【完結】番が見つかった恋人に今日も溺愛されてますっ…何故っ!?

ハリエニシダ・レン

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第2章

コロン

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(アレウス視点)
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ある日の午後、ミュールには内緒で半休を取った。そして俺の番らしきピピという小鳥獣人の、元恋人を訪ねた。保健省で働いている知り合いに作ってもらった、特殊な番寄せのコロンを持って。

作った奴は、効果があるかどうか…などと言っていたが、多分あるだろう。試しに街路樹にほんの少しだけ吹きかけたら、あの小鳥獣人はその木の周りをしばらくウロウロしていたらしいから。
自分でそれを確認した癖に、研究者ってやつは時々ひどく慎重だ。




俺をストーキングしている小鳥獣人については、追い返す為に探偵を雇って情報を調べさせた。だから元恋人についても基本的な事は分かっている。

名前はマルコス。
マルコスと遠距離恋愛だった小鳥獣人のピピは、彼を追いかけて最近この街に来た。しかし俺の匂いに気づいて、マルコスとは別れた。
俺にとって重要なのは、マルコスの方はまだピピに未練があるらしいという点だ。


図書館で働いているマルコスは、ワニ獣人だった。

………ミュールと結婚した狼獣人の俺が言う事でもないが、ワニと小鳥……。

……まぁ、どうでもいいか

気を取り直して、奥の人気のない書架に本を戻しているその男に近づいた。

「あんたがピピさんの恋人か?」

「……『元』恋人だ。…あんたは?」

機嫌が悪そうに睨まれた。
随分やつれている。
恋人と別れた所為でこうなっているのなら、名乗らず用件を言った方が良さそうだ。
そう判断して、質問には答えず話を進めた。

「彼女と寄りを戻したい気持ちはあるか?」

「…………………ハッ」

単刀直入に訊くと、マルコスは投げやりに笑った。酷く荒んだ雰囲気で。

「あんたがどこまで知ってるか知らんがな、ピピは番と出会ったんだ。あの・・番とだ。オレなんぞ、二度と彼女の視界にも入らんさ」

なるほど、報告書に書いてあった通りだ。やはり未練があるらしい。
好都合だ。

「いい物をやる」

持ってきたコロンの瓶を、空いていた手に押しつけた。

「………何だ?これは」

胡乱気な目で、手の中の瓶を見つめるマルコス。

「寄りを戻せるコロンだ」

「……何だと!?」

揶揄われたと思ったのかマルコスは気色ばんだが、相手にする気はない。
別に俺は、あの小鳥獣人を押しつける相手は、こいつでなくても構わないのだ。こいつが一番、面倒が無さそうだというだけで。

「その気があるなら使え」

冷たく告げると、マルコスは苦しげな表情になった。

「………………いや……たとえこれを使えば寄りを戻せるのだとしても……そんな真似はできない……ピピは…………彼女は……運命に出会ったんだ……」

思いつめた表情で項垂れるマルコス。

なんだ?悲劇の主人公気どりか?

「たかが匂い一つで大袈裟な」

呆れて肩を竦めると、また睨まれた。

「………番ってのは、そういうもんだろ…」

そう言ってまた肩を落とす。
………面倒くさい。

「だが、それまではあんたが好かれていたんだろう?」

「……それは…そうだが……」

力なく呟くマルコス。

「なら、匂いにつられてよく知りもしない男を追いかけ回している女の目を、それで覚ましてやれ」

あの女は、無駄な事をしているのだから。
番だろうがなんだろうが、どれだけ追いかけ回されようと俺はあの女を相手にする気は無い。
俺の女はミュールだけだ。

迷うように、じっと瓶を見るマルコス。
もうひと押しか?

「好きなら躊躇うな。それには番の匂いが入っているだけだ。匂いが違うだけであんたにまた靡くなら、何の問題がある?」

「……………その匂いが、重要なんだろうが……そもそもあんたは、何でこんな物を持っている?何でオレに寄越すんだ?」

まぁ、当然の疑問だな。
言わずに誤魔化すのは流石に無理か。

そう諦めて、仕方なく答えた。

「迷惑しているからだ」

「……迷…惑……?」

マルコスの眉が寄って、そしてそのひと言で俺が誰か理解したのか、憤怒の形相になった。予想通りだ。

「迷惑だとっ!?貴様っ…ピピの想いをっ!」

殴りかかってきたが、図書館勤務のパンチなど戦闘職の俺には遅すぎる。
殴られてやる義理も無いのでサッと避けると、マルコスは勢い余って転んだ。いや、つい足をひっかけて転ばせてしまったな。
まぁ、これくらいはいいか。正当防衛の範疇だろう。

「ああ、迷惑だとも。俺には愛する妻がいるんでな」

「………妻?……あんた……結婚してるのか……?」

床に転がったまま呆然と呟くマルコス。

「ああ。だから匂いが好きだなんて理由で付きまとわれて迷惑している。早いとこ引き取ってくれ」

マルコスの眉が、苦し気に寄った。

「………あんたにとって、ピピは番だろう?…欲しくは、ならないのか?」

バカな事を聞く。

「………あんた、虫は食うか?」

「は?……いや、食わないな」

「肉は?」

「好きだ」

「なら、もし匂いだけ極上の虫と、好物の肉が目の前にあったら、どっちを食う?」

「……………肉を食う…と思う」

「それと似たような事だ」

少し違うがまぁいい。
俺は元々説明は苦手だ。

「…………言いたい事は分かったが、例えが酷過ぎるだろう………だが…要するにオレに、匂いも美味そうな餌になれって事か」

「そうだ。あんたは自分の恋人に、匂いだけ美味そうな虫を喰わせるつもりか?」

「…ピピは小鳥獣人だから別に虫は嫌いじゃ……いや、そういう事じゃないな」

…………………。
いきなりボケるな。戸惑うだろう。

「………もしオレが断ったら?」

それならそれで構わない。

「他の餌を用意するさ」

「っ…!!!?」

サラリと告げると、殺気を込めて睨みつけてきた。だが殺気など、戦闘訓練でもっと強いものを毎日山ほど浴びているから気にもならない。

俺は、あの小鳥獣人にこの先ずっと追いかけ回されるのは御免だ。
あれだけ避けて、興味がないと示してきたのだ。
もういいだろう。
しつこくする方が悪い。
こいつなら無難に収まりそうだから最初に声をかけたが、押しつける相手は誰でもいいのだ。

見ず知らずの男にコロンの所為で迫ってしまうというのは、冷静に考えると酷いかもしれないが、これ以上付きまとわれなくて済むのなら…

「俺はどっちでもいい」

それが俺の本心だ。

「……この、人でなしがっ…」

と吐き捨てられたが、そう言われてもな…。
俺が大事なのはミュールだけだ。

必要な事は伝えたので、出口に向かって歩き出す。


恐らくマルコスは、コロンを使うだろう。
この状況では、使わない訳にはいかない筈だ。
問題は、どの程度効くかだが…

それについては、コロンを作った奴が経過観察をすると言っていた。だから効きが足りなければ、何か手を考えるだろう。
俺にできる事はひとまず無い。


だが一応、上手くいくように願っておこう。
俺とミュールの幸せの為に。




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