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第1章

叱られてしまいました

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二ヶ月振りに訪れた殿下は、出迎えた私を青ざめた顔で見つめた。そして無言で腕をつかむと、足早に自室へと連れ込んだ。

「君はいったい、何を考えているんだ!」

「申し訳ありません…」

ドアが閉まるなり口を開いた殿下は、酷く怒っている様子だった。

あの後、病気を隠して殿下と会ったことを、お医者様にも懇々と叱られた。病気の中にはうつるものもあるのだから、迂闊に人と接触するべきではないと。
殿下が怒るのも当たり前だった。

「殿下に病気をうつしてしまうところでした…」

小さくなって項垂れる。
王族をそんな危険にさらすなど、配慮が足らなすぎた。

「そんな話はしていないっ!」

謝っても殿下の怒りは収まらず、ますます身体を縮こまらせる。
滅多に声を荒げない殿下の怒鳴り声に、どうしたらいいのか分からなくなる。

「申し訳…」

「………」

他にどうしていいか分からず謝罪の言葉を繰り返すと、殿下が不意に黙った。そしてじっと見つめられる。睨まれていると、言っていいような鋭い視線で。

「何に対して謝っているんだい?」

一転して、静かな声。
けれど先ほどの怒鳴り声よりずっと殿下の怒りを感じて、身体が震える。

「ねぇ、リーシャ。今の謝罪は、いったい君が何をしたことに対するものなのかな?」

顎を取られた。

「あ………」

「可愛い僕のリーシャ。答えてごらん?」

「その…」

「ん?」

笑っているのに笑っていない、殿下の引きつった笑顔。

「殿下を危険に…」

視線の強さに口をつぐむ。

「そんな話はしてないって言ったよね?僕のリーシャ」

怒ってる。殿下はもの凄く怒っている。

「あ…の…殿下がいらした日に役目を果たせず申し訳…」

いきなりぎゅっと抱きしめられた。

「そんな話も、していないんだよ…」

震えているのは、怒りのせいなのだろうか…
知らず、殿下の背中に手を回して抱きしめ返していた。
でも、それならいったい、何について謝ればいいのだろう…
考えて考えて…

「その…今後は体調管理に気をつけます…」

「うん…」

殿下の腕の力が少し弱まった。
よかった。一応正解のようだ。

「そうして…僕の大事なリーシャ…」

今度の言葉は、声が小さすぎて、よく聞き取れなかった。
けれど、さほど変わらない内容だろうと頷いて、抱きしめ返す腕にもう少しだけ力を込めた。


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