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第2章
ホテル2
しおりを挟む翌日も、仕事を休んでピピを抱いた。……ピピに気づかれないように、コロンをつけ直して。
焦っていた。彼女が手の中にいるうちに、どうにかしなければと。このつぶらな瞳が他の男を映すなど、やはり耐えられない。番の匂いを付けただけの見知らぬ男相手など、冗談ではない。彼女には、この先もずっとオレだけを見ていて欲しい。
コロンを使って何が悪い。ただの匂いだ。ピピにとって、凄くいい匂いがするというだけの……
あからさまな矛盾には目を瞑った。
……もう、コロン無しではピピの前に立てないな
熟睡する寝顔を見ながら、苦いため息を吐いた。
コロンの効果が切れた時、ピピに「どうしてこの男に抱かれたりしたのだろう?」なんて目で見られたら、どうしたらいいのか分からない。番の匂いで惑わせて抱いたのだと知ったら、ピピは一体どんな顔をするのか…。
それを確認する勇気は、とてもではないが無かった。
それに……ピピに真実を知らせたくなかった。コロンを用意してオレに渡したのはピピの番なのだ。番にそこまで疎まれているのだと知ったらピピは………
だからコロンの存在ごと全て隠すしかない。オレがピピの番に会った事も。どういうつもりでコロンを渡されたのかも。そして……もしオレがコロンを使わなければ、あの男がどうするつもりだったのかも……
ピピは、何故かは分からないがまたオレの事を好きになったのだと、そう思わせるしかない……
オレのこの行為が、胸を張れるものでないのは分かっている。だが少なくともオレは、ピピが番と出会う前に望んでいた人生なら与えてやれる。
ピピの番はピピを幸せにする気がないのだから、これがピピにとって最善の……
そして、ピピを諦められないオレにとっても最善の……
………今までのオレたちの関係は何だったのか
そうピピを詰りたい気持ちも実はある。あんなにあっさり別れを告げられたのだから。
だが、獣人の本能の欲求は強い。番ではない俺でさえ、ピピにここまで惹かれているのだ。ピピは一体どれだけ番に……
そう納得できてしまうのだ。
だから…責められない……。
しかしそれならば、ピピの番は本能が壊れているのだろうか?
あの男は、ピピを番だと認識しながらも受け入れる気がないようだった。そんなに大事な『妻』なのだろうか。
だとしたら……羨ましい……。オレもピピにそんな風に思われていたなら、こんな事はせずに済んだのに……
そこまで考えて頭を振った。
ピピの反応が普通なのだ。夫も小さな子どももいたのに、歳の離れた番と即日結婚、なんて話もあるくらいだ。あの男が異常なのだ。
本能に抗えないのは、仕方のない事なのだから………
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