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1章
Level 1: "The Habitable Zone" (生存可能領域)②
しおりを挟む私はLevel 1の探索を始めることにした。
改めてフロアを見回すと、誰もいないだだっ広い空間というのは本当に不気味に感じる。
the Backroomsで他の人間と遭遇する可能性は、あるとされている。
特に危険度の低い階層であるほど可能性が高く、中には居住区のようなものまで存在しているらしい。
the Backroomsを訪れる人々のことを放浪者と表現するが、Level 153は特に有名な放浪者による居住区が存在するとされる。
アユミに関する情報を集めるのには居住区を訪れるのもありかもしれない。ただし治安の良い場所に限るけれど。
通路を進むと所々に扉があるが、鍵がかかっているのか開かない物も多くあった。
いくつかのドアを開こうと試したところ、ようやく開いた一部屋にプラスチック製の大きなケースが置かれていた。
「これ……もしかして、物資?」
このフロアにランダムに配置されているという物資。本当にこんな無造作に置かれているとは。
プラスチックの蓋を開け、中を覗き込む。
「入ってるのは……ポテトチップス。よかった一応食糧ね。それにリュックサック、気が利いてる……うわっ、使用済みティッシュ……? そういえば役に立たない物も入ってるんだけ。あ、これもしかして……」
私が取り出したのは一本のペットボトル。
ラベルは貼られていないがもしかしたらと思い、試しに蓋を開けて匂いを嗅いでみる。
間違いない、これは有名なあれだ。
「アーモンドウォーター! 本物が見れるなんて」
思わずそうはしゃいでしまったことに気づき、私は一人で顔を赤くしてしまった。
アーモンドウォーターはthe Backroomsにおける最もポピュラーな、おそらくただの水よりも入手機会が多いであろう飲み物。
the Backroomsにはアーモンドウォーターが流れる川まであるというのだから興味がわく。
……喉は乾いてはいるけど。
貴重な飲み物だ。ここはぎりぎりまで我慢しないと。
ジジっという蛍光灯のちらつき。一瞬明かりが落ちるかと思い身構えたが、どうやら大丈夫そうだ。
アユミがいそうな気配はない。それどころか、人の気配自体まったくしない。
危険度が低い階層だから、居住区があってもおかしくはないのに。
もう少し探索して、階段かエレベーターがあればそれで別の階層へ移動しよう。
それにしても、エンティティの気配はないものの、時折蛍光灯の灯りが落ち、一瞬だけ暗闇となるのが不気味なフロアだ。
懐中電灯でも見つかれば安心だけど、そう都合良くはいかないか。
扉を開けて通路を進むと、まるで迷路のように入り組んでいることがわかった。コンクリートの迷宮といったところ。ここがthe Backroomsでなかったとしても現実に存在しそうな空間がかえって気味の悪さ誘う。
現実とほとんど同じ。でも、確実に違う、そんな異世界。
the Backroomsはパラレルワールドだという人がいるけど、どうなのかな。
でも、世界中の放浪者が探検をしてwikiを更新してるんだから、きっと秘密もいつか明かされるときがくるんだろう。
その秘密が気にならないわけではないけれど……何よりもまずはアユミを助け出すことだ。
「あ……箱」
今度は真新しい木箱。
中身は……ランチョンミートの缶詰が二つと、アーモンドウォーター……それになんだろうこれは、靴べら?
アーモンドウォーター……二本あるし、一口飲んでみよう。
ペットボトルに口をつけて、その噂の飲料を少しだけ口に含んでみる。
……甘い。でも中途半端な甘さ……アーモンドテイストの飲料を水で割ったかのような微妙な飲み心地、それにアーモンドの香りがだけが不自然に口に広がって……。
微妙だ。でも何故だかグビっといきたくなる。
飲み物は貴重だ、これくらいにしないと。
「あれ……」
ジジっという音とともに蛍光灯の灯りが落ち、それが戻ったときに視界の端に変わった扉のようなものが見えた。
エレベーターだ、たしかLevel 2に続いているはず。
蛍光灯の灯りが落ちた。
私はエレベーターに向かって伸ばしていた足を静かにおろした。
今度は長い。でも戻るはず。
ぞくっと鳥肌がたつ。
隣を何かが横切ったからだ。
かすかに残り香のようなものが鼻をつく。古くなった油のような嫌なにおい。
……まずい。でも今灯りが戻ったらかえって危険。
どうする、地面にしゃがみ込んでゆっくりここから離れるべき?
でも何も見えない。何も──
ジッという音ともに、灯りが一瞬戻る。
すぐに消えて、再びジジっと灯りが一瞬だけ。
そのわずかな瞬間に私は確かに見た。
黒いモヤのような人影が、踊るように身体をくねらせながらこちらから遠ざかっていくところを。
再び灯りがついたときにはその影がどこかへ消えてしまっていた。
私はしばらく何もないバックヤードの通路を眺めていて、ようやく我にかえってからエレベーターに乗り込んだ。
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最高だわ。
バックルーム大好きなのでこの小説はかなりのお気に入りです。
ちなみにレベル19はもうできたのでぜひ見てみてください。
1話から読みました。
所々画像を挟んだり、そのレベルについて、脱出方法も書いてくれてとても分かりやすかったです。
思い立ったらでもいいので続きを書いてくれると嬉しいです。