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第2章

2 リーシャの肖像

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あの日、画家たちに描かせたリーシャの絵は、王宮の一室にしまった。カモフラージュのために同時期に描かせた、他の女たちの絵と一緒に。
そのうち、適当な理由をつけて処分させるつもりだ。彼女のあんな姿を他人の目に触れさせるなど、許せるはずがない。
それに本命はそちらではなく、デッサンの方だったのだから。

額に入れられず、色もつけられず、ただ木炭一色で描かれた彼女の姿。油彩画と比べて保管のしやすいその紙の束は、執務室の機密文書の棚に混ぜて保管した。
いつでも手に取れるから。
そこなら、安全だから。

でも一つだけ、手元に残しておくことにした完成形の絵がある。
リーシャの泣き顔を描いた小さな絵。
それだけは、どうしても手放すことができなかった。

彼女の泣き声が聞こえてきそうな。彼女の体温を感じられそうな。
ちょうど、彼女の実際の顔と同じくらいの大きさの絵。
僕の大好きな表情をした彼女の絵。

それを寝室の壁に飾った。
他の風景画などに混ぜて。

妃とは最初から別々の寝室だから、何を飾ろうと問題はなかった。
鍵のついた引き出しに隠そうかとも思ったけど、万が一誰かに見られた時のことを考えて、堂々と飾っておいた方がマシだと結論づけた。

古くから僕を知っている連中の一部は、僕が女の涙に興奮すると知っているから、その点都合がよかった。
一人の寝室に飾る絵ともなれば、そういう目的の絵であっても構わないだろう。

決して彼女は僕の特別ではない。
屋敷に通っていたのは、あくまで子どもたちと過ごすためだった。

周囲にそう思わせる為に、他の女の絵も執務室やサロンなどに飾った。視界に入れなければ、絵なんてあってもなくても同じだ。どうだっていい。
僕が見ていたいのは、リーシャだけだ。


今になって、一つ後悔していることがある。あの屋敷に僕の肖像画を置いてくればよかったと。食堂かサロン。リーシャがよく使う部屋に。
リーシャが僕のことを忘れたくても忘れられないように。

…今更あの屋敷に関わるわけにはいかないから、もうどうしようもないのだけれど。
どうせレオンもサイラスも僕によく似た顔だ。リーシャは嫌でも僕を忘れられない。
そう思って自分を宥めるしかない。


寝室にリーシャの絵を飾ってから、朝に晩にその絵を目にするたびに願う。

どうか彼女が、今日も僕のつけた傷で苦しんでいるよう
僕のつけた傷が、この先ずっと彼女の心から消えないよう
今も彼女の心が、僕のものであるよう

そう、願う。心から。


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