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第1章

27 レオンの誕生日でした

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その年のレオンの誕生日、殿下は遠方への視察があり来られなかった。

「お預けも可哀想だから、今年は僕抜きでしていいよ」

レオンの誕生日は、彼だけが私に触れられる日。そして、彼が私に何をしてもいい日。
殿下がそう決めた日だ。

「今年は特別だよ」

殿下はそう笑っていた。レオンの誕生日前に、この屋敷を訪れた時に。



レオンの誕生日の夜。
私とレオンとサイラスの3人で夕食を囲んで、プレゼントを渡す。

そして夜が更けていく。

「母上」

微笑むレオンに手を取られ、いつものように殿下の寝室へと向かう。いつもとは違い、殿下が不在のあの部屋へと。二人きりで。
サイラスは、

「兄上の邪魔はしないよ」

と肩をすくめて自室に戻ってしまった。

殿下の寝室のドアを開け、入って閉じる。その音をやけに大きく感じた。

思えば、レオンと二人きりでこうして向かい合うのは初めてだった。いつも、殿下とサイラスも一緒だったから。
そう意識すると、落ちつかない気分になる。

「母上…」

そっと抱きしめられ、知らず体が震えた。
そのまま抱き上げられ、ベッドまで運ばれ、大切そうに横たえられた。

私に覆い被さるようにして、レオンが私を見ている。
今夜は満月で、部屋の明かりを点けなくても、窓から射し込む月明かりでレオンの端正な顔立ちがよく見える。

ふと気づく。
今日は殿下がいない。
サイラスもいない。
もしかして、レオンさえ黙っていてくれれば、しなくても殿下にはわからないのではないだろうか。
殿下がいないなら、こんなこと親子でしなくて済む。

「レオン、あの…」

起き上がろうとした私を、レオンが肩に手を置いて止めた。

「わかっていますか?」

レオンは眉を寄せて、苦しげな顔で私を見つめていた。

「私があなたを抱けるのは、今日だけなんですよ?」

「今日を逃せば、あと一年、私は…」

そこで言葉を切って、私を切なげに見つめた。
そして


「リーシャ」


私を、名前で呼んだ。
「母上」ではなく「リーシャ」と。

成長するにつれ、ますます殿下に似てきたレオンにそう呼ばれ、一瞬、目の前にいるのが誰なのかわからなくなった。

彼が苦しそうに微笑む。

「リーシャ」

顔が近づく。

優しく頬にキスをされた。

「リーシャ」

彼の大きな手のひらが、私の首すじをそっと這う。
熱い唇が、何度も私に触れる。
長い指が、器用にドレスの紐を解いていく。
ドレスの肩を、そっと脱がされた。


気づいたら、服をすべて脱がされていた。そしてレオンも、すべての服を脱ぐ。
均整のとれた美しい体が現れた。

「リーシャ」

大きな手で、頬を包み込まれる。
まるで宝物に触れるようにそっと。
強い視線に絡め取られて、目を逸らせない。

「愛しています」

私は魅入られたように動けずに、レオンの唇を受け入れていた。
柔らかな、想いを込めたキス。

「愛しています」

舌がそっと入ってきた。
優しく舐め回す動きに、向けられる愛情に、頭の芯がぼーっとなる。

「レオン…」

名前を呼ぶと、彼は嬉しそうに笑った。

彼の手が、丁寧に私の体を撫でる。
もどかしいほど優しい愛撫に身悶えると、愛おしそうな目で見つめられた。
これが、彼本来の触れ方なのかもしれない。

声が、抑えられない。
呻くような、小さな、でも明らかに感じてしまっている声が。

「レオ…ン…」

「リーシャ。今夜はゆっくり、ね?」

甘い声が、私の耳を蕩かす。

「んっ…」

思わずあげた声に、レオンが微笑んだ。

「リーシャ。今夜のあなたは、私だけのものだ」

レオンから、肌がビリビリするほどの欲望を感じるのに、私に触れる指先は酷く優しい。
その落差に脳が痺れる。
「愛しているから酷くはできない」そう、言われているようで。

何度しても、殿下からは感じたことのなかったもの。
『愛されている』という実感。
それを今、二人っきりになったレオンから与えられて、言葉で伝えられて、心の中で何かが壊れた。


ずっと、愛されたかった。
欲望の捌け口としてではなく、愛情を伝える手段として抱かれたかった。
ずっとずっと求めていたそれを目の前に差し出されて、逃げられない。
拒めない。

ずっと愛されたいと、願っていた。
愛しい相手として抱かれることを、夢見ていた。
叶わないと知りながらも、望んでいた。
愛情を込めて、抱かれたかった。


その願いが、今、叶う。


もう止まれない。
たとえ相手が、血を分けた実の息子だろうと。

この人に触れて欲しい。
この人からの愛情が欲しい。
向けられる愛情を、感情を、余さず受け取りたい。受け入れたい。
体全部で。

そして彼に、私のすべてを受け取って欲しい。

熱い吐息が止まらない。
レオンを呼ぶ声も。

「…っ…と……」

「なぁに?リーシャ」

問い返すレオンの声が甘くて。

「気持ち…い………レオン……もっ…と………」

「…っ…リーシャ……!」

レオンの体温が、上がった気がした。
体中を、愛撫される。
どこをどうされているのか、わからなくなるくらいに。


散々喘いで、何度もイって。
私の蜜は、いまやぐっしょりとシーツを濡らしていた。

「レオン…もう……………お願い………」

もう、待てなかった。
一秒でも早く、疼ききった中を満たして欲しくて。
私を愛してくれる彼に、満たして欲しくて。

私はおそらく初めて、殿下に促されたからではなく、レオンを求めた。
レオンに抱いて欲しいと、心の底から望んでいた。

「私に、リーシャの中を埋めて欲しいの?」

それなのに、レオンはすぐには挿れてくれなくて。

「ここに、私のモノを挿れて欲しいの?」

頷いても、微笑むだけで。

「リーシャ。あなたの声で聞きたい」

言わされる。

「レオン……もう…挿れて……お願いっ……あなたのが……欲しくて…欲しくてっ……堪らないの……お願い…だからっ…焦らさっ…ないで…早くっ…」

ようやく、狂いそうなほどにそれを欲しているそこに、レオンの熱いモノがあてがわれた。

「ずっと、あなたに求めて欲しかった……私のリーシャ………」

レオンが私の中に挿入ってきた。
「私のリーシャ」と何度も囁きながら、ゆっくり、ゆっくりと。
もどかしさに体を捩ると、耳元で笑われた。

「リーシャ。ダメだよ、焦らないで」

じっくりと時間をかけて。
途方もなく長く感じる時間をかけて、ようやく彼のすべてが私の中に挿入った。
奥にトンッと当たった時、私はびっしょりと汗をかいて、荒い息を吐いていた。
体が熱くて熱くて堪らない。
早く、この熱を散らして欲しくて。

「動…いて……」

レオンに縋る。
なのに

「ダメだよ、リーシャ。今日はゆっくりって言ったでしょう?ね?」

レオンは奥まで挿れただけで動いてくれず、ただ、キスを繰り返す。
中がもどかしくて堪らない。
腰を揺らしてみても、レオンは宥めるように手でそっと私を撫でるだけで。
必死に我慢しているのに、レオンはキスをするばかりで一向に動いてくれない。

「レオ……ン…」

ねだろうとしたその先の言葉は、舌で絡め取られてしまった。
仕方なく腕をレオンの背中に回し、ぎゅっと抱きしめる。

「リーシャ、私が欲しいの?」

必死にコクコクと頷く。

「私に、愛されたいの?」

自分が彼に抱かれたいと望んでいることを、改めて言葉で突きつけられて顔が熱くなる。
それでも、頷いた。

「レオン…お願い…私を、愛して…」

レオンが熱のこもった瞳で私を見つめる。

「リーシャ。覚えておいて」

甘い甘い囁き声。

「私は、ただ一人の女性として、あなたを愛している」

明確に、愛を告げられた。

「リーシャ」

私の中がきゅっと締まったのに気づいたレオンが、もう一度名前を呼んだ。
狂おしいほどの声音に、私はかつてないほど感じてしまっていた。
レオンがゆっくりと、動き始める。

「リーシャ」

レオンが私を呼ぶ。
切なく、苦しく、愛おしそうな声で。
心の底から愛され、求められているのを感じて、私はレオンの背中に爪を立ててしがみついた。

「レオン…」

溶け落ちそうなほど甘い声で、彼の名を呼んだ。

「リーシャ」

また、名前を呼ばれる。
ぶつけられる想いが苦しくて、私はレオンの鎖骨に噛みついた。
一瞬、顔をしかめた後、レオンは嬉しそうに笑った。

「リーシャ。私はあなたのモノだよ」

レオンが私の額に、頬に、何度もキスをする。

「跡なんてつけなくても、私のすべては、あなたのものだ」

すっかり大人になった色気の漂うその顔は、殿下とよく似ているけれど確かに別のもので。私はただひたすらに、彼の名を呼び続けた。
彼が私の名を呼び返すたびに、途方もない幸福感に包まれた。


彼に貫かれ、私は幾度となく絶頂を迎え、彼も何度も私の中で果てた。


その日、私はレオンの子を身ごもった。



◻︎◾︎◻︎◾︎◻︎

「リーシャ、中に出していい?」

「……」

改めて問われて、思わず躊躇った。
今までに、既に何度か繰り返してきた行為なのに。
でも

「あなたに、私の子を産んで欲しい。あなたとの、確かな愛の証が欲しいんだ…」

そんな風に言われてしまったら、拒めるわけがなかった。
黙って抱きしめる腕に力を込める。

「…いいの?」

震える声で囁く彼に、頷いた。
レオンは嬉しそうに笑うと、腰の動きを速めた。

「リーシャっ…嬉しいよっ…私のリーシャっ…あなたにっ…子をっ…産んでっ…欲しいっ…私とっ…あなたの…子をっ…リーシャっ…」

夢中で腰を振る彼に小さく囁いた。

「私も」

と。
喘ぎ声に掠れてしまって、レオンに届いたかは、わからないけれど。

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