【何カ所か18禁]女神の伴侶戦記

かんじがしろ

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130内乱の予感

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 モモハラ草原に吹く風は時々粉雪をも含ませて来る。

 粉雪さえも放牧された一角羊には心地よさそうであるが、
足に鎖の付いた鹿島には飛礫(つぶて)のような痛さだけを感じさせる。

 デブとの言葉は、
陸戦隊においてはホルヘへの親しさを込めた愛称であったが、
マティーレにアタックしだした頃から、
マティーレがデブとの愛称を嫌がっているとの噂が広がると、
誰もがデブと呼ばなくなった。

 鹿島の前を歩くデブと呼ばれている男は、
ホルヘのような愛嬌などない。

 男の反抗的な目つきは、
研いだばかりの刃を胸に隠している感じをもさせていた。

 デブと呼ばれている男は、鹿島の観察では脂肪太りでなくて、
かなり鍛え上げた骨格と筋肉質を脂肪で隠していると感じていた。

「疲れた。」
と言って、先頭のデブと呼ばれる男は良く休むが、
その度に監視員からの鞭が飛んでくる。

 鹿島は鞭で打たれたデブと呼ばれる男の襟をつかんで、
連結された鎖の為に仕方ないと思いながら立ち上がらせた。

「いい加減に歩けよ。」
と、鹿島は何十回目かの怒り声を出す。

「俺はこんなに歩いたことなどない。」
「歩くのが嫌なら、何でここに来たのだ。」
「騙された。」

 鹿島は厄介ごとの愚痴を聞くのも嫌だし、
声を出すことで余分なエネルギーを使いたくないので黙り込んだ。

 亜人共和国内では、
最高指導者総督閣下カジマが逮捕されて、
三か月間の犯罪奴隷となったことで大騒ぎである。
 
 鹿島が足に鎖を付けて歩いている頃,
カナリア街では暴動騒ぎになっていた。

「亜人協力国は法治国家だ。情緒法国家ではない。」

 先導しながらアジテーションしているのは、
休暇中のランボーイ連隊長である。

 皆は聖騎士団のいるカナリア街教会詰所前に集まって、
手に色んな侮辱言葉を書き込んだプラカードを持っていた。

 プラカードを持った群衆の怒り表に叫んでいる所に、
出てきたジョシュー知事は、
「みんな落ち着いてくれ!
一部の過激な扇動(せんどう)に乗らないでほしい。」
と、ジョシュー知事は云いながら、ランボーイ連隊長に指さした。

「閣下に対する今回の判決は、
『法を無視して、情緒に重きをなした』判決であると俺も思う。
運営委員会が動かないのであれが、知事会に提案して控訴する。」

「知事会の支援を、受けられる保証はありますか?」
と、ランボーイ連隊長はジョシュー知事に詰め寄った。

「知事会の支援をいただけなければ、
カナリア街単独で司法長官サクラを、
不適格者との理由で解任を求める。」
矢張りジョシュー知事にも、思う事があったようである。

「親父様。申し訳ありませんでした。」
と、ランボーイ連隊長はジョシュー知事に対して片膝をついた。

「過激な扇動は、更に法の枠から飛び出す過激派も現れて、
最悪のテロリストをも産む。気を付けろ!」
と、
ジョシュー知事は、過激な行動に走りやすい正義感の強い、
ランボーイ連隊長にくぎを刺した。

 戦略運営委員会の会議では、
パトラは掴みかからんばかりに、マーガレットに吠えていた。

「最初の話し合いで、お互いに悋気(りんき)しないと約束したでしょう。ましてや、伴侶となった時に、閣下の節度はタガが外れたと、
言い合ったでしょう。」

「裁判中に、悔しさが込み上げて来て、冷静さを失っていました。」

「司法長官サクラの狙いは何?」
「見せしめかといったら、判断は自由だと言いのけた。」

「他にも目的があると?」
「でしょう。」

「テテサ、何か言って。」
「ガイア教会とすれば、法事国家よりも情緒法国家が望ましい。」
「では、今回の判決を受け入れると言うのか!」
と、パトラは怒鳴った。

「だけど今回の判決は、私にはサクラの悪意が感じられる。」
と、テテサは考え込んだ。

「悪意?」
「人気集めか、何かを隠しているのか?」
と、テテサはポツリと言った後、
「先司法長官メイディは、
騎士団での人気と信頼は非常に高かったので、
司法長官サクラの行動はその反動かと思えます。」
と、何か疑念事を否定するかのように話し出した。

 そんな思案中に、戦略運営委員会室のドアがノックされた。

「パトラ副首席行政長官殿、国家財産横領の疑いで逮捕します。」
と、司法長官サクラはパトラに逮捕状を示した。

「何!無礼者め!」
と言って、パトラは立ち上がった。

「内容は?」
「魔物の石を不当な安さで、エルフ薬品商会に渡しています。」
「薬を安く製造するためだ!」

「相場の価格よりも大幅に安すぎます。
それによって、エルフ薬品商会は、莫大な利益を上げています。」

「テテサ教皇!サクラを司法長官から解任しなさい!」
と、パトラは叫んだ。

「私を解任できるのは、聖騎士団の司法委員会だけです。」
と、サクラ司法長官は微笑んだ。

 マーガレットは全ての元銀河連合軍隊員たちを集めた。

「亜人協力国は、大きな危機を迎えてしまったようです。
全ての監視衛星を聖騎士団と司法長官サクラの身辺を探り、
互いの情報収集交換と私への連絡を頼む。」

「隊長の次にパトラまで。
何を考えているのだ!サクラ司法長官という奴は。」
とシーラーが叫ぶと、夫のマークは、

「革命前夜かな?」
とのマークのつぶやきに、みんなが注目した。

「だとすれば、大きな後ろがあるだろう。」
「だとすれば、サクラ司法長官の下にいる、
柳生一族の事も調べないとならないな。」
と、ヤン海軍元帥は暗い顔をした。

「皆は、身近なところからすべてを疑って、調査してくれ。」

「テテサ教皇は、どの様に動くのでしょうか?」
「今の所、中立だとは感じているが、どちらに転ぶかはわからない。」

「メイディも、隊長が監禁されていた時に、
何かを感じていた様子だったので、わかったら報告します。」

「トーマス元帥。パトラが逮捕された事で、
耳長種族から跳ねっ返りが、出ないよう注意してくれ。」
「長老たちと従兄弟達に会ってきます。」

「パトラは人質になっている状態であると、よく説明してくれ。」
「現状では、過激な行動は良くないと説明します。」

 マーガレットは、
傍に鹿島が居ない事の不安を初めて感じていた。

 輸送艦の大ホールには、
マーガレット首席行政長官と各州知事会員が円卓に腰掛けている。

「閣下に対する今回の判決では、とんでもないことが起きた。
亜人協力国は法治国家であり、
決して情緒法国家ではない事を示す必要がある。」
と、ジョシュー知事は怒り表に叫んだ。

「法律の専門家から、何であんな判決が出るのだ。」
「少女の受けた苦痛は、情緒的は理解できるが、
その責任を第三者に罪を被せる事が出来るなら、
政治家はみんな逮捕されるだろう。」

「法律も契約も全てが否定されてしまう。」
と、皆は不満を述べだした。

「司法の独立は大事だが、このような事態になったとき、
阻止する機関は必要です。法律の改革をすぐに始めるべきでしょう。」
と、
キョクトウ知事が発言すると、白石知事が手を挙げた。

「ここには提督閣下もパトラ副首席行政長官もいない現状で、
可能ですか?マーガレット首席行政長官様。」

「決めることは可能でしょうが、法律上、提督閣下の承諾は必要です。」

「現状、阻止する機関は存在しているので、
その解体から進めなければならないでしょうから、
かなりの法律を整理する必要があります。」
と、キョクトウ知事は難しそうな顔をした。

「サクラ司法長官の解任を告訴して裁判を行おう。」
とジョシュー知事は怒鳴った。

「長い期間を必要とします。」
と、マーガレットは俯いた。

「じゃ。両方並行で進めよう。ここで、否決を取ろう。」
「そうだ。並行して進めないと、我らは歴史の笑いものだ。」
と、
ミクタ知事がたちあがると、全員拍手しながらたちあがった。

「法律の改革と、サクラ司法長官は不適格者との理由で、
解任を求める告訴事が決まりましたので、並行して行います。」
と、マーガレットは宣言して閉会とした。

 パトラが逮捕されたのも知らずに、
鹿島は聖騎士司法官預かりの犯罪奴隷として、極寒の森林地帯にいた。

「お~い。倒れるぞう~。」
と、遠くから声が聞こえてくると、周りの立木の枝をむしりながら、倒された倒木が鹿島に迫った。

 倒木だけでなく枝葉の間からも、
倒木用の斧も鹿島に向かって飛んできた。

 鹿島は互の足を鎖で連結されているデブと呼ばれる男を抱えて、
転がりながら何とか災難を逃れた。
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