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第1章

また病気になってしまいました

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(「約束させられました」より数年後。次男もしっかり参加してる頃)
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また病気になってしまった。
気をつけていたのに。

ため息を吐く。
よりによって、殿下が来た日に…。

何年か前に病気になった時にとても叱られてしまったので、今回はきちんと病気だと申告した。殿下が来たと伝えに来た執事に伝言を頼んで。
だから殿下は、息子たちと過ごして今回は帰るだろう。

酷い扱いを受けている自覚はあるのだけれど、体が弱っているせいか、殿下の顔を見られないことが酷く寂しい。

深く、ため息を吐いた。
どうかしている。
よかったではないか。今日は、あんな風に抱かれずに済むのだから。

眠ろう。眠ってしまえば、こんなバカみたいな寂しさは感じないで済む。
そう、目を閉じた時だった。


コンコン

軽いノックの後、ドアが開いた。部屋に入ってきたのは殿下だった。
予想外のことに、目を見開く。
殿下が私の部屋を訪れること自体、とても珍しい。というかほぼないのに。

殿下は、私の視線を気にすることもなく近づいてきた。
コトリと、フルーツの入った器がベッドサイドに置かれる。

「食べたくなったら言いなさい」

「はい…」

反射的に返事をした。
今は…何も食べたくない。それより喉が…
不意に渇きを覚えて水差しに手を伸ばすと、スッと殿下に取り上げられた。

「飲みたくなった時も言いなさい」

戸惑って殿下を見つめる。

「手伝ってあげるから」

そんなことを殿下にさせるわけには…
困って見つめ続けると

「頷かないなら、口移しで与えるよ」

強い口調で言われて、慌てて頷いた。
病気をうつしてしまっては大変だ。

「ほら、君は寝てて」

軽く額を押されて、起こしかけた身体を戻す。
殿下が吸い飲みに水を注ぎ、私の口元に当てた。ヒヤリと冷たいガラスの感触。
器を傾けられ、ゆっくり水を流し込まれる。一口分ほどで、いったん離された。

「まだ要るかい?」

首を横に振った。
口の中が湿って楽になった。

「申し訳ありません…私は…大丈夫ですから…」

わざわざ王都から殿下が来た日に病気になるなんて…。こんなに立派な屋敷に住まわせてもらっている癖に、訪れた殿下を出迎える程度のことさえできなかった…。
こんな、役立たずな女など放って置いてくれていいのに。世話ならどうせ、メイドたちがしてくれる。

体が弱っている所為か、考えが暗くなる。
気持ちも弱っている所為か、それでも殿下が顔を見に来てくれたことを嬉しく思ってしまっている。

本当にどうかしている。
殿下が会いに来てくれて嬉しいだなんて。
この人は、酷い人、なのに…。

「今回はちゃんと、君から言ったからね。ご褒美だよ」

素っ気ないながらも穏やかな口調に、何故か胸がきゅっとなった。視界が涙で滲んで、慌てて上掛けを頭の上まで引き上げる。

ほら……こんな…弱っている時に優しくするなんて…本当に酷い人…


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