【完結】失恋した者同士で傷を舐め合っていただけの筈だったのに…

ハリエニシダ・レン

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土曜日のチェス

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結局あのままリビングで抱かれてしまった。

いつになく強引ではあったけれど、乱暴ではなかった。
ただ、いっぱい跡をつけられてしまったけれど。



真っ暗な中、ふと目が覚めた。身じろぎをすると、拘束する腕の力が強くなった。
眠っているように見えるのに。無意識だろうか?

「レイカ………」

不意に自分の名を呟かれて、思わず心臓が跳ねた。こんな、こういう状況で呼ばれると…

いつも最中はリサと呼ばれているから…まぁ、今は別に最中ではないけれど…

「レイカ…」

今度は、少し切なそうに呼ばれて泣きそうになった。寝言だとわかっているけれど、そんな声で呼ぶのは反則だ。 どうせお互い、身がわりでしかないのに。

「レイカ…」

今度は少し安堵したような声で。
胸がぎゅっとなる。
お願いだからやめて…。
彼の声を耳から締め出す。
けれど、続いてあり得ない言葉が聞こえて硬直した。


「愛している」


………いや、気のせいだ。
絶対気のせい。気のせいに決まっている。疲れていたから聞き間違っただけ。
慌てて打ち消した。

それか夢の中で変な風に場面が飛んだだけ。きっと絶対そんな感じ。突然リサと上手くいく夢でも見ちゃったとか。もしくは過去の女性が夢に出てきたとか。そんな感じ。
だから、深い意味などない。
寝言に意味などない。
私の名前の後にそんなこと言ったからって、繋がりなんてない。
何も意味なんてない。

そもそも寝言なんて元々、どうしてそんなことを言ったのか本人にだってわからないものなのだから。意味不明で脈絡もないのが、寝言のあるべき姿なのだから。
だから絶対違うんだから…。

ぎゅっと目を瞑って、うるさく自己主張する心臓に何度も言い聞かせた。




朝の光が眩しくて目を覚ます。
彼の顔が目の前にあった。
びっくりして息を飲む。

彼が私を抱きしめて、凄く近くから見つめていた。

「おはよう」

「…おはよう」

どうやらお酒はもう抜けたようだ。

「今日も泊まっていけるか?」

訊ねられてコクリと頷いた。だって何だか泊まっていって欲しそうだったから。
彼は笑って頷くと、腕の力を緩めた。

「メシ、食うか」

その言葉にもう一度頷いて身体を起こした。変な体勢だったからちょっと身体が痛い。
グッと伸びをする私を彼が笑った。

「何?」

「いや、久しぶりだと思って」

「ああ…」

他に連絡手段がなかったとはいえ、一方的に音信不通になっていたのでちょっと気まずい。

「仕事が忙しくて…」

「…そうだったのか」

彼が頷いた。
別に何の約束をしている訳でもないから、負い目に感じる必要はないのだけれど…

チラリと見ると、昨夜とは違ってさっぱりとした顔をしていた。

「そっちは?荒れてたみたいだけど…」

昨日の酔いっぷりは尋常じゃなかった。少なくとも、あんなに泥酔した彼を私は見たことがなかった。

「あー…ちょっとな…」

気まずげに視線を逸らされた。

何だろう。仕事で何か大きなミスでもしたのかな?
別に言いたくなければ言わなくてもいい。

でもわざわざそんなことを言葉にするのも面倒で、代わりに軽くキスして立ち上がった。

「ご飯にしよう」

彼は一瞬驚いたように目を丸くして、それから笑った。

「そうだな」




いつも通り、分担して朝食を作る。
彼が作るレモンが効いたいつものサラダ。その匂いが懐かしくて、肩から力が抜けた。

「それ好き」

「ん?」

唐突に言った私に、彼が眉を上げた。

「そのサラダ」

「そうか」

彼は頷いただけだったけれど、口元が少し笑ってた。




その日の午前は、模様替えをしたいと言う彼に付き合って、ソファカバーを変えたり家具の配置換えを手伝ったりした。

午後はチェスをしたりしてまったり過ごした。
彼はアンティークのチェスボードを持っているから、ちょっとテンションが上がる。ゲームするだけならオンライン対戦でもいいけど、私はこうして直に向かい合って駒を動かすのが好きだ。
手触りと、駒がボードに触れる時に立てるコツンという音がいい。

…ただ、「負けた方が勝った方の言うことを一つ聞く」なんて約束をしてしまったせいで、夜にかなりエッチなことをさせられたのは、実によくある話だと思う…。


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