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109 新たなる耳長種族

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 闇の樹海を切り開いた先の、
広大な草原地帯は、亜人協力国の三倍の広さである。

 草原地帯の西の末端部まで入った第二師団からの報告が入り、
末端部さきの地平線よりはるか遠くの山々の裾野の間の先に、
耕作地が広がっている近くまで軌道敷は終わったので、
そこを最終地点と決めたようである。

 山と山のすそ野を閉める様に、砦の建設に取り掛かっていた。

 コーA.Iからの報告では、
草原地帯の北の末端部の森林地帯から極寒地帯にかけて、
コーA.Iが推測できる範囲では、
耳長種族の人口は一億を超えるらしいとの事である。

 一元的な政治的にはまとまりは無いが、
隣家族から部族単位での共に争いはなく、種族間の争いも無いようで、
種族同士は友好関係の付き合いらしいとの事である。

 第二師団司令官ヒルルマにコーA.Iからの報告が入り、
耳長種族の家族が武装した者達に襲われているとの連絡を受けた。

 ヒルルマは急遽、機動車輌と騎馬隊を差し向けると、
五十人の武装集団を捕縛して、
耳長種族の八人を保護したとの連絡が入ったが、
耳長種族との言葉が通じないとのことである。

 機動車輌に乗合せていたのが、カナリア街の若き中隊長であった。

 鹿島は、物は試しと、カナリア街の若き中隊長に、
耳長種族の年長リーダーにマイク付きイヤホンを取り付けてもらい、
監視衛星を通じて会話を試みてみた。

 イヤホンから聴こえてくる耳長種族同士の会話は、
鹿島にはなぜかやはり耳長種族の年長リーダーの言葉が理解できた。

「こちらは、亜人協力国のシン.カジマと申します。
私の言葉は通じますか?」
しばらく返事がないので、
無理な行動であったかとの思いがかすめたときに、
悲鳴にも似た高い声で返事が来た。

「聞こえています。貴方様は何処にいらして居るのでしょうか?
声は聞こえますが、姿を確認出来ません。」
「あなたの頭上に居ます。こちらでは貴方を確認できますが、
しばらくこのまま聞きたいことがあるので、会話を続けてほしいのです。」
「わかりました。何なりと。申し遅れましたが、
私はエト.クナシと申します。」

「貴方達が襲われた理由は、分かりますか?」
「腹をすかした家畜を草原に連れ出すと、
奴隷狩り人種はいつも隠れていて、襲うのでございます。
多くの耳長種族が奴隷として、
人種のオトロシ国に連れていかれてしまうのです。」

「草原はオトロシ国の領土ですか?」
「草原は昔から我ら耳長種族の放牧地でしたが、
オトロシ国の勢力がノモン山脈のすそ野まで広がってきて、
草原の民我らを捕らえる為に奴隷狩りが始まり、
今では、我ら耳長種族は安全な森の中に隠れているのですが、
家畜のえさが足りなくなると乳の出が悪くなるので、
仕方なしに草原に出なければならないのです。」

 次はマイク付きイヤホンを武装集団のリーダーにつける前から、
怒鳴る男の声がマイク越しに響いてきた。

「お前らは何だ!ただで済まさないからな!
俺はオトロシ国、真ガイア教会の調査官であるぞ!
真ガイア教会に逆らうと天罰が下るのだ!」

 イヤホンからはかなりの物騒な言葉が響いている。

 武装集団のリーダーにマイク付きイヤホンを取り付けてもらうと、

「ガイア教会の調査官たる者が、
なにゆえに奴隷狩りなどに手を染めているのだ?」
「エルフ種族は異端者であり、真ガイア教会に属しないからである。」

「真ガイア教会とガイア教会とは違うのか?」
「まことの教えが、真ガイア教会である。」

「ガイア教会のテテサ教皇さまの教えと違うのですか?」
「当たり前だ!テテサなどは、異端者だ。」

 鹿島は異端者との言葉に、
此れはテテサ教皇に伺わねばならない事であると思えた。

 鹿島はカナリア街の若き中隊長に、
再度、耳長種族の年長リーダーにマイク付きイヤホンを取り付けてもらい、
「エト.クナシ殿、お願いがございます。かなりの日数が掛かりますが、我が国の都に来ていただくことは出来ないでしょうか?」
「理由をお聞かせください。」

「貴方耳長種族全員が、再び草原で暮らすための相談です。」
「危険な草原で生活しろと。」

「安全を保障できるので、それを理解していただくためにも、
我が国のことをよく知ってもらいたいのです。
我等が国では、
耳長種族や猫亜人に人種共に協力しながら国を興しました。
亜人協力国の國人は共に個人の尊厳をもって生活しています。
あなた達も個人の尊厳を理解していただきたいのです。」

「われらの一族長老である叔父上も、同伴して宜しいでしょうか?」

「人数は多い方が亜人協力国をその目で見て感じていただけるでしょう。
あなた達も多くの情報を持って帰れるでしょう。」
「家族一同助けていただいたので、
シン様のおっしゃる事には従いましょう。」

 鹿島はカナリア街の若き中隊長に、
「エト.クナシ殿と長老殿を我が国に招待するので、
必要な事を段取りしてほしい。
更に追加の人が出たならば、その方たちも歓迎します。
真ガイア教会の調査官等も、全員捕縛して送って欲しい。」
と伝えて、
更に第二師団ヒルルマ司令官に連絡を取り、
「耳長種族の家族を助けた中隊長殿には、
此方から勝手に命令を伝えたので、了解願いたい。
更に草原にはまだ多くの奴隷狩りの連中が居る様子なので、
全てを捕縛し捕らえて神降臨街に送ってほしい。
その過程で相手に犠牲が出たとしても構わない。」

「間も無く試験運転のディーゼルエンジン機関車が着くので、
帰りの試運転に乗って貰います。」
「よろしく頼みます。」

 コーA.Iはマティーレの弟アーマートと妹マクリーとの最初の会話で、この惑星の言葉を学習した方法を再び行う事になった。

 鹿島はエト.クナシ殿と真ガイア教会の調査官とのやり取りを、
運営委員会にすべて細かく説明した。

 鹿島は四人運営委員会とトーマス元帥を加えていた会談で、
真ガイア教会の本質とガイア教会からの離脱した理由の原因を、
テテサ教皇から説明された。

 真ガイア教会の本質と離脱理由は、
真ガイア教会の司祭長は使徒継承を自認して、
他の聖者を否定しているのかガイア教会教皇を認めていないようである。

 真ガイア教会信者以外の者には異端と罵り、
迫害をする過激派のようである。

 又、テテサ教皇は、奇跡を起こす必要がありそうだと、
パトラとマーガレットはテテサ教皇に微笑んだ。

 鹿島とすれば、
再びテテサ教皇の美声が聞けると期待している様子である。

 パトラの指示で若い娘らは、
エト.クナシ殿と二人の長老殿等三人の耳長種族を、
駅で迎えたのちに輸送艦の客室に迎えた。

 鹿島とトーマス元帥に運営委員会四人は、
三人の耳長種族が待つ迎賓室に向かった。

 迎賓室にいる三人にまず挨拶したのがパトラであった。

 パトラの言葉は彼らと同じ言葉であるのは、
彼らが話す言葉は耳長種族原語だという。

「闇の樹海三支族を束ねるハン.パトラです。
亜人協力国での立場は副首席行政長官です。
我らが同胞モモハラ草原の民族よ。
遠路はるばるよく来ていただいた。感謝します。」
と言って、パトラは三人に抱き着いてスキンシップをしだした。

「モモハラ草原の民族はどの支族も故郷を追われてしまい、
今ではハンを名乗れる者はいません。
闇の樹海三支族がうらやましいです。」
と、一人の長老が寂しくうつむいた。

「故郷は取り返せます。合点承知の精神でわれらが必ず取り返します。」
と、パトラはこぶしを上げた。

「我らは森では戦えるが、草原では人種との戦力差で負けてしまいます。」
「われらはどこで戦っても勝ちます。
魔物さえも今では、三日に一頭を倒しています。」

「魔物を三日に一頭?まさか!」
「倒した魔物を見学しますか?解体場では毎日魔物の解体は行われています。魔石もかなり保管しています。」

「魔物を三日に一頭倒せるのであれば?
世界中を制するなど容易いでしょう。」
「容易いです。」

 鹿島は三人の会話から推測すると、
魔物を三日に一頭を倒している事を信用してない様子である。

 パトラとの互にかみ合ってはいない様子の会話に、
「パトラ副首席行政長官。外に出てみませんか?」
とパトラに声掛けした。

 エト.クナシ殿と二人の長老殿等三人を、
魔物の表皮と鱗や尾刃の加工場に案内することにした。

 山と積まれた材料の加工場で、長老殿等三人は絶句して、
「信じられないほどの、魔物の残骸を確認できました。」
「全くその通りだ!信じました。」
「耳長種族がモモハラ草原に帰ることができるのであれば、
ハン.パトラ様をモモハラ草原の民族はどの支族も、
皇帝ハンと認めるでしょう。」

 三人は表皮が剝離された魔物を見て興奮状態になっている。

 パトラはこの時とばかりに、更に追い打ちをかけた。

「皇帝ハンの称号はいただくが、皆はガイア様に誓って、
私の伴侶様シン.カジマ閣下に忠誠を誓い、
亜人協力国の為に命をささげてほしい。」
「勿論。その事では全てガイア様に誓います。」

 鹿島は、草原の耳長種族を支配下に加える説得は、
かなり難航するだろうと思っていたが、
エト.クナシ殿と二人の長老殿等三人を、
短時間で説得できたパトラの不思議なたぶらかしに再び驚かされた。

 長老殿等三人はもう一泊して、
パトラとトーマス元帥に独立師団ハービーハン司令官は、
長老殿等三人とモモハラ草原の民族の取りまとめを相談する事とした。

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