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79巴姫との出会い

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 豚似コヨーテに襲われていた少年達は、恐怖と高揚焦燥感を克服したのか、気持ちは落ち着いてきたようである。

 全員の傷も完治癒された様子で、
無口のままで豚似コヨーテを粗末な囲いの外側に集めだした。

 鹿島達の荷車は、エミューの手綱を荷車に固定してあるためか、
囲いの柵から届く位置でたたずんでいるので、
ポールは、囲いの柵に二台の荷車を固定し終わると、
大人の二人が近づいてきた。

「お助けいただきありがとうご座います。」
と、二人は謙虚に頭を下げた。

「旅のお方のようですが、どちらから来られて、
此れから何処へ行かれるのですか?」
「亜人協力国から商品を持って来ました。
商品を売るために、日出国の都に向かいます。」

「どのような、商品をお持ちですか?」
「エルフ種族の万能薬や、
加工済み果物に酒類とか、陶器製品、それに紙や筆記用具もあります。」

「倒した豚似コヨーテは、どの様になさいますか?」
「それは、ほとんどが、あなた方のものでしょう。」

「倒したのは、ほとんどあなた方です。」
「先に向かって戦っていたのは、皆さんでしょう。
全員の頭割りだと、一人当たり二頭にもならないが、
われら四人分で一頭だけを頂きます。」

「割の合わない計算ですが、あなた方は本当に商人ですか?」
「元々兵士ですが、今回は、一山あてようと商人になりました。」
「あなた方は、商人には、、、向かないと思います。」
「どうして?」
「欲がないのです。」

「本当の目当ては塩です。大量の塩を買って、亜人協力国に帰りたいのです。いま、亜人協力国では、塩が不足していますので、
買値の倍になると聞いたので、塩を買って帰ります。」
「塩の買い付けであるならば、われらは、力になれると思います。」

 少年たちと子供らは、
四人一組となって豚似コヨーテを近くの川原へ引いて行くと、
興奮交じりに川原での豚似コヨーテ解体を始めた。

 少年たちは、解体現場に子供たちを残して雑木林に向かっていった後、
歓声を上げながら、かなりの倒木を引いてきて薪に切断しだした。

 一部の少年たちは、河原の石でかまどを作り出している。

 ヤンとポールも、少年たちのかまど造りを真似して窯造りを始めたが、
少年たちは、鹿島達に近寄り方いのか、
恐怖顔で窯造りを遠巻きに見ているだけである。

 正体不明の四人の男たちとの対応は、
番長姫君と柳生指南役との協議結論では、助けてもらいはしたが、
余りにも人離れした近寄りがたい気迫があり、
番長姫君の知らない異邦人なのは確かであり、
一旦柳生指南役が対応することで話を決めたが、
やることなすことが神がかり的過ぎているとの思いから、
得体の知れない剣技と傷の治療に対しては、高度な対応は必要であり、
矢張り老中に通知した方がよいだろうと再度の協議後に結論を出した。

 解体場から大人の声で、
「蘭丸!来てくれ!」
と聞こえると、先程太ももを齧られていた少年は、
窯造り場から解体場へ向かって走り出した。

 蘭丸と呼ばれた少年は、鹿島達の窯造り場に再び現れて、

「まだ正式にお礼を言ってなかったうえに、
治療費の支払い方法を聞いてないので、
治療費は、如何程なのでしょうか?
そしてみんなの万能傷薬代金をも教えてください。」

「万能傷薬は、見本ですので、無料です。」
「私の治療費は?」
「あれは治療とは、言わないでしょう。赤い微粒子はガイア様の使いで、
ガイア様が、信心深い貴方に救済を与えたのです。」

 蘭丸は、合掌して跪きガイア様へ感謝の言葉を述べた後、
「大壺を持っているのなら、お売りください。」

 鹿島はみんなを見回すが、皆は首をかしげるだけなので、
蘭丸を伴い馬車に向かうとヤンがついてきた。

 鹿島達が陶器類を積んだ荷車に着くと、
男の服装をした番長姫君は、
川の水でほこりに汚れた顔を洗い流し終えたのか近づいてきた。

よく見ると、長身の娘はなかなかの美人であるが、
よく似たタイプのパトラよりも劣るなと鹿島は思った。
ヤンの受ける感じでは違う様子で、ヤンの目はハートマークである。

 番長姫君は、蘭丸が正体不明の四人の荷馬車に向かうのを確認すると、
老中への連絡を伝えるべきと判断しその後を追ったようである。

 番長姫君は荷馬車の脇に着くと、
蘭丸の傷を治した男と自分の傷を治した二人がいた。

 番長姫君は、自分の傷を治療した満願笑顔の男と目が合い、
魚釣りの時に、魚が針に食らいついた時の感動にも似た衝撃を覚えた。

 その感動は、何なのかは理解できなかったが、
わが心の中にあるうれしさの一部だけは理解した。
胸に広がった感動とときめきは理解しがたい様子である。

「何か探し物か?」
「あ!此れは姫君。内臓の塩辛を作りたいのですが、
手ごろな大きさの瓶を探しているのです。
だが、大き目の甕(かめ)はございませんので、
樽を取りに帰ろうかと思っていたとこです。」

 蘭丸は豚似コヨーテの解体中に、
内臓の塩辛が可能であると柳生一門補助指南役からの提案で、
亜人協力国の商人達の持ち物に、陶器類もあるとの報告を聞き、
甕を仕入れる事としたようである。

「それはガラス製ですか?」
「はい。ガラス製の水差しです。」
と、ヤンは水差しを差し出した。

「透明なガラスを初めて見ました。小魚が泳げるぐらいの、
もっと大きなガラス製品はありませんか?」
「お時間をいただけるのでしたら、
一メートル四方の透明な水槽をお届けできます。」
と、ヤンは上気しながら応えている。

 番長姫君は、ヤンの持っている透明の水差しガラスに驚くと、
さらに大きなものさえも製造できるうえに、
届けてくれるとの約束もしてもらえたことで、
大きな水槽であれば、今飼育中の観賞用魚の流通は可能である。

 番長姫君は、俄然このヤンに頼りがいのある感情と人柄に興味がわいた。

 鹿島は蘭丸に、
「姫君とは?」
「姫君は、日出国の王女です。」

「これは姫殿下でおわしましたか?では我らも名乗りましょう。
我らは亜人協力国人で、シン.カジマです。こちらはヤン.リンです。」
「わらわの名は巴である。剣術士らしき亜人協力国人が商人の成りをしての、この国に何用で参ったのだ?」

「名目は、塩製造施設の建設と塩の買い付け目的できましたが、
我らの本当の目的は、知らない海洋民族への興味本位からです。」
「塩の生産工場建設は知っているが、それを知っているのは、
わらわの両親と一部の者たちだけであるが。」

「今日から工事が始まり、機材と共にこの国に参りました。」
「海洋民族への興味とは?」
「船は建造できますが、海の事は全くわからないので、
何かのヒントがないものかと。」

 巴姫は考え込んで、
「エミューを一頭貸してもらいたい。」

 巴姫は蘭丸に何かの指示をしているようで、蘭丸はうなずいている。

 ヤンはエミューに鞍をつけて現れると、エミューの手綱を蘭丸に渡した。

「これは何ですか?」
と、蘭丸は鞍に手を乗せた。

「鞍と言います。乗ってみてください。」

 蘭丸はエミューを跪かせようとエミューの首を抑えるが、
エミューは佇んだままである。

「このエミューは跪かないのです。」
と言って、ヤンは蘭丸の左足を鐙(あぶみ)に乗せて、
蘭丸の身体を後ろから押し上げた。

「右足も鐙に乗せて下さい。右足でエミューのお腹をけると、
左に行きますので、注意してください。
両方同時にけると、真っ直ぐに走ります。」

蘭丸は真っ直ぐに駆け出して行ってしまった。

「あららら~。大丈夫かな?」
と今更ながら、ヤンは蘭丸を心配しだした。

「鞍とは、何の為に必要なのですか?」
「試してみますか?」
とヤンは巴姫を覗き込んだ。

「試せるのか?」
「少々お待ちください。」

 ヤンは二頭のエミューに鞍を設置し終えると、
矢張り巴姫の左足を鐙(あぶみ)に乗せて、
鞍を巴姫の右手でつかませると、

「飛び乗ってください。」
と声をかけながら、
巴姫の腰に手をかけるとすぐさま体を浮かせるように持ち上げた。

 ヤンは、エミューに乗った巴姫の右側に回り、右足を鐙(あぶみ)に乗せて、

「私と並びながら、並走してください。」
と声を掛けて、別のエミューにまたがり巴姫の横につけた。
「お腹を両足で優しく押して下さい。」

 巴姫とヤンは、共に草原に向かってゆっくりと駆け出した。

 鹿島は、ヤンの恋路がうまくいくようにと、祈りながら見送ってあげた。

 巴姫とヤンは、共に草原に並行して進んで行く。

 巴姫は、鞍をつけたエミューにまたがり、
楽々とエミューを操れる感動に浸っていると、
亜人協力国の守り人の噂話を思い出していた。

 守り人かもしれないヤン達に対していろんな疑問が湧いてきた。

 噂の魔物討伐やら、鬼神の如き強さの秘密を知りたくなり、
いろんな質問攻めをしてしまったが、
ヤンは、自慢することなくにこやかな顔で面白おかしく話ししだした。

「どうすれば、ヤン殿のように強くなれるのですか?」
「強くなる目的を持つ事です。」

「ヤン殿の強くなりたい目的は?」
「あなたのようなきれいな方に巡り合ったならば、あなたのような方を守りたいからです。」

あまりにもあっさりした、ストレートの返答に巴姫は胸が高まってしまった。

「わらわが綺麗だと?」
「今まで出会った女性の中で一番のきれいです。」

 巴姫は、こんなことを言われたのは初めてであるので、
なんと返事していいものか頭の中が混乱しているが、
悪い気分ではないし、
心の中では嬉しさのあまり胸のときめきが最高点に達している。

「鞍をつけたエミューは、扱いやすいです。」
 と心の中を隠したくて、話題を変えてしまった。

「亜人協力国に来る機会がございましたら、
次は馬による乗馬をお勧めします。」
「馬とは?」
「私の故郷の動物で、エミューの倍の速さで、
性格はとても荒いですが、最高の気分になります。」

「私は、帆船に乗っているときが、最高に幸せです。」
「帆船とは?」
「海に乗り出す大きな船です。」
「それは、面白そうですね。」

「ヤン殿も、わらわ達と海の向こうに行きませんか?」
「冒険者の心が蘇ります。期間はどのくらいですか?」
「ひと月です。」
「是非にお願いします。どの様な用意をいたしたら、よろしいでしょうか?」

「観光気分で身一つあればよい。準備はこちらでやる!
約束したぞ。三日後に出航します。よろしいですか?」
「必ず、お伺いします。」

 巴姫は、同伴すると言われた言葉にうれしさと、
今迄に感じた事の無い胸に広がる幸せのあまり、
エミューの脇腹を思いっきり蹴ってしまい、
ヤンを置き去りにして駆け出してしまった。

 雑木林に潜んでいたのか、
予期などしなかった三頭の魔獣であるダーホーが突然に現れた。

 エミューも番長姫君も固まってしまった。

 ヤンの反応行動は、速かった。

 ヤンの投げた手榴弾は、
ダーホーに向かっていった巴姫を乗せたエミューへの攻撃を躊躇させた。

 巴姫は、突然、ヤンの爆裂魔法により現実に引き戻された。

 固まってしまった体とエミューを、
ヤンは、巴姫の握っている手綱を掴むと、
ひったくるように引いて逃げだしたことで、何とか生還できた。

 巴姫は、突然の天国から地獄に落ちた状態から救い出された感動の後に、川原に着いてもエミューにしがみついていると、突然に抱きかかえられた。

 ヤン殿に抱きかかえられて運ばれている最中は、
最高の絵も言えぬ心地よさと幸せな気分で、
番長姫君の胸中は、この状態が永遠に続けとの思いだけであった。
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