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if マーカスルート
生きていきます(エピローグ
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私は、王都から遠く離れた町に移った。
そこで小さな家を借りて暮らしている。
働こうとは、もう思わない。
長い監禁生活のせいで、人との関わり方がすっかりわからなくなってしまったから。
幸いお金ならあるから問題はない。
でも何もしていないとあの部屋でのことを思い出してしまうので、料理を覚えることにした。
あの部屋で辛かったことの一つ。その記憶を払拭するためにも。
本を一冊、古本屋で買った。
分厚い本格的な料理の本。
それを見ながら、レシピをできるだけ忠実に再現していく。
貴族の厨房で働いていた人が書いた本のようで、下ごしらえ一つからもの凄く手間がかかる。
でもそれがちょうどいい。
時間がたくさん潰れるから。
ここに移ってきてから、朝食は近所のパン屋で買ってきて食べている。
焼きたてで温かくて、いい匂いのするパン。それを温かいお茶やチーズと一緒に。
料理を始めてからは、お昼はスープをつくって、朝に買ったパンを温めなおして食べるようになった。
そう、できたての温かいスープ。
最初は何度も舌をやけどした。
湯気のたつ料理を食べられるのが嬉しくて、つい熱すぎるのにも構わず口に入れてしまって。
でも舌をやけどすると味がよくわからなくなることに気づいてからは、徐々に適温になるまで待てるようになった。
スープを作るのに慣れたら、肉料理のページに移った。
脂をとって、筋を切って。ハーブにつけ込んだり串を刺して焼いたり……
肉の切れ端が、だんだんと美味しそうな料理へと変わっていく。
食欲をそそる香りを発しながら。
ポタポタと肉汁を垂らして、美味しそうな音を立てながら。
焼き上がったそれに、パンとスープを添えて食べる。
熱した鉄皿の上に肉を置いて食べる料理では、やはり何度か舌をやけどした。
どうにも、熱い料理を目の前にすると、つい気が急いてしまう。
次はサラダを作れるようになりたい。
料理の本に描かれているサラダは、使われる野菜も種類豊富で、ドレッシングも塩とオイルのシンプルなものから柑橘類を入れたものまで色々載っているから楽しみだ。
その次は肉料理の付け合わせ。
その次は甘いお菓子も……
失敗することもたくさんあるけれど、日々上達を感じられるのが嬉しい。
それになにより。
できたての温かい料理
口にしながら、知らないうちに涙が頬を伝っていることも珍しくない。
泣きながら咀嚼して、飲み込んで呟く。
「…美味しい……」
餌ではない。ちゃんとした食事。
私はこれからこうやって、彼から受けた傷を癒していく。
少しずつ。そっと。
-----
マーカスさんの自業自得とはいえ、なかなかのバッドエンドだったので、次からルート分岐したifのifが始まります。
バッドエンドこそ至高!という方は、ここで目次に戻るのを推奨。
マーカスさんが幸せになる姿を見たい方はこのままお進みください。
そこで小さな家を借りて暮らしている。
働こうとは、もう思わない。
長い監禁生活のせいで、人との関わり方がすっかりわからなくなってしまったから。
幸いお金ならあるから問題はない。
でも何もしていないとあの部屋でのことを思い出してしまうので、料理を覚えることにした。
あの部屋で辛かったことの一つ。その記憶を払拭するためにも。
本を一冊、古本屋で買った。
分厚い本格的な料理の本。
それを見ながら、レシピをできるだけ忠実に再現していく。
貴族の厨房で働いていた人が書いた本のようで、下ごしらえ一つからもの凄く手間がかかる。
でもそれがちょうどいい。
時間がたくさん潰れるから。
ここに移ってきてから、朝食は近所のパン屋で買ってきて食べている。
焼きたてで温かくて、いい匂いのするパン。それを温かいお茶やチーズと一緒に。
料理を始めてからは、お昼はスープをつくって、朝に買ったパンを温めなおして食べるようになった。
そう、できたての温かいスープ。
最初は何度も舌をやけどした。
湯気のたつ料理を食べられるのが嬉しくて、つい熱すぎるのにも構わず口に入れてしまって。
でも舌をやけどすると味がよくわからなくなることに気づいてからは、徐々に適温になるまで待てるようになった。
スープを作るのに慣れたら、肉料理のページに移った。
脂をとって、筋を切って。ハーブにつけ込んだり串を刺して焼いたり……
肉の切れ端が、だんだんと美味しそうな料理へと変わっていく。
食欲をそそる香りを発しながら。
ポタポタと肉汁を垂らして、美味しそうな音を立てながら。
焼き上がったそれに、パンとスープを添えて食べる。
熱した鉄皿の上に肉を置いて食べる料理では、やはり何度か舌をやけどした。
どうにも、熱い料理を目の前にすると、つい気が急いてしまう。
次はサラダを作れるようになりたい。
料理の本に描かれているサラダは、使われる野菜も種類豊富で、ドレッシングも塩とオイルのシンプルなものから柑橘類を入れたものまで色々載っているから楽しみだ。
その次は肉料理の付け合わせ。
その次は甘いお菓子も……
失敗することもたくさんあるけれど、日々上達を感じられるのが嬉しい。
それになにより。
できたての温かい料理
口にしながら、知らないうちに涙が頬を伝っていることも珍しくない。
泣きながら咀嚼して、飲み込んで呟く。
「…美味しい……」
餌ではない。ちゃんとした食事。
私はこれからこうやって、彼から受けた傷を癒していく。
少しずつ。そっと。
-----
マーカスさんの自業自得とはいえ、なかなかのバッドエンドだったので、次からルート分岐したifのifが始まります。
バッドエンドこそ至高!という方は、ここで目次に戻るのを推奨。
マーカスさんが幸せになる姿を見たい方はこのままお進みください。
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