上 下
19 / 19
第二部

再会

しおりを挟む
そしてその日、俺は街中で買い物をしていたあの女に近づいた。そしてわざとぶつかった。

ドン

勢いよくぶつかった弾みで、彼女が大きくよろける。

「っ…すみません……」

倒れそうになった彼女の腕を掴んで支える。
彼女は倒れなかったが、彼女が抱えていた荷物は地面に落ちて散らばった。
慌ててそれを拾い集める彼女。
俺もそれに付き合って、少し遠くに転がった物を一つ一つ拾い上げていく。拾いながら、再び彼女に近づいていく。
彼女はしゃがんで、足元に散らばった細かい物を拾い上げている。

地面に落ちた物が残り一つになった。
それに手を伸ばす彼女。
その手に、偶然を装って上から触れた。

…5年振りに、彼女に触れた。

ああそうだ。この手だ。
細く長い指。
なめらかな肌。
あの時俺に触れ、俺を抱きしめた手だ。

半ば無意識に握り締めると、驚いた彼女がパッと顔を上げた。
俺と彼女の視線がぶつかる。
優しげな、少し気弱げな薄茶の瞳。

ああ。
この顔だ。この目だ。
あの日、俺を求めたのは…。

じっとその目に見入る。
彼女の目が大きく見開かれ、信じられないという顔になった。
それに合わせて俺も驚いた顔を作る。
思いもかけない再会だという表情を。

「っ…おねー…さん……?」

出した声は、勝手に掠れた。
彼女は俺の呼びかけに顔を青ざめさせると、咄嗟に立ち上がって逃げようとした。

…俺があの時の子どもだと気づいて、逃げようとした。

多少、予想していた事とはいえ腹立たしい。

まだ子ども扱いする気か。
また俺から逃げる気か。
…そんな真似を、俺がおまえに許す筈がないだろう。

5年も待ったのだ。この身体が成長するのを。
あの時のように、「相手は子どもだから」という理由で彼女が逃げないように。
もう俺は、これ以上は1日だって待つ気はない。

掴んだままだった手を握って、グッと引き寄せた。いともたやすく引き戻される彼女の身体。
俺よりもずっと細い身体。

ほら、俺はもう子どもじゃない。
わかるだろう?

焦り顔の彼女の耳元に口を近づけて囁く。

「…おねーさん…だよね?なんで逃げるの?」

ついあの頃の口調になった。
彼女の思考が伝わってくる。

(ダメ…私…は…彼には…二度と会わないって決めーー)

まだそんなことをっ…!

腹の立つ思考を遮るように、握る手に力を込めた。

「痛っ…!」

彼女が顔を顰める。
痛みに気を取られて彼女の思考が途切れる。
その耳に再び囁く。

「おねーさん…会いたかった…」

……会いたかった。

どこにいるかも、どうしているかも知っていた。
けれど、こうして直に会いたかった。
声が聞きたかった。
遠くから一方的に眺めるだけではなく、この眼に俺が映りたかった。

「違っ…人違いっ…人違い…ですっ…」

(ダメ…なの…私は…ダメ……)

焦る彼女からは、それしか読み取れない。

…いったい何がダメなんだ!

イライラする。
混乱した彼女の思考は断片的で、読み取ってもほとんど役に立たない。
だが、彼女が俺から逃げようとしていることだけは、はっきりとわかる。

…これだけ待たせておいて、まだ逃げようなどと。

苛つく俺を、不安そうに見上げる彼女。
多分、相当強く手を握り締めてしまっているが緩められない。少しでも緩めたら、彼女が逃げそうで。

…今逃したらダメだ。

不安げな瞳に、涙の膜が張る。

…そんな目で見ても逃さない。

「………嘘。あの時のおねーさんでしょ?あの時、僕をいーっぱい気持ちよくしてくれたおねーさん。僕のこと、覚えてるよね?知らない相手なら、いきなり逃げたりしないもんね?」

声に甘さを混ぜて、容赦なく追いつめる。
あの時の事を、思い出させるように。


あれだけ乱れておいて。
あれだけ俺を求めておいて。
今、それだけ顔色を変えておいて。

人違いだと…?笑わせるな!


……正直、彼女と同じ背丈になった俺を見たら、彼女は喜ぶんじゃないかという想像もしていた。可能性の話としてだが。

あの時は、小さな子どもに手を出した罪悪感で俺から離れようとしたから。…まあ実際に手を出したのはこっちなんだが。
だから子どもじゃなくなった俺に会えば、躊躇う理由が無くなった彼女は喜んで俺の胸に飛び込んでくるんじゃないかなんて…そんなことを……。


……実際はこのざまだったがな。


やはり人間にとって5年は長すぎたのか?
あの時俺に向けた感情で、彼女の中に今でも残っているのは罪悪感だけなのか?

…たとえそうでも…

これだけ待ったんだ。
おまえに会う為に。
おまえをもう一度抱く為に。
おまえに俺の存在を、頭と身体の両方で受け入れさせる為に。
その為だけに、この身体を成長させた。

だからーー


おまえは逃さない。
絶対に逃さない。
絶対に。
絶対にだ。


しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(7件)

2022.04.02 ユーザー名の登録がありません

退会済ユーザのコメントです

解除
pocky
2022.03.17 pocky
ネタバレ含む
ハリエニシダ・レン
2022.03.18 ハリエニシダ・レン

続きはもう少々お待ちください!

解除
code: scp-3001-ss

めっちゃ面白かったです。続き頑張ってください

ハリエニシダ・レン
2022.02.16 ハリエニシダ・レン

ありがとうございます。頑張ります!

解除

あなたにおすすめの小説

男友達を家に入れたら催眠術とおもちゃで責められ調教されちゃう話

mian
恋愛
気づいたら両手両足を固定されている。 クリトリスにはローター、膣には20センチ弱はある薄ピンクの鉤型が入っている。 友達だと思ってたのに、催眠術をかけられ体が敏感になって容赦なく何度もイかされる。気づけば彼なしではイけない体に作り変えられる。SM調教物語。

【R18】隣のデスクの歳下後輩君にオカズに使われているらしいので、望み通りにシてあげました。

雪村 里帆
恋愛
お陰様でHOT女性向け33位、人気ランキング146位達成※隣のデスクに座る陰キャの歳下後輩君から、ある日私の卑猥なアイコラ画像を誤送信されてしまい!?彼にオカズに使われていると知り満更でもない私は彼を部屋に招き入れてお望み通りの行為をする事に…。強気な先輩ちゃん×弱気な後輩くん。でもエッチな下着を身に付けて恥ずかしくなった私は、彼に攻められてすっかり形成逆転されてしまう。 ——全話ほぼ濡れ場で小難しいストーリーの設定などが無いのでストレス無く集中できます(はしがき・あとがきは含まない) ※完結直後のものです。

とりあえず、後ろから

ZigZag
恋愛
ほぼ、アレの描写しかないアダルト小説です。お察しください。

お屋敷メイドと7人の兄弟

とよ
恋愛
【露骨な性的表現を含みます】 【貞操観念はありません】 メイドさん達が昼でも夜でも7人兄弟のお世話をするお話です。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

【R-18】クリしつけ

蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。

【R18】散らされて

月島れいわ
恋愛
風邪を引いて寝ていた夜。 いきなり黒い袋を頭に被せられ四肢を拘束された。 抵抗する間もなく躰を開かされた鞠花。 絶望の果てに待っていたのは更なる絶望だった……

【R18】絶倫にイかされ逝きました

桜 ちひろ
恋愛
性欲と金銭的に満たされるからという理由で風俗店で働いていた。 いつもと変わらず仕事をこなすだけ。と思っていたが 巨根、絶倫、執着攻め気味なお客さんとのプレイに夢中になり、ぐずぐずにされてしまう。 隣の部屋にいるキャストにも聞こえるくらい喘ぎ、仕事を忘れてイきまくる。 1日貸切でプレイしたのにも関わらず、勤務外にも続きを求めてアフターまでセックスしまくるお話です。 巨根、絶倫、連続絶頂、潮吹き、カーセックス、中出しあり。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。