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1章
Level 1: "The Habitable Zone" (生存可能領域)
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子供の頃……と言って今も未成年ではあるけれど、昔母に連れられていったデパートで迷子になったことがある。
洋服を売っていたフロアで母が買い物をしているときについ退屈を感じて、ふと見た先に扉があった。
従業員用のバックヤードへの入り口だったのだけど、当時の私はそれに好奇心をそそられた。
従業員が閉め忘れたのだろう、半分ほど開いたそのドアの隙間から私は入り込み、その先にあった地下への階段を胸を高鳴らせながら降りていった。
そうやって行き着いた先は、巨大なバックヤードだった。
デパートの綺麗で華やかな印象とは真逆な、コンクリートが剥き出しで、床には水溜りができていて、レストラン街から回収されたのだろう生ゴミの臭いの漂うその地下空間にたどり着いたときは、本当に興奮したものだ。
私が今足を踏み入れたこの階層はまさにそれ、デパートの地下バックヤードだ。
-----
Level 1: "The Habitable Zone" (生存可能領域)
理解度 90%
危険度 1/5
#概要
Level 1 は The Backrooms における 1 番目の階層である。
Level 1 は、倉庫のような構造を持ち、壁と床はコンクリートで出来ており、所々で鉄筋が剥き出しになっており、様々な箇所に蛍光灯が設置されている空間である。発生源が分からない霧が低く立ち込めており、これらは時々凝縮して結露して床の一定しない部分に水たまりを形成している。構造がランダムに変化することはなく、通常のユークリッド幾何学に従うようである。また、 Level 0 とは違い、一つ一つの構造は、より多様で広大である。さらに、完全な部屋や階段やエレベーターや廊下などを観察することが出来る。
Level 1 の中では、物資が入った箱がランダムに消えたり現れたりする。その中には、多くの場合、重要な物資(食料、アーモンドウォーター、電池、防水シート、武器、衣類、医薬品)と、無意味なもの(車の部品の詰め合わせ、クレヨンの箱、使用済みの注射器、部分的に焼けた紙、生きているマウス、未知の物質が注入されて硬直状態になっているマウス、靴紐、小銭、人間の髪の束)が同時に入っている。その内容のランダム性から、これらの箱を開封する際には注意が必要である。
Level 1 の照明は、ちらつくことがあり、時には、数分から数時間の間、消えることがある。このような時には、敵対的な生物(影のようなもの)が不意に現れたり、物資が不可解に消失したりすることが知られている。このような敵対的な生物は、集団を形成することはほとんどなく、光や人の集まりなどを避ける傾向がある。このため、常に独自の光源を携帯し、あなたが失いたくないものは全て身につけながら眠った方が良い。
Level 1 の壁には由来や意味などが判別できない粗雑な絵や図面などが書かれている。これらの絵は視界にない時や照明が消えている時などに変化することが知られている。
Level 1 の霧や水たまりは純水であるように思われ、その人体への影響は確認されていない。緊急時には水たまりをすすることで水分補給を行うことが可能である。
-----
……よかった。私は目の前に広がるバックヤード風の空間を見て少しだけほっとした。
どうやらあの化け物も階層をまたいでは追ってこないようだ。これも事前の情報通り。
何より安心したのは、ここは間違いなくLevel 1だということだ。
もし通常ルートではなくLevel 1 ηの方に移動していたら大変だっただろう。
ηルートは通常ルートよりも難易度が高い傾向があり、一般的に現実世界への出口があると言われているLevel 3999のゲームセンターに通じるルートがあるかどうかも不明なのだ。
できることなら通常ルートを通り続けてLevel 3999を目指したい。
もちろん、アユミを見つけ出すことが第一だから、ルートの選択はあくまで”アユミであればこう行動するはず”という判断基準で選んでいく。
その結果ηルートの階層にアユミが行った可能性が高いと判断すれば、挑まざるをえないだろう。
大丈夫。wikiがあればそれでも活路は見つけられるはず。
さて、このLevel 1 はwikiによれば危険度は1/5。つまり危険がまったく存在しない0/5を除いて五段階で最も低いレベルとなっている。
裏を返せば完全に安心して探索はできないということでもあるが、このLevel 1における危険とは、不意に訪れる”停電状態”の時に現れるらしい。
敵対的な実体──つまりLevel 0で遭遇したようなエンティティと呼ばれる怪物が停電状態のときに出現する可能性があるとされている。
逆に言えばそれ以外のときはさほど警戒せずに探索を進めることができる。
アユミがここにまだいる可能性をじっくりと探ることができる……あるいは本当にアユミがこの世界にやってきているのか、それが確かだと言える物や痕跡でも見つけられれば私の心の中にまだ隠れている疑念を一つはらすことができる。
アユミが目の前で失踪したありえない光景を見た私は、その原因を求めた。
しかし理性で浮かび上がるあらゆる現象もその原因と結びつくことはなく、私はフィクションであるはずのthe Backroomsを原因と考えるようになった。
そこに、私自身が、おかしくなってしまっているのかもしれないという気持ちが拭いきれないでいたのだ。
精神的に追い詰められていたのは間違いない。だから、今ここでこうしていることすら妄想や幻覚なのではないかと思うとおそろしくなる。
だからこれが現実で、アユミはたしかにここにいて私の助けを必要としているのだという確たる証拠を、私は心の底で望んでいたのだ。
まずはこのLevel 1をじっくり探索しよう。
そして、現在判明しているLevel 1の出口、つまり次の階層への入り口はこのようなものだ。
#出口
1,Level 1 で特殊な手順を行うと、 The Hub に移動する。
2,Level 1 の内部でコンクリート製の階段を昇ると、 Level 0 に移動する。
3,Level 1 の内部で階段やエレベーターなどを利用すると、 Level 2 に移動する。
4,Level 1 の壁に空いた穴に入ると、 Level 19 に移動する。
The Hubとはthe Backroomsにいくつか存在している特殊な階層の一つで、非常に多くの階層へ移動できる可能性があるフロアだ。
トンネルのような空間で両脇に無数の扉があるとされており、扉に書かれた数字のレベルに移動することができるとされている。
the Backroomsを熟知した人物が訪れたならとても有効に活用できそうな反面、そうでない人物が訪れたとしたらうかつな移動によって恐ろしい結果を生み出しかねないフロアだった。
しかしこの、
1,Level 1 で特殊な手順を行うと、 The Hub に移動する。
特殊な条件というのが私にはわからない。偶然でなければ発見できない類のものなのだろう。
アユミがこのルートを辿った可能性は低い。
階段を昇るとLevel 0に移動し、階段を降りるかエレベータに乗るとLevel 2 に移動するようだ。
壁に穴が空いていてそこを通った場合Level 19に移動するとされているが、このLevel 19に関する情報はwikiにはまだなく、リスクが高い。
臆病なアユミならば危険そうな場所は避けるはず。
やはり階段かエレベータを発見してLevel 2 を目指すのが妥当だろう。
その前にこのフロアを探索してアユミがいないか確かめ、できる限り物資を調達していきたい。
wikiの情報通りならLevel 1は物資が調達できる貴重な階層の一つだ。
食糧、水……多くの場合アーモンドウォーターと呼ばれるthe Backroomsで頻繁に発見されるという甘い水とや武器なども見つかるという。
この先の階層を攻略することを考えて、なるべくLevel 1で準備を整えてしまいたかった。
洋服を売っていたフロアで母が買い物をしているときについ退屈を感じて、ふと見た先に扉があった。
従業員用のバックヤードへの入り口だったのだけど、当時の私はそれに好奇心をそそられた。
従業員が閉め忘れたのだろう、半分ほど開いたそのドアの隙間から私は入り込み、その先にあった地下への階段を胸を高鳴らせながら降りていった。
そうやって行き着いた先は、巨大なバックヤードだった。
デパートの綺麗で華やかな印象とは真逆な、コンクリートが剥き出しで、床には水溜りができていて、レストラン街から回収されたのだろう生ゴミの臭いの漂うその地下空間にたどり着いたときは、本当に興奮したものだ。
私が今足を踏み入れたこの階層はまさにそれ、デパートの地下バックヤードだ。
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Level 1: "The Habitable Zone" (生存可能領域)
理解度 90%
危険度 1/5
#概要
Level 1 は The Backrooms における 1 番目の階層である。
Level 1 は、倉庫のような構造を持ち、壁と床はコンクリートで出来ており、所々で鉄筋が剥き出しになっており、様々な箇所に蛍光灯が設置されている空間である。発生源が分からない霧が低く立ち込めており、これらは時々凝縮して結露して床の一定しない部分に水たまりを形成している。構造がランダムに変化することはなく、通常のユークリッド幾何学に従うようである。また、 Level 0 とは違い、一つ一つの構造は、より多様で広大である。さらに、完全な部屋や階段やエレベーターや廊下などを観察することが出来る。
Level 1 の中では、物資が入った箱がランダムに消えたり現れたりする。その中には、多くの場合、重要な物資(食料、アーモンドウォーター、電池、防水シート、武器、衣類、医薬品)と、無意味なもの(車の部品の詰め合わせ、クレヨンの箱、使用済みの注射器、部分的に焼けた紙、生きているマウス、未知の物質が注入されて硬直状態になっているマウス、靴紐、小銭、人間の髪の束)が同時に入っている。その内容のランダム性から、これらの箱を開封する際には注意が必要である。
Level 1 の照明は、ちらつくことがあり、時には、数分から数時間の間、消えることがある。このような時には、敵対的な生物(影のようなもの)が不意に現れたり、物資が不可解に消失したりすることが知られている。このような敵対的な生物は、集団を形成することはほとんどなく、光や人の集まりなどを避ける傾向がある。このため、常に独自の光源を携帯し、あなたが失いたくないものは全て身につけながら眠った方が良い。
Level 1 の壁には由来や意味などが判別できない粗雑な絵や図面などが書かれている。これらの絵は視界にない時や照明が消えている時などに変化することが知られている。
Level 1 の霧や水たまりは純水であるように思われ、その人体への影響は確認されていない。緊急時には水たまりをすすることで水分補給を行うことが可能である。
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……よかった。私は目の前に広がるバックヤード風の空間を見て少しだけほっとした。
どうやらあの化け物も階層をまたいでは追ってこないようだ。これも事前の情報通り。
何より安心したのは、ここは間違いなくLevel 1だということだ。
もし通常ルートではなくLevel 1 ηの方に移動していたら大変だっただろう。
ηルートは通常ルートよりも難易度が高い傾向があり、一般的に現実世界への出口があると言われているLevel 3999のゲームセンターに通じるルートがあるかどうかも不明なのだ。
できることなら通常ルートを通り続けてLevel 3999を目指したい。
もちろん、アユミを見つけ出すことが第一だから、ルートの選択はあくまで”アユミであればこう行動するはず”という判断基準で選んでいく。
その結果ηルートの階層にアユミが行った可能性が高いと判断すれば、挑まざるをえないだろう。
大丈夫。wikiがあればそれでも活路は見つけられるはず。
さて、このLevel 1 はwikiによれば危険度は1/5。つまり危険がまったく存在しない0/5を除いて五段階で最も低いレベルとなっている。
裏を返せば完全に安心して探索はできないということでもあるが、このLevel 1における危険とは、不意に訪れる”停電状態”の時に現れるらしい。
敵対的な実体──つまりLevel 0で遭遇したようなエンティティと呼ばれる怪物が停電状態のときに出現する可能性があるとされている。
逆に言えばそれ以外のときはさほど警戒せずに探索を進めることができる。
アユミがここにまだいる可能性をじっくりと探ることができる……あるいは本当にアユミがこの世界にやってきているのか、それが確かだと言える物や痕跡でも見つけられれば私の心の中にまだ隠れている疑念を一つはらすことができる。
アユミが目の前で失踪したありえない光景を見た私は、その原因を求めた。
しかし理性で浮かび上がるあらゆる現象もその原因と結びつくことはなく、私はフィクションであるはずのthe Backroomsを原因と考えるようになった。
そこに、私自身が、おかしくなってしまっているのかもしれないという気持ちが拭いきれないでいたのだ。
精神的に追い詰められていたのは間違いない。だから、今ここでこうしていることすら妄想や幻覚なのではないかと思うとおそろしくなる。
だからこれが現実で、アユミはたしかにここにいて私の助けを必要としているのだという確たる証拠を、私は心の底で望んでいたのだ。
まずはこのLevel 1をじっくり探索しよう。
そして、現在判明しているLevel 1の出口、つまり次の階層への入り口はこのようなものだ。
#出口
1,Level 1 で特殊な手順を行うと、 The Hub に移動する。
2,Level 1 の内部でコンクリート製の階段を昇ると、 Level 0 に移動する。
3,Level 1 の内部で階段やエレベーターなどを利用すると、 Level 2 に移動する。
4,Level 1 の壁に空いた穴に入ると、 Level 19 に移動する。
The Hubとはthe Backroomsにいくつか存在している特殊な階層の一つで、非常に多くの階層へ移動できる可能性があるフロアだ。
トンネルのような空間で両脇に無数の扉があるとされており、扉に書かれた数字のレベルに移動することができるとされている。
the Backroomsを熟知した人物が訪れたならとても有効に活用できそうな反面、そうでない人物が訪れたとしたらうかつな移動によって恐ろしい結果を生み出しかねないフロアだった。
しかしこの、
1,Level 1 で特殊な手順を行うと、 The Hub に移動する。
特殊な条件というのが私にはわからない。偶然でなければ発見できない類のものなのだろう。
アユミがこのルートを辿った可能性は低い。
階段を昇るとLevel 0に移動し、階段を降りるかエレベータに乗るとLevel 2 に移動するようだ。
壁に穴が空いていてそこを通った場合Level 19に移動するとされているが、このLevel 19に関する情報はwikiにはまだなく、リスクが高い。
臆病なアユミならば危険そうな場所は避けるはず。
やはり階段かエレベータを発見してLevel 2 を目指すのが妥当だろう。
その前にこのフロアを探索してアユミがいないか確かめ、できる限り物資を調達していきたい。
wikiの情報通りならLevel 1は物資が調達できる貴重な階層の一つだ。
食糧、水……多くの場合アーモンドウォーターと呼ばれるthe Backroomsで頻繁に発見されるという甘い水とや武器なども見つかるという。
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