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本編

20 自覚

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ある夜。
ザーク様は、いつものように私を抱きながら見下ろして、何か言いたげな顔をした。

「君は……」

言いかけて黙って。
ただ見下ろされてなんとなく落ちつかなくて、顔を逸らしたら手で強引にザーク様の方を向かされた。
困って目を閉じたらキスされて

「目を開けろ」

静かにそう囁かれて。
仕方なく目を開けたら、じっと見つめられた。
ザーク様のものが中に入った状態だから、呼吸ひとつで感じてしまってひどく恥ずかしいのに。
耐えきれずに目を伏せたら、またキスされて

「私を見ろ」

と。
仕方なく見つめ返すと、じっと目の奥を覗き込まれた。

「…気持ちよくないか?」

途端に顔が赤くなった。

なんてことを聞くのか!

でもザーク様は真顔で。
不意に軽く腰を動かされ、眉を寄せて声をあげてしまった。
ザーク様はそのまま腰を揺らす。

「私は気持ちよかったから、ずっと君も気持ちいいのだと思っていた。だが違ったのか?君が「気持ちいい」と言うのを、私は一度も聞いたことがない」

そんなことを囁かれながら中を刺激されて、恥ずかしい声が止まらない。
こんな声、気持ちよくなければ出す訳ないのにっ…

「なあ、教えてくれ」

すっかり慣れたザーク様のものに中を擦られて、気持ちよくてたまらなくて、ぎゅっととザーク様の腕に爪を立てる。
けれど…

そんなことを聞くなんて、まるで小説に出てくる男性と娼婦の会話みたい

そう思ったら、思わずポロリと涙がこぼれてしまった。
ザーク様は途端に焦った顔をして動きを止めた。

「っ…すまないっ…痛かったか?」

フルフルと首を横に振る。
痛くはない。
もうすっかり慣れた行為。それにザーク様は、もうずっと優しくしてくれている。
だから痛くはない。
肉体的には。

だけど心が痛い。
夫に愛されていないという事実。
ザーク様にとって私は、性欲を解消する為の娼婦と同類なのだ。そう思ったら辛くて…。涙が止まらない。
ザーク様は、慌てて私の中から自分のものを抜いた。

「すまない…辛い思いをさせる気はなかった…何が悪かったのか教えてくれ」

私の頬に手を当てて心配そうに見つめるザーク様に、首を横に振った。

だって、言える訳がない。
「愛されたい」だなんて。
そんな、願ったって無理なこと。

「妻」としては、ザーク様は多分愛してくれている。大事にしてくれている。十分すぎるほどに。

でも私は、女として愛されたいのだ。家の為に必要だとかそういうことではなく。ちゃんとした血筋だからとか、しっかり家を守ってくれるからとか、そういうことでもなく。
私が何も持たなくとも、何もできなくとも。ザーク様に私を愛して欲しいのだ。
ただの女として、愛して欲しいのだ。

そんなこと、とても言えない…。
誰かを愛するなんて、頼まれても無理なことは知ってるから…。

震える私にザーク様がキスをした。
私を抱くときの、激しいキスではなく。
昼間の挨拶のキスでもなく。
宥めるように、そっと優しくキスをした。
涙を吸い取るように。
ただ私を落ちつかせようと、するかのように。

そうされて、落ちついてきてしまって。ザーク様にそうされるのを、嬉しいと思ってしまって。嬉しいと思ったことを自覚して。
そうして嫌な事実に気がついた。

ああ…私はザーク様が好きなのだ…。
私のことなど、女としては好いてくれない夫に、私は恋をしてしまっているのだ…。

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