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第1章

31 跡継ぎ

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まだ十代の頃に政略結婚した妃との間に、結局子はできなかった。義務としてそれなりの回数はこなしたので、そういう体質だったのだろう。

気まぐれで目についた女を犯すこともあったけど、どいつもこいつもすぐによがってすり寄ってくるので途中から鬱陶しくなって手を出すのをやめた。その程度の尻軽だから、僕の子ができたと言う女がいても、どうせ他の男の子だろうと一笑に付して捨て置いた。

だから僕が認めた僕の子は、リーシャが産んでくれた子たちだけだ。
レオンとサイラス、それと多分リネル。

サイラスは残念ながら僕に似て歪んでしまったが、幸いレオンはリーシャに似たのか比較的まともな子に育った。
彼が次の王太子で問題ないだろう。
もしレオンに妻を娶る気がないのなら、リーシャと彼の子が跡を継げばいい。
王家の血は繋がる。問題ない。


最近、私の父である国王の体調があまりおもわしくないので、そういうことを考えざるを得ない。彼が没すれば、必然的に次の王は私がならねばならない。

自分の利益を増やすことに躍起な貴族を抑え、品行方正で面白味のない妃の機嫌をとり、野心丸出しな隣国をやり過ごし、不満だらけの民衆をあしらって国を存続させる。

面倒くさいことこの上ないが、こればかりは仕方がない。

希薄とはいえ、僕にも生まれた国に対する愛着が多少はあるのだ。その程度の義務を負う覚悟はとうにできている。だからこそ、こんな膨大な量の執務も、嫌々とはいえこなしている。
僕が適当にやったせいで、跡を継ぐレオンに苦労をかけさせるのも少し可哀想だしな。


ふと、彼のことに思いを巡らす。
…彼は…リーシャの心を手に入れたんだったな。

自分からそう仕向けたようなものとはいえ、少し堪える。
リーシャが、僕には向けない想いを彼に向ける。レオンが、真っ直ぐに想いを返す。それを真近で見せられるのは、やはり辛い。

僕は、彼女に愛されたいわけではない。そういうのは、まともな人間の持つ感情だ。
僕は人をまともに愛せない。だから、たとえリーシャが僕を愛したとしても、僕はリーシャに気持ちを返せない。彼女とレオンのような関係は築けない。
僕とリーシャが愛し合うという事態は、起こり得ない。

けれどそれでも、彼女の気持ちが僕以外の人間に向けられているのは腹立たしいのだ。
相手がレオンでなかったら殺しているところだ。

浮気ではない。
レオンに、嫌がるリーシャを触れさせたのは僕だ。最後まで許したのも僕だ。
…心までとられるとは、思ってもみなかったけど。
読みの甘さに、苦笑するしかない。

彼らの間に子どもが生まれても、相変わらずレオンには彼の誕生日にしかリーシャを抱かせていない。こっそり屋敷に紛れ込ませている監視役からも、僕がいない日に彼らがそういうことをしているという報告は上がっていない。

僕はリーシャには滅多に会えないし、そもそも彼女は僕のモノなのだからいいだろう。
そう思っていたけれど、僕が国王になるときには、そのことも考えなくてはいけない。
気が重い。

僕がいなくなれば、レオンは普通に愛し合うのだろうな…僕のリーシャと。

想像した光景に、殺意が膨れ上がった。

ダメだやめろと、自分を宥める。
気を逸らすために、この前リーシャを抱いた時のことを思い出した。

彼女が愛する男の前で彼女を抱くことは、僕に大きな喜びを感じさせる。
彼女がとても苦しむから。

レオンに見られたくないと思っているのが丸わかりな顔で、彼の目の前で僕の体に溺れて、僕を求めて、そのことに傷つき打ちのめされる彼女。彼女を傷つけているのは、他でもない僕だという喜びが心を満たす。

…どうしようもないな。

我がことながら呆れる。
リーシャは、こんな僕にもそれなりの情を感じてくれているようだけれど。

優しい女だ。
僕なんかに捕まらなければ、もっと幸せな人生を歩めただろうに。
僕に散々傷つけられて、それでも僕が調子を崩せば心配する。
お人よしでバカな女。
…僕の唯一の女。


彼女に会う前、僕はそれなりの数の女に手を出していた。
「王子様」に憧れる世間知らずな貴族の娘や、王宮に勤める逆らえないメイドたち。
どいつもこいつも、一度か二度抱けば何かを期待したような目で僕を見るようになった。

僕は母親に似て人目を惹く造作だし、何より「王子様」だ。
僕には愛人は一人もいなかったけど、通常、王族の愛人ともなれば、随分贅沢な暮らしが与えられる。

だから僕の結婚後も、愛人の座を狙って誘いをかけてくる女は多かったし、無理矢理手を出してみた女たちも、抱いた後はすぐに愛人になろうと媚を売ってきた。

純潔を喪って、もうまともには嫁げない、という理由もあったのだろう。
けれどそれでも、自分を犯した相手にあっさり媚を売る様子には吐き気がした。もう他所には嫁げないから、という計算が透けて見えて気持ち悪かった。
そういう女にはうんざりしていた。


そんなとき、リーシャを見つけた。
何となく気が向いて、仕事中の彼女の腕を縛りつけ無理矢理に抱いた。
どうせこの女も同じだろう、と頭の片隅で思いながら。

でも違った。
彼女だけは、僕を拒んだ。
抱けば体は喜ぶくせに、目には拒絶の光があった。次に会った時には、怯えた顔で僕から逃げようとした。執務室で抱いた日も、最後にはあれほどよがり狂って何度も僕を求めたくせに、翌日以降、遠目で見かける彼女は、時折なにかに怯えるように辺りを窺う仕草を見せた。僕と似た背格好の男が近づいてくると、慌ててその場から逃げ出していた。

その姿を見た瞬間、どうしても彼女を手に入れたいと思った。

僕のものにしたい。
もっと彼女の嫌がる顔が見たい。
もっと彼女を泣かせたい。
彼女を閉じ込めて、飽きるまで貪り尽くしたい。
彼女の人生を奪って、限りない絶望を与えたい。


だから、彼女が妊娠していると気づいたときには歓喜した。
これで、彼女を手に入れる口実ができたと。

僕は彼女の意思など無視して、王都から少し離れた私邸に連れ去り閉じ込めた。たかが掃除メイド一人の処遇など、どうとでもなった。
脅して彼女を屋敷に縛りつけて、逃げ道を封じて僕は安堵した。


しかし、彼女を屋敷に閉じ込めてしばらくすると、彼女が僕に心を許しかけている気配を見せた。

嫌だった。
彼女が、他の目障りな女ども同様に、僕に媚を売って『愛人』という立場を喜ぶのは、絶対に嫌だった。
それは、ほとんど恐怖に近い感情だった。

彼女に変わって欲しくない

その焦りから、僕は考えつく限りのことをした。
リーシャが恥ずかしがることや、嫌がることなら何でもした。
息子たちにリーシャを抱かせもした。僕が彼らに命じて。嫌がるリーシャを脅して。
彼女は泣いて嫌がりながらも僕には逆らえず、無理矢理与えられる快楽に溺れた。

体は僕に従順なのに、嫌がりながらもよがって乱れてみせるくせに、責め続ければ、タガが外れて自ら求めもするくせに。次に会った時には、今度は何をされるのかと怯えて警戒する。
そんな彼女に僕はますます執着した。

手酷く抱くと、強すぎる快楽が辛いのか彼女は泣いて拒んだ。
「やめて」と泣き叫ぶ彼女の中に無理矢理精を放つのは、気持ちよくて堪らなかった。つい止められなくて、何度も何度も気絶するまで犯してしまうこともあった。快楽に弱い彼女の中は、それでも僕に絡みついた。

時々、気絶しても犯し続けて、彼女が気がついたらまた気絶するまで犯す、なんてこともしてしまった。
レオンは心配してとめたそうに、サイラスは嬉々としてそれに付き合った。

限界まで追いつめられた時の彼女の瞳を思い出しただけで、もう我慢できなくなるくらいに、彼女は僕の欲望を掻き立てる。
その衝動に逆らう気になれなくて、自分のモノに手を伸ばした。

「リーシャ…」

彼女の体の感触を思い出して、彼女の嫌がる顔を思い出して、ゆっくりと手を動かす。
泣いて縋る彼女の瞳。

「リーシャ…」

嫌なのに、体は喜んでしまう。
そんな心と体の板挟みに苦しむ彼女の顔を思い出せば、限界はあっという間だった。

涙に濡れた瞳、快感に悶える体、そんな姿を思い出しながら、出したものを手早くハンカチで拭き取ってゴミ箱に捨てた。


仕事が多すぎて、まだ数日は、ここからは少し遠いあの屋敷に行けそうにない。
ため息を吐く。

「リーシャ…」

早く君に会いたい。
今度は、どうやって君を傷つけよう。
どうやって、僕の存在を君に刻み込もう。


…君に触れられるのは、あと少しの間かもしれない…。

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