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92寄り道

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 残った火元を丁寧に水魔法で消してから、
ハルチャンの叔母が居る村を目指した。
 
 サスケは休むことも変わることも断り、
一心不乱にエミューを疾走させている。

「このエミュー達は、軍用エミューですか?
こんなに持続力強いエミューは、初めて扱いました。」
「エルフ種族がパンパで育てたエミューは、
高値で取引されているようです。」
「矢張り、評判通りのエルフ.エミューですね。」
と言って、街道から逸れて脇道に入った。

 雨の降る中、暗い雲がさらに黒影増しだすが、
サスケは荷車を林の中に進めだした。

 サスケは器用に立木を避けながら藪の影に入ると、
荷車からエミューを解放した後に、
鼻先を結んだ綱の先を立木に結んだ。

 ポールが操作していた後ろ荷車はトーマスに代わっていたが、
又もやサスケはトーマスから操作を取り上げると、
器用にエミューを操り、
二台の荷車の後ろ同士を五メートル程離して向かい合わせた後に、
その間に天幕を張った。

 鹿島達は周りの石を集め始めて、
天幕から少し離れた所にかまどを作り、
手首より細い濡れてしまっている枯れ木を集めてきた。

 かまどに目一杯の枯れ木を縦横に並べたやぐらを作り、
着火器と化した愛刀の先から炎を放射した。

 鹿島は別に愛刀を使わなくても、手のひらを広げて放射できるが、
炎が制御不能状態になるかもと思って、愛刀を使っているらしい。

 鍋に直接炎を放射すると、鍋は変形してしまうので、
仕方ないが枯れ木を使わざるを得ない。

 原因は制御が下手だとパトラに言われていた。

 放射を続けたかいがあって、煙が少なくなりだしたところで、
鍋をかまどの上に置き、水魔法で水を目一杯にさせた。

 鍋が沸騰しだした頃、
コーA.Iから魔獣特有の魔石から出るシグナルを感知したようで、
生命体警戒警報が知らされたが、数は一体であるが雨と木々の為に、
個体種類の分析は出来ないとの事である。

 トーマスは荷台から自分愛用のレーザー銃を取り出し脇に抱え込んで、
魔獣のいる方を注視しているが、
ポールはレーザー銃を背負っているにもかかわらず、
双子の修道女の手を借りて、
素知らぬ素振りで昼間の人気のあったスープ作りに夢中である。

 魔獣特有のシグナルがある生命体は、
雨のためか鹿島達に気付く事無く遠ざかった。

 ポールの作るスープは、矢張り子供達には人気であったが、
今回は鹿島達の分も辛うじて残してくれた。

 薄切り焼肉は冷たくて硬くなっている為か、
矢張り子供達には最初程の人気はなかった。

 陽が落ちて辺りが真っ暗の中、
サスケが運行操作席に座り鹿島はその隣に座った。

 荷台にはハルチャンと双子の修道女トートーだけが同伴して、
次の狩りまでには消費しきれないだろうと思い、
切り分けたほとんどの肉を二つだけ残してハルチャンの叔母さんへの手土産に積み込んだ。

 出発前にサスケには、暗視ゴーグルの渡し使い方を説明すると、
驚愕と感動を何度も交互に表していた。

サスケはさらに荷車の上部に取り付けてある、
方向定サーチライトの明るさに感動していた。

 雨の中サスケは、方向定サーチライトの明るさの為に、
暗視ゴーグルが邪魔なのか目から離して額にずり上げている。

 村に入ってハルチャンにダブダブの防水マントを着せると、
フードをかぶせてから鹿島の膝に乗せて、叔母さんの家を探させた。

 村の中ほどまで入ると、ハルチャンは叔母の家を指さしたところで、
鹿島は方向定サーチライトを消した。

 修道女トートーは渡しておいた手のひらサイズのライトをもって、
防水用雨具無しで荷台から降りてくると、
土砂降りの中をハルチャンの手を繋ぎながら、
叔母の家に向かいドアをノックした。

「夜分の訪問すみません。エンドリー街教会の者です。
入ってもよろしいですか?」
と、修道女トートーは声掛けた。

 慌てているようなドアの開き方をした男は、
トートーとフードをかぶったハルチャンに驚きながら、

「こんな夜更けの雨降りの中に、何用で?」
 と男が声掛けすると、
ハルチャンは防水マントの裾を持ち上げて、
男の横を通り抜けると、真っ暗な家の中に飛び込んでいった。

「叔母チャン!ハルです。」
 と家の中から叫ぶ声が聞こえた。
 
 男は周りを警戒すると、トートーの手を引き急いでドアを閉めた。

 鹿島は暗視ゴーグルを付けているサスケを荷車に残して、
叔母の家入り口に立ち、中の様子と周りの警戒をした。

「無事だったの、ナッツチャンは?」
「村の子供達と一緒に、林の中に隠れています。みんなは無事です。
私達は神降臨街の教会孤児院に行きます。
お母さんとお父さんはどうなったのでしょうか?」

「村のみんなは、エンドリー街に居る領主様に連れられて行き、
殆どが農奴として売られてしまいました。
若い人は奴隷兵士だそうです。
あなた達も奴隷になるとこでした。良かった!」

 中からはすすり泣きがして、
「有難うございました。知りたかった事は知れました。
私達はハルチャンたちを連れて、神降臨街教会に行きます。
手土産に肉を持ってきました。村で分けて下さい。
叔父さん肉を降ろすのを手伝って下さい。」
と言って、トートーは足元を照らしてドアから出てきた。

 トートーとハルチャンの後ろから、
男と子供二人にその母親らしき女もついてきている。

 鹿島は荷車に走り寄り、
方向定サーチライトのカバーを下げて周りを明るくした。

 案の定、男と子供二人にその母親らしき女等は驚いて目を覆い、
立ち止まってしまった。

「叔母さん、叔父さん。ここに来て!」
と、荷台に乗ったハルチャンは手で招いた。

「ハルチャン!この明るさは魔法?」
「はい。魔法使い達も一緒です。」
 と言って、
荷台の肉を奥の方からに後ろに並べだした。
「こんなに!リオンとラオンは隣に知らせ回れ!」
 と声掛けすると、男の子らは走り出した。

 続々と、手に松明を持った村人たちが集まりだしてきた。

「すごい量の肉だが、どの様に切り分ける?」
「半分では多いし、みんなの家の分はないだろう。」
 と村人は口々に相談し出した。

「いくつ家族ですか?」
 と、トートーが聞くと、
「五十四家族です。」

 十キロの肉の塊を数えたトートーは、
「あら!ピッタリ。」と言って、
鹿島からチェーンソーナイフを取り上げると、
十八の肉塊を三つに分けていく。
数名の男達が集まった中に、ハルチャンの叔母も加わり、
何かを協議しだした。

 粗方(あらかた)配り終えた頃、協議も終わったようで、
トートーの周りに集まりはじめると、ハルチャンの叔母が、

「この雨の中、子供達を二台だけの荷車で寝かすのはかわいそうです。
私の家と両隣の家を開放します。お使い下さい。」
と言って来た。

 トートーは鹿島のそばに来て、
「どうしましょうか?お言葉に甘えたいのですが?」
と言ってきたので、問題はないと判断して鹿島は了解した。

 トートーとハルチャンを叔母の家に残し、
鹿島達はトーマス達の居る林に向かい、
林にいる子供達を荷車に乗せると、
再びハルちゃんの叔母のいる村に引き返した。

 子供達と双子の修道女はそれぞれに毛布と寝袋を持って、
割り振られた家に入っていった。

 鹿島達とサスケは荷台に寝転んだ。

 朝、雨は上がり、薄暗い影を向けている林の天辺辺りを、
緑色に照らしている朝陽を確認しながら、鹿島は蛇口の役目を果たして、荷車に残っていた肉の塊を焼いてもらい、
塩の入ってない野菜だけの、スープをもらいながらそれらを朝食にした。

 宿泊用具を粗方整理しだしたころ、コーA.Iからの連絡が入り、
鹿島達が街道から逸れたコースを同じように進んでくる、
エミューに乗った武装した二十一名の兵集団が向かって来ているとの連絡が入った。

 サスケにそのことを伝えると、
「街道からの脇道はこの村で行き止まりなので、
間違いなくこの村に向かってきています。」

「では、この村に迷惑をかけるといけないので、早く出ましょう。」
「急ぎましょう。」
と口々に双子はせかすが、鹿島は傍にいた村人に、

「俺達は水と食料を買いに来たが、売らなかったと言ってほしい。」
 と頼んで、
みんなを荷車に乗せて、干ばつで荒れた耕作地の中の一本道を、
林に向かうが間に合わなさそうである。

 昨日のどしゃ降りは噓のように、
陽は鹿島達を明るく導いてはくれているが、
向かってくる邪悪な者らにも平等に照らしていた。
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