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第1章

23 父子の会話

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公爵家で開かれた夜会に参加していたレオンと、たまたま二人きりになった。
ふと思いついて、レオンに言っておくことにした。

「僕が死んだら、リーシャは君の好きにしていいよ」

途端に、レオンの殺気が膨れ上がった。
ふふっ。今にも殺されそうだな。
釘を刺しておかないと不味そうだ。

「ああ、でも君が僕を殺すのはナシだよ。リーシャはきっと、永遠に君を受け入れなくなる」

「くっ…」

悔しそうに拳を握ったレオンの殺気が萎れていく。
リーシャは根が善良な女だ。僕を殺した相手を受け入れるのは難しいだろう。
それはレオンもわかっている。

「大丈夫だ。君より僕の方が確実に早く死ぬ」

だから君の出番もあるよ、と安心させるつもりで言ったのに、レオンは複雑そうな顔になった。
やれやれ。ほんの少し前に殺気を向けた相手にそれか。この子の善良さは、きっとリーシャに似たんだろうな。

「だから、そうしたら君がリーシャを守ってやってくれ」

「あなたに言われなくても」

レオンは嫌そうに頷いた。
そして躊躇いがちに口を開く。

「でも父上は」

僕を真っ直ぐに見て。

「何故、母上をあんな風に扱うのです?」

嫌なことを聞く子だ。
思わず眉間にシワが寄った。

「父上は、母上のことを愛していらっしゃるのでしょう?」

まぁ、バレるのも仕方ないか。長年同じ女を愛してきた者同士だ。
ため息混じりに答える。

「リーシャには言うなよ?」

レオンは困ったような顔をした。

「僕は彼女を泣かせたくて堪らないんだ。彼女が泣いて嫌がって、苦しんでいるのを見ると心が満たされる」

僕の答えに、レオンが眉をひそめた。

「最低ですね」

容赦ないな、と苦笑する。

「さっさと死んでください。母上は私が幸せにしますから」

「嫌だよ。まだまだ僕は、彼女を苦しめ足りない」

レオンは困惑の表情を浮かべた。

「…父上は母上のことを憎んでいらっしゃるのですか?」

まぁ、レオンには到底わからないだろうな。
首を横に振る。

「いいや、そうではないよ。僕は彼女を大切に思っている」

言葉にしたのは初めてかもしれないけれど。

「では何故…」

「ただ、僕に傷つけられて苦しむ彼女の姿だけが、僕の心を満たしてくれるんだ」

他の女ではダメだ。
彼女でなければダメだと強く思うほどに、僕は彼女に惹かれている。
だから

彼女を、どこまでも苦しめたい。
僕が、彼女を傷つけたい。
深く。深く。
決して癒えない傷を、彼女に与えたい。

他人に理解される感覚でないことは、わかっている。
案の定、レオンは呆れたような顔で再度こう言った。

「やっぱり早く死んでください」

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