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第二部
再会
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そしてその日、俺は街中で買い物をしていたあの女に近づいた。そしてわざとぶつかった。
ドン
勢いよくぶつかった弾みで、彼女が大きくよろける。
「っ…すみません……」
倒れそうになった彼女の腕を掴んで支える。
彼女は倒れなかったが、彼女が抱えていた荷物は地面に落ちて散らばった。
慌ててそれを拾い集める彼女。
俺もそれに付き合って、少し遠くに転がった物を一つ一つ拾い上げていく。拾いながら、再び彼女に近づいていく。
彼女はしゃがんで、足元に散らばった細かい物を拾い上げている。
地面に落ちた物が残り一つになった。
それに手を伸ばす彼女。
その手に、偶然を装って上から触れた。
…5年振りに、彼女に触れた。
ああそうだ。この手だ。
細く長い指。
なめらかな肌。
あの時俺に触れ、俺を抱きしめた手だ。
半ば無意識に握り締めると、驚いた彼女がパッと顔を上げた。
俺と彼女の視線がぶつかる。
優しげな、少し気弱げな薄茶の瞳。
ああ。
この顔だ。この目だ。
あの日、俺を求めたのは…。
じっとその目に見入る。
彼女の目が大きく見開かれ、信じられないという顔になった。
それに合わせて俺も驚いた顔を作る。
思いもかけない再会だという表情を。
「っ…おねー…さん……?」
出した声は、勝手に掠れた。
彼女は俺の呼びかけに顔を青ざめさせると、咄嗟に立ち上がって逃げようとした。
…俺があの時の子どもだと気づいて、逃げようとした。
多少、予想していた事とはいえ腹立たしい。
まだ子ども扱いする気か。
また俺から逃げる気か。
…そんな真似を、俺がおまえに許す筈がないだろう。
5年も待ったのだ。この身体が成長するのを。
あの時のように、「相手は子どもだから」という理由で彼女が逃げないように。
もう俺は、これ以上は1日だって待つ気はない。
掴んだままだった手を握って、グッと引き寄せた。いともたやすく引き戻される彼女の身体。
俺よりもずっと細い身体。
ほら、俺はもう子どもじゃない。
わかるだろう?
焦り顔の彼女の耳元に口を近づけて囁く。
「…おねーさん…だよね?なんで逃げるの?」
ついあの頃の口調になった。
彼女の思考が伝わってくる。
(ダメ…私…は…彼には…二度と会わないって決めーー)
まだそんなことをっ…!
腹の立つ思考を遮るように、握る手に力を込めた。
「痛っ…!」
彼女が顔を顰める。
痛みに気を取られて彼女の思考が途切れる。
その耳に再び囁く。
「おねーさん…会いたかった…」
……会いたかった。
どこにいるかも、どうしているかも知っていた。
けれど、こうして直に会いたかった。
声が聞きたかった。
遠くから一方的に眺めるだけではなく、この眼に俺が映りたかった。
「違っ…人違いっ…人違い…ですっ…」
(ダメ…なの…私は…ダメ……)
焦る彼女からは、それしか読み取れない。
…いったい何がダメなんだ!
イライラする。
混乱した彼女の思考は断片的で、読み取ってもほとんど役に立たない。
だが、彼女が俺から逃げようとしていることだけは、はっきりとわかる。
…これだけ待たせておいて、まだ逃げようなどと。
苛つく俺を、不安そうに見上げる彼女。
多分、相当強く手を握り締めてしまっているが緩められない。少しでも緩めたら、彼女が逃げそうで。
…今逃したらダメだ。
不安げな瞳に、涙の膜が張る。
…そんな目で見ても逃さない。
「………嘘。あの時のおねーさんでしょ?あの時、僕をいーっぱい気持ちよくしてくれたおねーさん。僕のこと、覚えてるよね?知らない相手なら、いきなり逃げたりしないもんね?」
声に甘さを混ぜて、容赦なく追いつめる。
あの時の事を、思い出させるように。
あれだけ乱れておいて。
あれだけ俺を求めておいて。
今、それだけ顔色を変えておいて。
人違いだと…?笑わせるな!
……正直、彼女と同じ背丈になった俺を見たら、彼女は喜ぶんじゃないかという想像もしていた。可能性の話としてだが。
あの時は、小さな子どもに手を出した罪悪感で俺から離れようとしたから。…まあ実際に手を出したのはこっちなんだが。
だから子どもじゃなくなった俺に会えば、躊躇う理由が無くなった彼女は喜んで俺の胸に飛び込んでくるんじゃないかなんて…そんなことを……。
……実際はこのざまだったがな。
やはり人間にとって5年は長すぎたのか?
あの時俺に向けた感情で、彼女の中に今でも残っているのは罪悪感だけなのか?
…たとえそうでも…
これだけ待ったんだ。
おまえに会う為に。
おまえをもう一度抱く為に。
おまえに俺の存在を、頭と身体の両方で受け入れさせる為に。
その為だけに、この身体を成長させた。
だからーー
おまえは逃さない。
絶対に逃さない。
絶対に。
絶対にだ。
ドン
勢いよくぶつかった弾みで、彼女が大きくよろける。
「っ…すみません……」
倒れそうになった彼女の腕を掴んで支える。
彼女は倒れなかったが、彼女が抱えていた荷物は地面に落ちて散らばった。
慌ててそれを拾い集める彼女。
俺もそれに付き合って、少し遠くに転がった物を一つ一つ拾い上げていく。拾いながら、再び彼女に近づいていく。
彼女はしゃがんで、足元に散らばった細かい物を拾い上げている。
地面に落ちた物が残り一つになった。
それに手を伸ばす彼女。
その手に、偶然を装って上から触れた。
…5年振りに、彼女に触れた。
ああそうだ。この手だ。
細く長い指。
なめらかな肌。
あの時俺に触れ、俺を抱きしめた手だ。
半ば無意識に握り締めると、驚いた彼女がパッと顔を上げた。
俺と彼女の視線がぶつかる。
優しげな、少し気弱げな薄茶の瞳。
ああ。
この顔だ。この目だ。
あの日、俺を求めたのは…。
じっとその目に見入る。
彼女の目が大きく見開かれ、信じられないという顔になった。
それに合わせて俺も驚いた顔を作る。
思いもかけない再会だという表情を。
「っ…おねー…さん……?」
出した声は、勝手に掠れた。
彼女は俺の呼びかけに顔を青ざめさせると、咄嗟に立ち上がって逃げようとした。
…俺があの時の子どもだと気づいて、逃げようとした。
多少、予想していた事とはいえ腹立たしい。
まだ子ども扱いする気か。
また俺から逃げる気か。
…そんな真似を、俺がおまえに許す筈がないだろう。
5年も待ったのだ。この身体が成長するのを。
あの時のように、「相手は子どもだから」という理由で彼女が逃げないように。
もう俺は、これ以上は1日だって待つ気はない。
掴んだままだった手を握って、グッと引き寄せた。いともたやすく引き戻される彼女の身体。
俺よりもずっと細い身体。
ほら、俺はもう子どもじゃない。
わかるだろう?
焦り顔の彼女の耳元に口を近づけて囁く。
「…おねーさん…だよね?なんで逃げるの?」
ついあの頃の口調になった。
彼女の思考が伝わってくる。
(ダメ…私…は…彼には…二度と会わないって決めーー)
まだそんなことをっ…!
腹の立つ思考を遮るように、握る手に力を込めた。
「痛っ…!」
彼女が顔を顰める。
痛みに気を取られて彼女の思考が途切れる。
その耳に再び囁く。
「おねーさん…会いたかった…」
……会いたかった。
どこにいるかも、どうしているかも知っていた。
けれど、こうして直に会いたかった。
声が聞きたかった。
遠くから一方的に眺めるだけではなく、この眼に俺が映りたかった。
「違っ…人違いっ…人違い…ですっ…」
(ダメ…なの…私は…ダメ……)
焦る彼女からは、それしか読み取れない。
…いったい何がダメなんだ!
イライラする。
混乱した彼女の思考は断片的で、読み取ってもほとんど役に立たない。
だが、彼女が俺から逃げようとしていることだけは、はっきりとわかる。
…これだけ待たせておいて、まだ逃げようなどと。
苛つく俺を、不安そうに見上げる彼女。
多分、相当強く手を握り締めてしまっているが緩められない。少しでも緩めたら、彼女が逃げそうで。
…今逃したらダメだ。
不安げな瞳に、涙の膜が張る。
…そんな目で見ても逃さない。
「………嘘。あの時のおねーさんでしょ?あの時、僕をいーっぱい気持ちよくしてくれたおねーさん。僕のこと、覚えてるよね?知らない相手なら、いきなり逃げたりしないもんね?」
声に甘さを混ぜて、容赦なく追いつめる。
あの時の事を、思い出させるように。
あれだけ乱れておいて。
あれだけ俺を求めておいて。
今、それだけ顔色を変えておいて。
人違いだと…?笑わせるな!
……正直、彼女と同じ背丈になった俺を見たら、彼女は喜ぶんじゃないかという想像もしていた。可能性の話としてだが。
あの時は、小さな子どもに手を出した罪悪感で俺から離れようとしたから。…まあ実際に手を出したのはこっちなんだが。
だから子どもじゃなくなった俺に会えば、躊躇う理由が無くなった彼女は喜んで俺の胸に飛び込んでくるんじゃないかなんて…そんなことを……。
……実際はこのざまだったがな。
やはり人間にとって5年は長すぎたのか?
あの時俺に向けた感情で、彼女の中に今でも残っているのは罪悪感だけなのか?
…たとえそうでも…
これだけ待ったんだ。
おまえに会う為に。
おまえをもう一度抱く為に。
おまえに俺の存在を、頭と身体の両方で受け入れさせる為に。
その為だけに、この身体を成長させた。
だからーー
おまえは逃さない。
絶対に逃さない。
絶対に。
絶対にだ。
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