72 / 153
第2章
16 死期1 父子の会話
しおりを挟む
陛下は、あと数日ももたないだろうと言われていた。
これが最後の会話になるかもしれない
そう覚悟して、枕元に近づいた。
周りには誰もいない。
護衛もメイドも、すべて下がらせた。
「リーシャは…」
死の影が濃い、父上の顔。
憂いのこもった声。
彼が口にしたのは、やはりというべきか彼女のことだった。
おそらく彼の、唯一の心残り。
彼が執着し続けた、唯一の女性。
その執着を、今ここで断ち切って差し上げます
そんな想いで告げた。
「彼女は私の正妃にします」
はっきりと言い切ると、父上は目を丸くした。そして大声で笑いだした。
「ふっ…くくくっ…大胆だなっ…あはははははっ!」
死の床についている人間とは思えないほど快活な、晴れやかな笑い声。
陛下の、珍しい笑い声。
ようやく笑いやむと、父上はニヤリと笑った。あの屋敷に通ってきていた頃によく見せた笑い方で。
「まさか、そうくるとはな。ふふっ…まぁいい。リーシャがおまえより先に死んだら、僕がちゃんとおまえの代わりに可愛がってやる。だからおまえは安心して国の面倒を末長くみてから、こっちに来るといい」
もう、死を覚悟している人間の言葉。
けれど、聞き捨てならなかった。
「彼女を二度と、あなたには渡しません」
父上の目を、真っ直ぐに見つめて宣言した。
あんな思いは二度とごめんだ。
それに彼女は私の正式な妻となるのだから、執着するのはいい加減やめて欲しい。
「ふふふっ。それは僕のセリフだよ。僕より彼女のことを理解している人間はいないよ?」
未だに彼女は自分のものだとでも言いたげに笑う父上に、少しイライラしながら言い返す。
「何年前の話をしているんですか。彼女はもう、あなたの知ってる彼女じゃない」
「ふふっ…それはいいね。もう一度彼女を知る楽しみができた」
「っ…!」
あまりに自信たっぷりなその態度に、微かな不安が頭をもたげる。
あんな扱いをしていたにも関わらず、彼女の心を得た父上。もしもう一度、私のいないところで二人が出会ったなら…
「礼を言うよ」
唐突な感謝の言葉に、思考が遮られる。眉間にシワを寄せた私に、父上は繰り返した。
「礼を言う」
二度目の言葉は、少し調子を変えていた。
まるで、彼が屋敷を去ったあと、彼女を支え続けたことへの感謝を告げるような…
「あなたのためではありませんから。精々あの世で、手に入らない彼女を想って泣くといい」
戸惑いを隠すため、目を細めて睨んでおいた。
「ふふふっ。本当に楽しみになってきた」
父上がこちらへ腕を伸ばしたので、体を近づける。首に腕を回され、しっかりと抱きしめられた。
「またな、レオン」
楽しそうな声。
身体から力が抜け、穏やかな寝息に変わる。
「「また」って「あの世で」ってことですか?嫌ですよ、まったく…」
ため息混じりの文句を聞く人はいなかった。
これが最後の会話になるかもしれない
そう覚悟して、枕元に近づいた。
周りには誰もいない。
護衛もメイドも、すべて下がらせた。
「リーシャは…」
死の影が濃い、父上の顔。
憂いのこもった声。
彼が口にしたのは、やはりというべきか彼女のことだった。
おそらく彼の、唯一の心残り。
彼が執着し続けた、唯一の女性。
その執着を、今ここで断ち切って差し上げます
そんな想いで告げた。
「彼女は私の正妃にします」
はっきりと言い切ると、父上は目を丸くした。そして大声で笑いだした。
「ふっ…くくくっ…大胆だなっ…あはははははっ!」
死の床についている人間とは思えないほど快活な、晴れやかな笑い声。
陛下の、珍しい笑い声。
ようやく笑いやむと、父上はニヤリと笑った。あの屋敷に通ってきていた頃によく見せた笑い方で。
「まさか、そうくるとはな。ふふっ…まぁいい。リーシャがおまえより先に死んだら、僕がちゃんとおまえの代わりに可愛がってやる。だからおまえは安心して国の面倒を末長くみてから、こっちに来るといい」
もう、死を覚悟している人間の言葉。
けれど、聞き捨てならなかった。
「彼女を二度と、あなたには渡しません」
父上の目を、真っ直ぐに見つめて宣言した。
あんな思いは二度とごめんだ。
それに彼女は私の正式な妻となるのだから、執着するのはいい加減やめて欲しい。
「ふふふっ。それは僕のセリフだよ。僕より彼女のことを理解している人間はいないよ?」
未だに彼女は自分のものだとでも言いたげに笑う父上に、少しイライラしながら言い返す。
「何年前の話をしているんですか。彼女はもう、あなたの知ってる彼女じゃない」
「ふふっ…それはいいね。もう一度彼女を知る楽しみができた」
「っ…!」
あまりに自信たっぷりなその態度に、微かな不安が頭をもたげる。
あんな扱いをしていたにも関わらず、彼女の心を得た父上。もしもう一度、私のいないところで二人が出会ったなら…
「礼を言うよ」
唐突な感謝の言葉に、思考が遮られる。眉間にシワを寄せた私に、父上は繰り返した。
「礼を言う」
二度目の言葉は、少し調子を変えていた。
まるで、彼が屋敷を去ったあと、彼女を支え続けたことへの感謝を告げるような…
「あなたのためではありませんから。精々あの世で、手に入らない彼女を想って泣くといい」
戸惑いを隠すため、目を細めて睨んでおいた。
「ふふふっ。本当に楽しみになってきた」
父上がこちらへ腕を伸ばしたので、体を近づける。首に腕を回され、しっかりと抱きしめられた。
「またな、レオン」
楽しそうな声。
身体から力が抜け、穏やかな寝息に変わる。
「「また」って「あの世で」ってことですか?嫌ですよ、まったく…」
ため息混じりの文句を聞く人はいなかった。
11
お気に入りに追加
3,597
あなたにおすすめの小説

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。

義兄の執愛
真木
恋愛
陽花は姉の結婚と引き換えに、義兄に囲われることになる。
教え込むように執拗に抱き、甘く愛をささやく義兄に、陽花の心は砕けていき……。
悪の華のような義兄×中性的な義妹の歪んだ愛。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる