【何カ所か18禁]女神の伴侶戦記

かんじがしろ

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83 鹿島の苦悩

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 陽は完全に落ちて櫓跡のかまどには、
新たな薪が投げ込まれて明かり代わりとなっている。

 ポールの歩哨番であるがヤンと変わったようで、
ポールはテントの中でゆっくりと鱗甲冑を身につけだした。

 そんなポールをトーマスは、何か思う事が有るのかニヤニヤしながら、

「ポール参謀。マルティーン司令官の娘さんは、
神降臨街医術者養成大学の受講を希望していたようですが、
どうなりましたか?」

「マルティーン司令官殿は、
マリン殿に亜人協力国の文官か秘書官になるように勧めていたようですが、マリン殿は神降臨街医術者養成大学を希望して入学出来ました。
今は神降臨街医術者養成大学に通っている様子です。」

「マリン殿は気立ての良い子だと、マルティーン司令官は自慢していたが、
ポール参謀はどう思いますか?」
「マリン殿はまだ十五歳らしいので、
私のストライクゾーンからかなり離れています。
それに、マリン殿は軍人を嫌っています。」

「軍人を嫌っている?」
「マリン殿の母親は、マルティーン司令官がいつも戦場に赴いている間は、
いつも不安げな姿をしているのを見ていたので、
軍人との結婚はしたくないような感じです。」

 ポール参謀は銀河連合当時に、元恋人は陸戦隊の生還率三割なので、
ポールが戦場に赴くのを嫌って、元恋人に交際を断られた経験があるだけに、
自分が軍人であるので、女性は軍人を嫌うとのトラウマがあるようだ。
故に、女性との交際は自制している様子にも見受けられる。

 鹿島はこれも何とかしなければならないだろうと、
思われずにはいられない感情が湧いてきた。

 ポール参謀は巴姫とヤンとのテント外側からの、
微かな会話を聞き取ったようで、

 歩哨交代時間ではないが、テントから出て行った。

 ヤンとの会話では歩哨番を替わる様子で、
そのまま歩哨番を引き継ぐ会話が聞こえて来る。

 交代したはずのヤンは、テントに帰ることが無いので、
巴姫とそのまま闇夜の中へ消えたようである。

 テントの中には鹿島とトーマス元帥だけとなり、
鹿島はカントリ国傭兵団の動きを、
コーA.Iと新しく設営した砦からの報告を受けて、
タブレットパソコンに目を向けながらトーマス元帥に、

「攻撃時間は、トーマスと俺との交代時間に変更しようか?」
「そうですね。幸いな事に全てのカントリ国傭兵団は、
既に両国国境を越えたようなので、
バーミーズ国と鉄の国へ戦争仕掛ける正当名目を与えなくてよさそうです。」

「バーミーズ国と鉄の国は明日の朝、
国境を超えてくるかはーーーー疑問だけれど、
国境を超えるのは、恐らく戦況を確認した後だろう。」

「仕掛けてきてほしいですが、そこまで欲張ることは無理でしょうか?」

「状況確認しないで攻め込んでくるほど無謀なら、
組みやすい相手だが、----無理だろう。」

 コーA.Iに連絡を取り合って、
カントリ国傭兵団十万人への攻撃は、深夜二時と決めた。

 鹿島とトーマス元帥は会話を終わらせて、寝袋の中にもぐりこんで行く。

 鹿島は腕の時計が軽く振動して目を覚ますと、
テントの中にはポールだけが寝袋の中にいるだけである。

 ヤン専用だけにした回線でヤンを呼び出し、
「ヤン。巴姫も一緒か?」
「はい。一緒です。」

「なら、朝まで一緒だとまずいだろうから、巴姫殿をテントまで送ってやれ。」

「すみません。こんな時間まで話し込んでしまいました。
巴姫殿をテントまで送ります。」

 ヤンの時間感覚がないぐらいに弾んだ声に思わず、
ヤンの恋は成就したようであると確信したのか、
鹿島はにやけてしまっている。

 無線越しにトーマスとコーA.Iのやり取りが聞こえて、
草原と川原の監視は追加監視衛星に任せたようである。
 
 鹿島はポールの安眠を妨げないように、
タブレットパソコンと暗視装置を手に持って、
テントから出てトーマスの立っている場所へ向かった。

 外には出たが、胸の高鳴りが早くなっているようにも思える。
無口のままトーマスの横に立つと、
鹿島は大きく息を吸うと、ようやく何かを決断した様子である。

「そろそろ始まりますか?」
と、トーマスも暗い顔で、カントリ国傭兵団との戦場方向であろう、
暗い星空の方を見きながら呟いた。

 鹿島は無口のまま、
タブレットパソコンのスイッチを押そうと人差し指を伸ばすと、
決心したはずのその指先は震えている。

 タブレットパソコンのスイッチを押してしまうと、
引き返すことのできない奈落の底に向かう心境に襲われているのだろう。

 これから始まる大惨事は決定しているので、
タブレットパソコンのスイッチを押さなくても、
大惨事は起きてしまうのであると思いながら、
鹿島は自分で命令した責任を確認するうえで、
その大惨事を見なければならない責任があると思いスイッチを押した。

タブレットパソコンには、
バーミーズ国と鉄の国の国境から其々二キロ離れた砦周りに、
テントとかがり火が赤外暗視装置により浮き出てきた。

 深夜二時を知らせる時計が鹿島の左腕に振動を送ってきたと同時に、
監視衛星から殺傷能力の高いレーザー砲が、光を伴った最高点出力短波を、
カントリ国傭兵団が設置したテントとかがり火の周りに照射されたのか、
灰色の画面が真っ白に染まっていく。 
歴史に残る大虐殺が始まってしまった。

 悲鳴は聞こえないが、
確実に十万人のカントリ国傭兵団は消滅してしまったであろう。

 苦痛を味わう時間もなく何も想う暇も無く、
一瞬に灰となり死んでいく者共に、
鹿島は哀れであると同情してしまい涙がほほを伝わり、
同情させられた涙はとどめなくあふれてくる。

 どの神様に懺悔をしようかとの想いが頭の中をよぎると、
長い燃えるような髪の毛少女であるガイア様が浮かんだ。

 力を与えてくれた長い燃えるような髪の毛少女の期待を裏切ってしまい、
歴史に残る魔王とも呼ばれてもおかしくないであろう事に、
失望しているあろうと思わずにはいられない。

 これまでにも期待されて期待に添えなかった事が、
親、兄妹、友達等が走馬灯の様に思い浮かんだ。

 その後で大きく胸を占めるのが、
悲しみ顔でマーガレットとパトラが現れて、
その胸に抱いたまだ見ぬ我が子も浮かんできた。

 マーガレットとパトラそれに子供たちから批判されることがあった場合、
これ以外の行動しかとれなかった無能な男だと、
思われるのが辛いが事実無能者でしかなかった故に、反論もできないだろう。

 鹿島は今までにない罪悪感に襲われながらでも、
この惑星の歴史の中に刻まれる大虐殺を、
残り一生涯魔王と呼ばれる存在になったことを背負い、
無慈悲な大罪であると胸に刻んで、
この後の対応で同じ状態が起きる場合の行動があっても、
魔王と呼ばれようがその罪を鹿島だけのものにしなければいけないだろう。

 北の空を眺めていたトーマスは、鹿島が落ち込んでいるのを承知で、
無理に演技している様なにこやかな顔を向けながら近づいてきた。

「閣下。」
と言って、踏み出した足のままで固まり、凍り付いた状態となっていた。
まるでトーマスの周りの時間が止まったような感じである。

「我が伴侶よ、悲しむ必要はない。ましてや懺悔の必要もない」
 と、トーマスの後ろから声がして、
燃えているような長い髪の毛少女が現れた。

「今回の犠牲がなければ、
バーミーズ国や鉄の国及び塩の国の政情と治安の不安定を招き、
亜人協力国の治安維持も難しかったでしょう。
わずかでも餓鬼道に落ちかけた生存者を残してしまうと、
元カントリ国民族とその周辺国合わせて、
五百万人以上の犠牲者が出たであったろうが、
それを防いだ今回の犠牲者は必要であった。」
と、何時の間にか少女の傍に現れた闇の樹海老樹霊は、
穏やかな顔でほほ笑んだ。

「矢張り私が選んだ伴侶殿は、
六常の仁、礼、信、義、智、絆を持つ人であると確信していたが、
仁の慈愛の心を持つひとには、かなりの負担であったな。
平和と安泰を成す為に苦労させるが、耐えてほしい。」
と言って、細い腕を首に巻いてきて、

「我が伴侶殿よ。大事な人よ。落ち込まないでほしい。
そして、教会の要請と私の生まれ変りに協力してほしい。」
と呟き、赤い微粒子となって飛散して鹿島の体を包み込んだ。

 トーマスは、踏み出した足のままで固まってしまっていたが、
赤い微粒子が鹿島を包み込むと、
何事もなかったようにそのままの体制で足を踏み出した。

「隊長、この結果をバーミーズ国や鉄の国が理解したならば、
必要最低の犠牲で終わるかもしれませんね。」
と、鹿島をいたわる様ににこやかな顔である。

「終わったな。後は明日からのバーミーズ国や鉄の国の動き次第だ。」
と言いながら、「餓鬼道に落ちかけた」との意味を問いかけようと闇の樹海老樹霊を探したが、いつの間にか消えていた。
 
 鹿島の懺悔を隠してくれるように、夜のとばりは闇の漆喰で覆われた。

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