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126メイディ皇太女とポーラド国
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戦乱渦巻く西大陸方面の国々は少しだけの利潤があるだけで、
昨日の友は今日の敵、敵の敵は味方と、
いつも敵と味方が入れ替わりながら、
結合離反の繰り返しを続けて戦っている。
大きなゲルの中では、第三師団のヒルルマ司令官の前に、
鹿島を中心に近衛師団の各連隊長が居並んでいる。
「最強国と思われるのが、
ポーラド国とバルカ地方の三つの小国侯爵国の先にあるドドンパ国で、常に新しい武器を作り出す国のようです。
次がフレンチ国で、兵の数は西大陸一番です。
ラキン国とオラージュ国はともに多くの植民地を持っているので、
財政は豊かなようです。
強いて言えば、オラージュ国と我らが海軍は戦闘状態です。」
「ラキン国やエゲレス国ではなくて、オラージュ国と戦闘状態?」
と、ランボーイ連隊長が質問した。
「あ~。あれは、巴夫人の勘違いで、
海賊行為をしたのはオラージュ国籍帆船だったようです。」
と、鹿島は補足した。
コーA.Iの調査で、オラージュ国籍帆船は国籍を誤魔化して、
ラキン国とエゲレス国に偽装していた事が既に判明していた。
「では、オラージュ国を攻めるのですか?」
「オラージュ国は西大陸の奥の国なので、最後の方だろう。」
と、ヒルルマ司令官は頭をかきながら答えた。
鹿島は、近衛師団の指揮官達が余りにも地理に疎いことに気が付いて、急遽世界地図の教鞭を取った。
「亜人協力国は世界の殆どを併合したと思っていたら、まだまだなんだ。」
と、ランボーイ連隊長は叫んだ。
「だけど、一番大きな領土だ。」
と、シュワルル連隊長は自慢げに返答した。
「しかしながら、国とは呼べない多くの土地がある。
その開拓は君らへの宿題だ。」
と、鹿島は地図の半分を丸で囲んだ。
「では、そこを開墾した暁には、知事になれるのでしょうか?」
と、生徒の中あたりから声が聞こえた。
「勿論。挑戦してくれ。」
と、鹿島は満面の笑顔で答えた。
教室となった大きなゲルの入り口にメイディが現れて、
「閣下。ポーラド国の特使が見えまして、ビリーと会見中です。
お越し願えませんか。」
と、満面の笑みを浮かべている。
二人は軽機動車輌の荷台に乗って、元王宮内の会見の間へ向かった。
「要件の内容は想像できますか?」
「ポーラド国と私の故郷フィルノル国は、
共にオトロシ国からの侵略を受けていたのですが、
オトロシ国が亜人協力国との戦争を起こし滅んだので、
共に滅亡から救われています。」
「同盟関係か併合化を望んでいるのでしょうか?」
「同盟でしょうが、閣下の力で何とか併合に進められないでしょうか?」
「俺に交渉事は無理だ。」
「補佐します。」
と、メイディは両手の拳を握った。
元王宮内の会見の間では、
ビリーとポーラド国二人の特使は、和気あいあいと雑談していた。
鹿島がメイディを伴い会見の間にはいると、
ビリーはすぐに立ち上がり、
「閣下様、ご足労いただき有難う御座います。」
と、畏まった挨拶をすると、二人の特使も立ち上がり鹿島に頭を下げた。
鹿島は静かにビリーの隣に座ると、
鹿島を挟むように、当然との顔でメイディもお腹を抱えた体制で座った。
「ビリー知事。紹介と訪問理由を教えてくれ。」
と、鹿島は二人の特使を無視するようにビリーに話しかけた。
ビリーはまだ立ったままで、
「二人はポーラド国から来ました。
グヤーシュ公爵特使とピエロギ伯爵です。
要件は同盟と、
オトロシ国に連れ去らわれて、
奴隷となっていたポーラド国の人々を解放していただいたお礼だそうです。」
「我が国王からのお言葉を述べます。
戦勝おめでとうございます。
そしてオトロシ国併合にお祝いの言葉を述べます。
奴隷にされていた領民を解放していただき有難う御座いました。
共に共存共栄を望みます。」
と、言ってグヤーシュ公爵特使は頭を下げて、
ちらりとメイディに目を向けると、
「メイディ皇太女就任おめでとうございます。
これからも友好なお付き合いお願いします。」
と言って、メイディにも頭を下げたのは、
亜人協力国との交渉に協力し欲しいとの事だろう。
「勿論。あなた方の国が何時までも友好国であるならば、
末永く良好でしょう。」
と、メイディが微笑むと、特使の緊張していた顔は安どの表情になった。
「で、我が国が同盟を結ぶとして、我が国の益は?」
「今の時点ではまだ何も。」
と、鹿島とビリーが話し出すと、
再びグヤーシュ公爵特使とピエロギ伯爵は緊張しだした。
「他国との戦争になったならば、補給と援軍を送れます。」
と、グヤーシュ公爵特使は口をはさんだが、鹿島はそれを無視して、
「メイディ。フィルノル国ではポーラド国が無くなると、
不都合があるか?」
「私が女王に就任したらば、
フィルノル国は直ぐに亜人協力国の州となります。
ですので、今後のことは、亜人協力国からの視線でお願いします。」
と、言ってメイディが満面の笑顔になると、
グヤーシュ公爵特使の顔は蒼ざめた。
「フィルノル国は亜人協力国の州になって、、、併合されると?」
顔を蒼ざめているグヤーシュ公爵特使は、メイディの満面笑顔を注視した。
「併合によって、フィルノル国人民の受ける恩恵は、
計り知れないぐらい大きいです。」
「どの様な恩恵を受けられると?」
「食料に困ることがなくなり、フィルノル国の品物が売れるので、
皆が豊かになれます。」
「それは保証されると?」
「保障ではありません。権利です。」
「権利?」
「生きる権利。学ぶ権利。職業選択の自由と平等の権利。」
「職業選択の自由と平等の権利?」
「互いの立場と意見を尊敬し合う事です。」
「貴族の尊厳は?」
「亜人協力国の国是を守るならば、行政官としての立場は残ります。」
と、にこやかなままでメイディは応えている。
「予期せぬメイディ皇太女のお考え、よくわかりました。
わが国でも検討してみます。」
と、言ってグヤーシュ公爵特使は踵(きびす)を変えようと身体をねじったが、メイディは、
「三か月間神降臨街に行って、調査なされた方がよろしいかと思います。」
「出来ますか?」
と、グヤーシュ公爵特使は初めて座り出した。
「閣下。我が国と友好関係国のポーラド国からの、
見学調査を許可してください。」
「メイディ皇太女とビリー知事にすべてを任せる。」
と言って、
同盟の話し合いを拒否する態度を装い、鹿島は会見の間を出ていった。
「後は頭脳明晰なマーガレットと、
たらしパトラたち運営委員会の領域だ。」
と、鹿島は解放感を表すように両手を上げて胸を反らした。
ヒルルマ司令官はバルカ地方の三つの小国侯爵国の併合に向けて各連隊長を送り、
三つの小国侯爵国の農奴を解放すると、
モモハラ草原耕作地に移住者として送り出した。
三つの小国侯爵国は農奴不足の対応に苦慮してしまい、
亜人協力国との併合を受け入れた。
これで、バルカ州からドドンパ国へ向かう亜人国兵の道は開けた。
バルカ州とドドンパ国の国境では、
かなりの場所で市が開かれて、安い亜人協力国の一級品物が並んだ。
すべての市では多数の買い付け商人たちが現れて、
日ごとに混乱しだした。
ヒルルマ司令官は買い付け商人たちを集めて、
「亜人協力国では、
多くの耕作人と職方に若い賃金労働者を必要としています。
勧誘協力者には特別の取引を行うつもりです。」
と、宣言した。
買い付け商人たちの眼色が変わった。
皆はオトロシ国商人たちが特別の取引の恩恵を受けて、
莫大な利益を上げたのを知っていたからであった。
バルカ州とドドンパ国の国境には、
日数経過の倍数に比例するように多くの集団移住者が現れだしてきた
バルカ州の国境には多くの幌馬車隊も次々現れるのは、
買い付け商人たちの先行投資結果だろう。
第二師団と近衛師団は、バルカ州の国境からモモハラ草原鉄道駅まで、毎日トラックによる移民希望者の輸送に没頭させられている。
「おい。まだ弁当は出来てないのか。」
「パンがまだ焼き終わらないのです。」
「夕べのうちに焼かなかったのか。」
「焼いたのですが、無くなっているのです。」
「無くなった?」
ランボーイ連隊長は不思議に思い、
捨て置く事も出来ないので調査することにした。
調査を進めている中で、
子供達がかまどの周りでよく遊んで居るとの事であった。
子供達は近衛兵相手に昼間色んな物を売り、
珍しいものを買ったりしているらしい。
ランボーイ連隊長は子供らが怪しいと思った。
妹太陽はすでに星となって、安らぎの夜は戻っていた。
テントに影が忍び寄ってきたと思ったら、
影はテントの下方にナイフを入れて横にゆっくりと裂いていった。
影は素早く内側に入るとしばらくしてから、
影は音もなくテントから忍び出てきた。
影と思ったのは、黒い衣装を着込んだ小柄な体系の者であった。
歩哨番を避けながらテント群から逃げ出す算段をしている最中に、
小柄な体系の者はいい匂いがしてくるのに気が付いたようで、
逃げ出す算段を忘れたのか明るいテント群に近づいた。
「ランボーイ連隊長殿、まだ作るのですか?」
「お前らだってひもじい思いをしたことがあっただろう。
移住希望者は飲まず食わずで来るのだ。
お前らが今食えることに感謝しているので有れば、一つでも多く作れ。」
と、
はっぱを掛けているのはカナリア街出身のランボーイ連隊長であった。
「ランボーイ連隊長殿も、ひもじい思いを経験したのですか?」
「ある。餓死寸前を経験した。
あの時は街中が病人だらけで、俺の母親も危なかった。
俺たちが生き残れたのはいい領主様であったのと、
亜人協力国のおかげだ。」
「いい領主様ですか?聞いたことがない。」
「領主様は、魔物が振りまく(病気の気)で街のみんなが病気になってしまい、
亜人協力国の治療と庇護を受けるために、亜人協力国へ領地を献上した。
その過程で、領主様は領民に対して、
『テテサ修道女様の教え通りの、亜人協力国であるならば希望は持てる。亜人協力国に領地を売る。対価はみんなの命と生活の保障だ。
併合に理解してほしい。』
と言って、
食料やら万能薬を大量に譲られて、俺の街は亜人協力国に救われた。
ヒット国に攻められた時も一人の犠牲者もなく追い払えた。」
「いい領主様だからこそ、いいめぐり逢いをされたのですね。」
「いい領主様だけでは、みんな死んでいたが、
閣下様の慈悲深さがあったおかげだ。
だから俺は閣下様と元領主様の希望は俺の希望だと思っている。」
「だからこんな厨房の手伝いをなさるのですか?」
「一人でもひもじさから救ってやるのだ。
それが閣下様と元領主様の思いだ。」
黒い衣装を着込んだ小柄な体系の者は、
テントの陰に隠れたまま鼻をすすりあげている。
「あたしにだって、いい両親さえいれば。」
とつぶやいた。
「よし。ご苦労さん。ゆっくり休め。」
と言って、ランボーイ連隊長は皆を送り出すと、
魔法照明器具の明かりを消してテントの一角に隠れた。
厨房担当者が引き上げた後には、
深夜の月も雲に隠れてテント群は夜の帳に包まれた。
厨房テントの周りに、黒い頭が三つ四つと動き出した。
黒い頭の者達は厨房テントに潜り込むと、
小柄な体系の者も同時に反対側から潜りこんだ。
黒い頭の者達はテーブルに置かれた弁当を、持てるだけ持ちながらも、更に他の弁当にも手を伸ばした。
一つの弁当にテーブルの両側から二つの手が掛かった。
黒い頭の者は驚いたのか、引きに負けた為か、
後ろ向きで倒れてしまった。
後ろ向きで倒れてしまった者は、
持っていたすべての弁当箱を放り投げてしまった怒りからか、
「ぎゃ~、何だ!」
と、大声を上げたので、忍び込んだ者たちは逃げ出した。
既に暗視装置を装着していたランボーイ連隊長は、
目の前を逃げる黒い衣装を着込んだ、
小柄な体系の者の手に小銃らしきものを見て、
逃げる足に自分の足を出した。
小柄な体系の者は転んでしまったが、
しかし手にはしっかりと弁当と89式5,56mm小銃が握りしめられている。
「これはどうした。弁当だけだと見逃がせるが、これは見逃せない。」
と言って、小柄な体系の者から89式5,56mm小銃を取り上
昨日の友は今日の敵、敵の敵は味方と、
いつも敵と味方が入れ替わりながら、
結合離反の繰り返しを続けて戦っている。
大きなゲルの中では、第三師団のヒルルマ司令官の前に、
鹿島を中心に近衛師団の各連隊長が居並んでいる。
「最強国と思われるのが、
ポーラド国とバルカ地方の三つの小国侯爵国の先にあるドドンパ国で、常に新しい武器を作り出す国のようです。
次がフレンチ国で、兵の数は西大陸一番です。
ラキン国とオラージュ国はともに多くの植民地を持っているので、
財政は豊かなようです。
強いて言えば、オラージュ国と我らが海軍は戦闘状態です。」
「ラキン国やエゲレス国ではなくて、オラージュ国と戦闘状態?」
と、ランボーイ連隊長が質問した。
「あ~。あれは、巴夫人の勘違いで、
海賊行為をしたのはオラージュ国籍帆船だったようです。」
と、鹿島は補足した。
コーA.Iの調査で、オラージュ国籍帆船は国籍を誤魔化して、
ラキン国とエゲレス国に偽装していた事が既に判明していた。
「では、オラージュ国を攻めるのですか?」
「オラージュ国は西大陸の奥の国なので、最後の方だろう。」
と、ヒルルマ司令官は頭をかきながら答えた。
鹿島は、近衛師団の指揮官達が余りにも地理に疎いことに気が付いて、急遽世界地図の教鞭を取った。
「亜人協力国は世界の殆どを併合したと思っていたら、まだまだなんだ。」
と、ランボーイ連隊長は叫んだ。
「だけど、一番大きな領土だ。」
と、シュワルル連隊長は自慢げに返答した。
「しかしながら、国とは呼べない多くの土地がある。
その開拓は君らへの宿題だ。」
と、鹿島は地図の半分を丸で囲んだ。
「では、そこを開墾した暁には、知事になれるのでしょうか?」
と、生徒の中あたりから声が聞こえた。
「勿論。挑戦してくれ。」
と、鹿島は満面の笑顔で答えた。
教室となった大きなゲルの入り口にメイディが現れて、
「閣下。ポーラド国の特使が見えまして、ビリーと会見中です。
お越し願えませんか。」
と、満面の笑みを浮かべている。
二人は軽機動車輌の荷台に乗って、元王宮内の会見の間へ向かった。
「要件の内容は想像できますか?」
「ポーラド国と私の故郷フィルノル国は、
共にオトロシ国からの侵略を受けていたのですが、
オトロシ国が亜人協力国との戦争を起こし滅んだので、
共に滅亡から救われています。」
「同盟関係か併合化を望んでいるのでしょうか?」
「同盟でしょうが、閣下の力で何とか併合に進められないでしょうか?」
「俺に交渉事は無理だ。」
「補佐します。」
と、メイディは両手の拳を握った。
元王宮内の会見の間では、
ビリーとポーラド国二人の特使は、和気あいあいと雑談していた。
鹿島がメイディを伴い会見の間にはいると、
ビリーはすぐに立ち上がり、
「閣下様、ご足労いただき有難う御座います。」
と、畏まった挨拶をすると、二人の特使も立ち上がり鹿島に頭を下げた。
鹿島は静かにビリーの隣に座ると、
鹿島を挟むように、当然との顔でメイディもお腹を抱えた体制で座った。
「ビリー知事。紹介と訪問理由を教えてくれ。」
と、鹿島は二人の特使を無視するようにビリーに話しかけた。
ビリーはまだ立ったままで、
「二人はポーラド国から来ました。
グヤーシュ公爵特使とピエロギ伯爵です。
要件は同盟と、
オトロシ国に連れ去らわれて、
奴隷となっていたポーラド国の人々を解放していただいたお礼だそうです。」
「我が国王からのお言葉を述べます。
戦勝おめでとうございます。
そしてオトロシ国併合にお祝いの言葉を述べます。
奴隷にされていた領民を解放していただき有難う御座いました。
共に共存共栄を望みます。」
と、言ってグヤーシュ公爵特使は頭を下げて、
ちらりとメイディに目を向けると、
「メイディ皇太女就任おめでとうございます。
これからも友好なお付き合いお願いします。」
と言って、メイディにも頭を下げたのは、
亜人協力国との交渉に協力し欲しいとの事だろう。
「勿論。あなた方の国が何時までも友好国であるならば、
末永く良好でしょう。」
と、メイディが微笑むと、特使の緊張していた顔は安どの表情になった。
「で、我が国が同盟を結ぶとして、我が国の益は?」
「今の時点ではまだ何も。」
と、鹿島とビリーが話し出すと、
再びグヤーシュ公爵特使とピエロギ伯爵は緊張しだした。
「他国との戦争になったならば、補給と援軍を送れます。」
と、グヤーシュ公爵特使は口をはさんだが、鹿島はそれを無視して、
「メイディ。フィルノル国ではポーラド国が無くなると、
不都合があるか?」
「私が女王に就任したらば、
フィルノル国は直ぐに亜人協力国の州となります。
ですので、今後のことは、亜人協力国からの視線でお願いします。」
と、言ってメイディが満面の笑顔になると、
グヤーシュ公爵特使の顔は蒼ざめた。
「フィルノル国は亜人協力国の州になって、、、併合されると?」
顔を蒼ざめているグヤーシュ公爵特使は、メイディの満面笑顔を注視した。
「併合によって、フィルノル国人民の受ける恩恵は、
計り知れないぐらい大きいです。」
「どの様な恩恵を受けられると?」
「食料に困ることがなくなり、フィルノル国の品物が売れるので、
皆が豊かになれます。」
「それは保証されると?」
「保障ではありません。権利です。」
「権利?」
「生きる権利。学ぶ権利。職業選択の自由と平等の権利。」
「職業選択の自由と平等の権利?」
「互いの立場と意見を尊敬し合う事です。」
「貴族の尊厳は?」
「亜人協力国の国是を守るならば、行政官としての立場は残ります。」
と、にこやかなままでメイディは応えている。
「予期せぬメイディ皇太女のお考え、よくわかりました。
わが国でも検討してみます。」
と、言ってグヤーシュ公爵特使は踵(きびす)を変えようと身体をねじったが、メイディは、
「三か月間神降臨街に行って、調査なされた方がよろしいかと思います。」
「出来ますか?」
と、グヤーシュ公爵特使は初めて座り出した。
「閣下。我が国と友好関係国のポーラド国からの、
見学調査を許可してください。」
「メイディ皇太女とビリー知事にすべてを任せる。」
と言って、
同盟の話し合いを拒否する態度を装い、鹿島は会見の間を出ていった。
「後は頭脳明晰なマーガレットと、
たらしパトラたち運営委員会の領域だ。」
と、鹿島は解放感を表すように両手を上げて胸を反らした。
ヒルルマ司令官はバルカ地方の三つの小国侯爵国の併合に向けて各連隊長を送り、
三つの小国侯爵国の農奴を解放すると、
モモハラ草原耕作地に移住者として送り出した。
三つの小国侯爵国は農奴不足の対応に苦慮してしまい、
亜人協力国との併合を受け入れた。
これで、バルカ州からドドンパ国へ向かう亜人国兵の道は開けた。
バルカ州とドドンパ国の国境では、
かなりの場所で市が開かれて、安い亜人協力国の一級品物が並んだ。
すべての市では多数の買い付け商人たちが現れて、
日ごとに混乱しだした。
ヒルルマ司令官は買い付け商人たちを集めて、
「亜人協力国では、
多くの耕作人と職方に若い賃金労働者を必要としています。
勧誘協力者には特別の取引を行うつもりです。」
と、宣言した。
買い付け商人たちの眼色が変わった。
皆はオトロシ国商人たちが特別の取引の恩恵を受けて、
莫大な利益を上げたのを知っていたからであった。
バルカ州とドドンパ国の国境には、
日数経過の倍数に比例するように多くの集団移住者が現れだしてきた
バルカ州の国境には多くの幌馬車隊も次々現れるのは、
買い付け商人たちの先行投資結果だろう。
第二師団と近衛師団は、バルカ州の国境からモモハラ草原鉄道駅まで、毎日トラックによる移民希望者の輸送に没頭させられている。
「おい。まだ弁当は出来てないのか。」
「パンがまだ焼き終わらないのです。」
「夕べのうちに焼かなかったのか。」
「焼いたのですが、無くなっているのです。」
「無くなった?」
ランボーイ連隊長は不思議に思い、
捨て置く事も出来ないので調査することにした。
調査を進めている中で、
子供達がかまどの周りでよく遊んで居るとの事であった。
子供達は近衛兵相手に昼間色んな物を売り、
珍しいものを買ったりしているらしい。
ランボーイ連隊長は子供らが怪しいと思った。
妹太陽はすでに星となって、安らぎの夜は戻っていた。
テントに影が忍び寄ってきたと思ったら、
影はテントの下方にナイフを入れて横にゆっくりと裂いていった。
影は素早く内側に入るとしばらくしてから、
影は音もなくテントから忍び出てきた。
影と思ったのは、黒い衣装を着込んだ小柄な体系の者であった。
歩哨番を避けながらテント群から逃げ出す算段をしている最中に、
小柄な体系の者はいい匂いがしてくるのに気が付いたようで、
逃げ出す算段を忘れたのか明るいテント群に近づいた。
「ランボーイ連隊長殿、まだ作るのですか?」
「お前らだってひもじい思いをしたことがあっただろう。
移住希望者は飲まず食わずで来るのだ。
お前らが今食えることに感謝しているので有れば、一つでも多く作れ。」
と、
はっぱを掛けているのはカナリア街出身のランボーイ連隊長であった。
「ランボーイ連隊長殿も、ひもじい思いを経験したのですか?」
「ある。餓死寸前を経験した。
あの時は街中が病人だらけで、俺の母親も危なかった。
俺たちが生き残れたのはいい領主様であったのと、
亜人協力国のおかげだ。」
「いい領主様ですか?聞いたことがない。」
「領主様は、魔物が振りまく(病気の気)で街のみんなが病気になってしまい、
亜人協力国の治療と庇護を受けるために、亜人協力国へ領地を献上した。
その過程で、領主様は領民に対して、
『テテサ修道女様の教え通りの、亜人協力国であるならば希望は持てる。亜人協力国に領地を売る。対価はみんなの命と生活の保障だ。
併合に理解してほしい。』
と言って、
食料やら万能薬を大量に譲られて、俺の街は亜人協力国に救われた。
ヒット国に攻められた時も一人の犠牲者もなく追い払えた。」
「いい領主様だからこそ、いいめぐり逢いをされたのですね。」
「いい領主様だけでは、みんな死んでいたが、
閣下様の慈悲深さがあったおかげだ。
だから俺は閣下様と元領主様の希望は俺の希望だと思っている。」
「だからこんな厨房の手伝いをなさるのですか?」
「一人でもひもじさから救ってやるのだ。
それが閣下様と元領主様の思いだ。」
黒い衣装を着込んだ小柄な体系の者は、
テントの陰に隠れたまま鼻をすすりあげている。
「あたしにだって、いい両親さえいれば。」
とつぶやいた。
「よし。ご苦労さん。ゆっくり休め。」
と言って、ランボーイ連隊長は皆を送り出すと、
魔法照明器具の明かりを消してテントの一角に隠れた。
厨房担当者が引き上げた後には、
深夜の月も雲に隠れてテント群は夜の帳に包まれた。
厨房テントの周りに、黒い頭が三つ四つと動き出した。
黒い頭の者達は厨房テントに潜り込むと、
小柄な体系の者も同時に反対側から潜りこんだ。
黒い頭の者達はテーブルに置かれた弁当を、持てるだけ持ちながらも、更に他の弁当にも手を伸ばした。
一つの弁当にテーブルの両側から二つの手が掛かった。
黒い頭の者は驚いたのか、引きに負けた為か、
後ろ向きで倒れてしまった。
後ろ向きで倒れてしまった者は、
持っていたすべての弁当箱を放り投げてしまった怒りからか、
「ぎゃ~、何だ!」
と、大声を上げたので、忍び込んだ者たちは逃げ出した。
既に暗視装置を装着していたランボーイ連隊長は、
目の前を逃げる黒い衣装を着込んだ、
小柄な体系の者の手に小銃らしきものを見て、
逃げる足に自分の足を出した。
小柄な体系の者は転んでしまったが、
しかし手にはしっかりと弁当と89式5,56mm小銃が握りしめられている。
「これはどうした。弁当だけだと見逃がせるが、これは見逃せない。」
と言って、小柄な体系の者から89式5,56mm小銃を取り上
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赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
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