔で説明されたら困る。


だってもう、私は彼から逃げられそうにないのだから。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】あなたのいない世界、うふふ。

やまぐちこはる
恋愛
17歳のヨヌク子爵家令嬢アニエラは栗毛に栗色の瞳の穏やかな令嬢だった。近衛騎士で伯爵家三男、かつ騎士爵を賜るトーソルド・ロイリーと幼少から婚約しており、成人とともに政略的な結婚をした。 しかしトーソルドには恋人がおり、結婚式のあと、初夜を迎える前に出たまま戻ることもなく、一人ロイリー騎士爵家を切り盛りするはめになる。 とはいえ、アニエラにはさほどの不満はない。結婚前だって殆ど会うこともなかったのだから。 =========== 感想は一件づつ個別のお返事ができなくなっておりますが、有り難く拝読しております。 4万文字ほどの作品で、最終話まで予約投稿済です。お楽しみいただけましたら幸いでございます。

【改稿版・完結】その瞳に魅入られて

おもち。
恋愛
「——君を愛してる」 そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった—— 幼い頃に交わした婚約だったけれど私は彼を愛してたし、彼に愛されていると思っていた。 あの日、二人の胸を引き裂くような思いを聞くまでは…… 『最初から愛されていなかった』 その事実に心が悲鳴を上げ、目の前が真っ白になった。 私は愛し合っている二人を引き裂く『邪魔者』でしかないのだと、その光景を見ながらひたすら現実を受け入れるしかなかった。  『このまま婚姻を結んでも、私は一生愛されない』  『私も一度でいいから、あんな風に愛されたい』 でも貴族令嬢である立場が、父が、それを許してはくれない。 必死で気持ちに蓋をして、淡々と日々を過ごしていたある日。偶然見つけた一冊の本によって、私の運命は大きく変わっていくのだった。 私も、貴方達のように自分の幸せを求めても許されますか……? ※後半、壊れてる人が登場します。苦手な方はご注意下さい。 ※このお話は私独自の設定もあります、ご了承ください。ご都合主義な場面も多々あるかと思います。 ※『幸せは人それぞれ』と、いうような作品になっています。苦手な方はご注意下さい。 ※こちらの作品は小説家になろう様でも掲載しています。

【完結】この胸が痛むのは

Mimi
恋愛
「アグネス嬢なら」 彼がそう言ったので。 私は縁組をお受けすることにしました。 そのひとは、亡くなった姉の恋人だった方でした。 亡き姉クラリスと婚約間近だった第三王子アシュフォード殿下。 殿下と出会ったのは私が先でしたのに。 幼い私をきっかけに、顔を合わせた姉に殿下は恋をしたのです…… 姉が亡くなって7年。 政略婚を拒否したい王弟アシュフォードが 『彼女なら結婚してもいい』と、指名したのが最愛のひとクラリスの妹アグネスだった。 亡くなった恋人と同い年になり、彼女の面影をまとうアグネスに、アシュフォードは……  ***** サイドストーリー 『この胸に抱えたものは』全13話も公開しています。 こちらの結末ネタバレを含んだ内容です。 読了後にお立ち寄りいただけましたら、幸いです * 他サイトで公開しています。 どうぞよろしくお願い致します。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

【完結】婚約破棄はお受けいたしましょう~踏みにじられた恋を抱えて

ゆうぎり
恋愛
「この子がクラーラの婚約者になるんだよ」 お父様に連れられたお茶会で私は一つ年上のナディオ様に恋をした。 綺麗なお顔のナディオ様。優しく笑うナディオ様。 今はもう、私に微笑みかける事はありません。 貴方の笑顔は別の方のもの。 私には忌々しげな顔で、視線を向けても貰えません。 私は厭われ者の婚約者。社交界では評判ですよね。 ねぇナディオ様、恋は花と同じだと思いませんか? ―――水をやらなければ枯れてしまうのですよ。 ※ゆるゆる設定です。 ※名前変更しました。元「踏みにじられた恋ならば、婚約破棄はお受けいたしましょう」 ※多分誰かの視点から見たらハッピーエンド

届かぬ温もり

HARUKA
恋愛
夫には忘れられない人がいた。それを知りながら、私は彼のそばにいたかった。愛することで自分を捨て、夫の隣にいることを選んだ私。だけど、その恋に答えはなかった。すべてを失いかけた私が選んだのは、彼から離れ、自分自身の人生を取り戻す道だった····· ◆◇◆◇◆◇◆ 読んでくださり感謝いたします。 すべてフィクションです。不快に思われた方は読むのを止めて下さい。 ゆっくり更新していきます。 誤字脱字も見つけ次第直していきます。 よろしくお願いします。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

愛しき夫は、男装の姫君と恋仲らしい。

星空 金平糖
恋愛
シエラは、政略結婚で夫婦となった公爵──グレイのことを深く愛していた。 グレイは優しく、とても親しみやすい人柄でその甘いルックスから、結婚してからも数多の女性達と浮名を流していた。 それでもシエラは、グレイが囁いてくれる「私が愛しているのは、あなただけだよ」その言葉を信じ、彼と夫婦であれることに幸福を感じていた。 しかし。ある日。 シエラは、グレイが美貌の少年と親密な様子で、王宮の庭を散策している場面を目撃してしまう。当初はどこかの令息に王宮案内をしているだけだと考えていたシエラだったが、実はその少年が王女─ディアナであると判明する。 聞くところによるとディアナとグレイは昔から想い会っていた。 ディアナはグレイが結婚してからも、健気に男装までしてグレイに会いに来ては逢瀬を重ねているという。 ──……私は、ただの邪魔者だったの? 衝撃を受けるシエラは「これ以上、グレイとはいられない」と絶望する……。

処理中です...