【完結】意地っ張りで口の悪い受けと、拗らせて執着する攻めの日常

ハリエニシダ・レン

文字の大きさ
上 下
12 / 74
付き合う前

感情4 (東雲サイド)

しおりを挟む
 「襲われないようにする方法ないんですか?」
 「犯人に止めてもらうしかないわね。殺意を向けられる心当たりは?」

 普通に生きていたらそんな事は滅多に無いだろう。
 けれど周囲からすれば葵は棗累が失踪した原因だ。そのせいで母親は自殺未遂にまで至っている。彼らに近しい人ほど葵を憎んでいる事だろう。
 大勢の女子から愛を囁かれる彼の死を悼む人数だけ殺意があるのだ。

 「……多すぎて分からないです……」
 「小さいのはノーカウント。日常ではありえない激しい憎しみを向けられる事があったはずよ。例えばあなたのせいで大切な人の死に目に会えなかったとか」

 きっとお姫様はこの愛らしい顔で真実を突きつけるだろう事は予想していた。
 一体何が目的かは分からないけれど、まるで真実を知っているような口ぶりは現実を再認識させられる。

 「やっぱり累先輩は私を憎んでるんですね……」
 「どうかしら。あなたが彼の大切な人を殺したの?」
 「違うわ!そんな事してない!」
 「では何故憎まれてると思うの?」
 「……私が連れ出した間に弟さんが亡くなったんです。でも人を殺したいなんて、そんな事思う人じゃなかった」
 「普段そんな人じゃないからこそ憎しみは人一倍深いんじゃないかしら」

 リゼは憎まれても仕方ないわね、と大きく何度も頷いた。
 彼じゃないわよと言って欲しかったけれど、そんな優しい嘘すら吐いてくれなかった。
 相変わらず穏やかに微笑んでいるけれど、それが嘲笑なのか同情なのか軽蔑なのか意図は見えてこない。葵は俯きため息を吐いたけれど、そっとリンが頭を撫でてくれる。
 
 「だが吉報でもあるだろう。彼はまだ生きてるという事だ」
 「……そっか。そうですよね。失踪しただけで遺体が見つかったわけじゃ無いし」
 「見つけて謝って許してもらえれば助かるかもしれないわね」
 「あの、何か探す方法無いですか」
 「あるわ。あの生クリームが何処から来たかつきとめれば良いの」
 「何処って、沸いて出てきたのに出所があるんですか?」
 「あれらは心の在処――身体から滲み出る物で宙に出現するわけではない。あの量で外から入って来たという事は、ここにやって来れる距離にいるんだろう」
 「それに何処にでも出現できるなら直接内臓に現れて破裂させるでしょ」
 「そ、そっか……」

 急にグロテスクな事を言われ思わず想像してしまった。
 しかしそれなら防ぎようはあるという事だ。窓ガラスを割って部屋中をべとべとにする物理的存在なら水をかけて溶かしてしまえばそれまでだ。
 よしよしと葵は頷いたけれど、それを諫めるようにリンがコンコンとテーブルを突いてくる。

 「一人で立ち向かおうなどと思うな」
 「え、だ、駄目ですか」
 「駄目というより無駄だ。溶かしても憎しみは無限に湧き出る。終わりなど無い」
 「……そうですよね」

 それにあんな大量の生クリームを解かせるだけの水を都合よく持ってるとは限らない。持っている事の方が珍しいだろう。
 しかし、ならばどうしろと言うのか。襲われて死ぬのを待てと言うのか。
 そんな葵の不安に気付いたのか、リゼはクスッと笑って葵の顔を覗き込んできた。

 「大丈夫よ。手伝ってあげる。一人じゃ危ないからね」

 お姫様は相変わらず穏やかに、そして意味ありげに微笑んでいた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

見ぃつけた。

茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは… 他サイトにも公開しています

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

僕の部下がかわいくて仕方ない

まつも☆きらら
BL
ある日悠太は上司のPCに自分の画像が大量に保存されているのを見つける。上司の田代は悪びれることなく悠太のことが好きだと告白。突然のことに戸惑う悠太だったが、田代以外にも悠太に想いを寄せる男たちが現れ始め、さらに悠太を戸惑わせることに。悠太が選ぶのは果たして誰なのか?

旦那様と僕・番外編

三冬月マヨ
BL
『旦那様と僕』の番外編。 基本的にぽかぽか。

思い出して欲しい二人

春色悠
BL
 喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。  そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。  一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。  そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。

なんか金髪超絶美形の御曹司を抱くことになったんだが

なずとず
BL
タイトル通りの軽いノリの話です 酔った勢いで知らないハーフと将来を約束してしまった勇気君視点のお話になります 攻 井之上 勇気 まだまだ若手のサラリーマン 元ヤンの過去を隠しているが、酒が入ると本性が出てしまうらしい でも翌朝には完全に記憶がない 受 牧野・ハロルド・エリス 天才・イケメン・天然ボケなカタコトハーフの御曹司 金髪ロング、勇気より背が高い 勇気にベタ惚れの仔犬ちゃん ユウキにオヨメサンにしてもらいたい 同作者作品の「一夜の関係」の登場人物も絡んできます

処理中です...