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数年後

指輪

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「指輪を、贈らせてくれないか?」

そう言った俺に、藤堂は戸惑いながらも頷いた。


受け取ってくれるだけで、持っててくれるだけでいい。

そう言ったのに、藤堂は渡した翌日から律儀にそれを嵌めて出勤した。
周りに色々聞かれたら、困るはずなのに。それでも左手の薬指に、俺の贈った指輪を嵌めてくれた。

相変わらず、惚れ惚れするほどの男気だった。
そんな藤堂が愛しくて仕方がなかった。 

でもある日、酒の匂いをさせながら帰ってきた藤堂の指に、指輪がなかった。
カッとなって肩を掴んで問い詰める俺に、藤堂は気まずそうな顔をした。

「やっぱり、俺の指輪なんかーーーー!」

「食べた」

激昂しかけた俺に、藤堂は予想もしなかった言葉を返した。あまりのことに、一瞬頭の中が真っ白になる。

「は???」

「…食べた。ごめんな?」

指輪は金属で、食べ物ではないはずだ。いや、金属を食べる健康法もあったようなーーーー
意味がわからず呆然とする俺の頬を、藤堂の手が優しく撫でる。

「会社の飲み会で「よく見せてくださいよ」って、強引に指から引き抜こうとした女子社員がいたから。たとえ指だけでも、おまえ以外に触られるのは嫌だったし、おまえがくれた指輪に触られるのはもっと嫌だった。だから食った。ごめん」

その瞬間、俺の胸を満たしたのは、暴力的なほどの歓喜だった。
衝動のままに藤堂を抱きしめる。

「本当にごめーーーー」

「嬉しい」

苦しそうにしながら謝ろうとする藤堂の声を遮った。

「は?」

きょとんとする藤堂の唇に、口付ける。

「凄く嬉しい」

「でも…」

「今、藤堂の中には俺のモノがあるんだね」

そう言って腹に触れたら、真っ赤になった。

「やらしい言い方すんな!」

って。
照れて怒鳴ったって可愛いだけなのに。

「もう一度贈らせて」

「いや、でも…」

「ダメか?」

「だってまた、こんなことがあるかもしれないし…」

「そうしたら、また贈る。何度だって」

「でも…」

「嫌?」

「…その聞き方はズルい」

「ありがとう」

「いや、礼を言うのは俺の方だろ」

「ありがとう」

もう一度言うと、藤堂は顔を赤くして黙り込んだ。
その頬にキスをする。
安心したら、笑いが込み上げてきた。

「くくくっ。でも、周りはびっくりしてたろ」

「ああ。一瞬でみんな静まり返るし、その女子社員は一気に酔いが冷めて真っ青になって謝るしで大変だったぞ」

「そうだろうなあ」

上機嫌な俺は、今夜はとことん可愛がろうと決めた。


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