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第1章

40 レオンの決意 (レオンサイドのエピローグ)

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目を閉じて、夢想する。

母上との…リーシャとの、幸せな生活を。
まだ当分は、実現できそうにないそれを。



完全に、父上にしてやられた。
彼女の心は、今や父上でいっぱいだ。
私など、入る余地もない。

もちろん、息子としての関係は良好だ。でもそれは、サイラスだって同じこと。
なんだか外泊が増えたサイラスは、時々帰ってきては、母上と楽しそうに話をしている。ごく普通の親子のように。

でも、私が欲しているのは、そんな関係じゃない。


私は、父上がこの屋敷を去った後、母上…リーシャを独り占めするつもりだった。
サイラスにも触れさせず、自分だけのモノにしてしまうつもりだった。
でも、父上に捨てられたと思い込み、ショックで脱け殻のようになってしまった彼女に、とてもそんなことは望めなかった。

最近ようやく笑うようになってきたけれど、それでも寂しそうな顔をしていることの多い母上に、そんな接し方ができるわけもなくて、私は途方にくれていた。

このままではサイラス同様、ただの息子としてしか見てもらえなくなりそうだというのに。
それだけは、嫌なのに。



意を決して、母上と話すことにした。
都合よく、今、サロンには母上一人きりだ。ソファに腰かけて、本を読んでいる。
後ろ手にドアの鍵をかけて、彼女に近づいた。

「…リーシャ」

「なあに?レオン」

ふわりと微笑む母上。
一度深く息を吸って吐いて、口を開いた。

「リーシャ。私との未来を、考えてはもらえませんか?」

リーシャは、少し困ったように笑った。

「あなたは私の可愛い息子よ?それはずっと変わらないわ」

そういう言葉が聞きたいんじゃない

私の気持ちを知っているくせに、そんな風にはぐらかそうとするリーシャに怒りが湧いた。
だから、ソファの背もたれに手をついて彼女の動きを封じ、顔を近づけて追いつめた。

「私があなたを女性として愛していることは、よく分かっている筈です」

リーシャは気まずげに視線を逸らした。けれど、私が続けた言葉にバッとこちらを見上げた。

「そしてあなたも、私を愛していた筈だ」

リーシャの瞳が、動揺に揺れる。

「違いますか?」

「……………」

答えない彼女に、怒りが増していく。
あの頃のリーシャは、確かに心から私を求めていた。もし、それさえも否定するのなら、絶対に赦さない。あの時、あなたの心は確かに私のモノだった!

「それともあれは…気の迷いでしたか…?」

「っ!!」

仮定の話として言っただけで傷ついた。背もたれをつかむ手に力がこもる。

彼女が肯定するわけないと思いつつも、万が一ここでリーシャが頷いたら無理矢理にでも抱こうと思った。そうでもしなければ、耐えられそうになかった。

抱いて、その体に強引にでも思い出させてやる。
あなたがどれだけ、私を求めたか。
あなたがどれだけ、私に触れられて喜んだか。
あなたがどれだけ、私の愛を喜んで受け入れたか!

抱いて、その体から無理矢理にでも引きずり出してしまうつもりだった。
あの頃、リーシャが私へと向けていた感情を。

それなのに

「あなたのことが…好き…だったわ…でも今は、わからなくなってしまったの…ごめんなさい…」

彼女は俯いて、悲しそうにぽつりぽつりと呟いた。その様に胸を締めつけられる。

狡いですよ。そんな風にあなたに言われたら、無理矢理抱くことなんて私にはできない。

胸に溢れかえるやりきれない感情。
私のことを好きだったと認めた彼女に、それをぶつけることなど、とてもできない。
仕方なく、ドロドロとしたその感情は、彼女の心を鮮やかに攫っていった男に向ける。
殺意に変えて。

常にニヤリと余裕の笑みを浮かべる父上を、頭に思い浮かべる。
今、ここに居もしないあの男っ、絞め殺してやりたい!

二度とリーシャに会わないくせに。
会えないくせに!
それなのに尚一層、彼は私の前に立ち塞がる。私とリーシャの間に立ち塞がる。
奪えるものなら奪ってみろと、私を嘲笑うように。


…いいさ。
それなら、おまえから奪い返してやる。
彼女の心をもう一度、私のモノにしてやる。
おまえのことなど、二度と思い出す気にも、ならないくらいに。
彼女の心を私のモノにしてやる。


「リーシャ」

目を閉じ、気を鎮めて彼女の名を呼んだ。
穏やかに、愛しているという気持ちを込めて。
もう一度、彼女の心を私に向けさせる為に。

そしてこちらを見た彼女の頭に、そっとキスをする。息子として問題のない範囲で、彼女に触れる。
気持ちは込めるけれど、触れるのはドレスに覆われていないところだけ。
そうしたら、彼女は決して拒めないと知っているから。

「リーシャ」

そっと、彼女を抱きしめる。
欲望は押し殺して、愛しいという想いだけを込めて。ただ緩く腕を回して簡単に抜け出せるような強さの力で。
そうすれば逆に、彼女は逃げられなくなると分かっているから。

案の定、リーシャは少し戸惑った様子を見せながらも、私の腕の中でじっとしている。
そのことに安堵して、少しだけ腕の力を強めた。

そして、時間をかける覚悟を決める。
どれだけ時間がかかったとしても、私は彼女の心を奪い返す。
あの男から。
愛せないけど彼女の心が欲しいなんてふざけたことを言う、我儘で傲慢なあの男から。
どれだけかかっても、私はもう一度、この人の心を奪い返す。
そうして、再び手に入れたなら


今度は絶対に逃さないよ、リーシャ


心の中で、そう囁いた。


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